2019-02-27 農研機構
ポイント
ウェブ公開中の「デジタル土壌図」に、データ表示機能を追加し、本日リニューアル公開しました。北海道、秋田県、および茨城県が公表している土壌の種類に応じた標準施肥量などを、土壌図から各地点の土壌に応じて参照できるようになりました。また、全国の農耕地土壌の透水性や保水性を示す特性値マップを追加公開しました。機能やデータの追加により、農作物の施肥管理や水管理など農業への利用が期待されます。
概要
農研機構は、日本全国の土壌の種類や分布がわかる「デジタル土壌図」を作成し、2017年4月より「日本土壌インベントリー1)」を通じてウェブ配信を行ってきました。この土壌図にはこれまでに8万件を超えるアクセスがあり、営農指導などの現場で広く利用されています。より利便性を高めるために、データ表示機能を強化するとともに新たなデータベースを追加し、本日公開しました。まず、北海道、秋田県および茨城県について、道県が公表している土壌の種類に応じた標準施肥量などのデータを「日本土壌インベントリー」に追加し、「デジタル土壌図」から各地点の土壌に応じた標準施肥量を参照できるようになりました。
また、他のWeb地図サービスとの連携ができるように、2画面表示化など「日本土壌インベントリー」の表示機能を強化しました。また、アプリ(iOS版、Android版)「e-土壌図II2)」には写真等を土壌図上で示すことができるメモ作成機能を追加しました。
さらに、農耕地土壌の透水性や保水性を示す特性値マップを追加公開しました。
日本土壌インベントリー
https://soil-inventory.dc.affrc.go.jp/
関連情報
予算:運営費交付金
問い合わせ先など
研究推進責任者 : 農研機構 農業環境変動研究センター 所長 渡邊朋也
研究担当者 : 同上 上級研究員 高田裕介
広報担当者 : 同上 広報プランナー 大浦典子
詳細情報
社会的背景と経緯
農研機構は、日本全国の土壌の種類や分布がわかる「デジタル土壌図」(縮尺20万分の1相当の全国土壌図と農耕地のみを対象とした縮尺5万分の1相当の農耕地土壌図)を作成し、2017年4月よりウェブサイト「日本土壌インベントリー」を通じて配信を行ってきました。この土壌図にはこれまでに8万件を超えるアクセスがあり、営農指導などの現場で広く利用されています。
一方で、土壌図の公開後に利用者から数多くの要望が寄せられました。特に、土壌の種類ごとに標準施肥量を参照できるようにすること、土壌図を航空写真や地質情報と合わせて閲覧できるようにすること、土壌の理化学性を数値として示した土壌特性値を閲覧できるようにすること、現場で収集したデータを土壌図上に表示できるようにすること等が求められています。これらの要望を基に、「日本土壌インベントリー」をより利用しやすいデータ提供システムへ改良することに取り組んできました。
追加された機能とデータ
1.北海道、秋田県および茨城県の施肥基準(それぞれ「北海道施肥ガイド2015」、「秋田米食味向上栽培マニュアル(改訂版)」、「普通作物栽培基準(含む工芸作物)」)を基に、土壌の種類ごとに定められている標準施肥量などをデータに追加しました。これによりこれらの道県では「日本土壌インベントリー」の土壌図から各地点の土壌に応じた標準施肥量などを参照できるようになりました(図1)。適量施肥は、資材コストの削減や環境負荷軽減につながります。
2.「日本土壌インベントリー」を2画面表示化させることで、国土地理院「地理院地図」で公開している航空写真および国立研究開発法人産業技術総合研究所「シームレス地質図V2」で公開している地質図を土壌図と並べて閲覧できるようになりました(図2)。これにより、様々な情報との比較が簡単にできるようになりました。
3.アプリ「e-土壌図II」には、現場で収集したデータや画像ファイル等を土壌図上で示すことができるように、メモ作成機能を追加しました。「e-土壌図II」上で作成したメモは外部クラウドストレージにも保存することができ、他の機器との間やグループの中で共有することができます(図3)。
4.都道府県、土壌の種類ごとに整理した作土層の透水性や保水性を示す土壌特性値をデータベース化し、農耕地土壌図と結合させることで、これらの特性値マップを作成して公開しました(図4)。これにより、土壌の水持ちの良さなどの性質を見ることができます。
今後の予定・期待
今後は、北海道、秋田県、および茨城県以外の都府県においても、土壌の種類に応じた標準施肥量などを参照できるようにシステム改良に取り組んでいきます。今回追加した、農耕地土壌の透水性や保水性を示す特性値データは、土壌中の水分や温度の状態を推定するために必要な情報であり、気象データや各種モデルと組み合わせることで、広域の土壌水分・温度量の日々の状況を予測することが可能になります。
今後も、様々な土壌特性値マップを作成し順次公開していきます。これらをオープンデータ・汎用形式で提供することにより、土壌情報の2次利用やユーザー独自のシステムでの利用が容易になり、各方面での土壌情報の利用が進むと期待されます。
用語の解説
1)日本土壌インベントリー : 全国デジタル土壌図と農耕地土壌図の閲覧およびデータ提供の機能をもち、また土壌分類の解説や土壌温度などの情報を提供するウェブサイト(https://soil-inventory.dc.affrc.go.jp/)。
2)e-土壌図II : iOSおよびAndroid版アプリ(無料)。iOSまたはAndroidを搭載した端末にインストールすることで、GPS機能を使い利用者の位置情報をもとに「日本土壌インベントリー」が配信する土壌図を検索、表示することができます。
発表論文
1.滝本貴弘、高田裕介、桑形恒男 2017. 土壌温度・水分変動を予測するための都道府県別土壌物理環境データベースの作成. 日本土壌肥料学雑誌, 88, 309-317.
参考図
図1. 北海道の農耕地土壌図にリンクされた標準施肥量
①土壌図の地点をクリックし、②肥料の施用量を見る(稲作)をクリックすると、土壌の種類ごとに定められた標準施肥量を参照することができます。
図2. 表示機能の強化(2画面表示化と外部公開Web地図サービスとの連携)
図3. e-土壌図IIのメモ作成機能の追加
現場で収集したデータや画像ファイル等を土壌図上で示すことができるようなりました。
図4. 農耕地土壌の透水性や保水性を示す特性値マップ
土壌の透水性や保水性を示す特性値マップとして、飽和透水係数マップ、最大容水量(pF0.0)、圃場容水量(pF1.5)、初期しおれ点(pF2.7)、永久しおれ点(pF4.2)のそれぞれに対応する土壌水分量マップ、有効水分容量(pF1.5からpF4.2までの間の水分量)マップを公開しました。なお、pFとは土壌中の水がどの程度の力(毛管力)で保持されているかを示す値で、数値が高くなるほど乾燥していることを示します。また、一般的に有効水分容量は砂質や粘土質な土壌で低く壌質な土壌で高くなります。