隠れた巨大噴火の全体像が明らかに~阿蘇3火砕流の詳細な分布図と地質情報を公開~

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2024-03-18 産業技術総合研究所

ポイント

  • 約13万年前に発生した阿蘇3火砕流の初めてとなる詳細な分布図を公開
  • 約9万年前の「阿蘇4」に隠された九州5県に及ぶ阿蘇3火砕流堆積物の分布範囲を図示
  • 地域の防災対策や国土利用への活用に期待

概要図

阿蘇3火砕流堆積物の分布図 (阿蘇カルデラ周辺部) 凡例は図1を参照

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)活断層・火山研究部門大規模噴火研究グループ 下司 信夫 研究グループ長、宝田 晋治 上級主任研究員、星住 英夫 研究主幹(研究当時)らは、阿蘇3噴火により噴出した大規模火砕流堆積物の分布図を公表・出版しました。産総研 地質調査総合センターのウェブサイトからダウンロードが可能です (https://www.gsj.jp/Map/JP/lvi.html)。

従来の地質図では把握が困難であった火砕流堆積物の詳細な分布、層厚および特徴、日本列島の広域に堆積した火山灰の分布をデジタルデータで整備することで、阿蘇4火砕流堆積物に隠されてその全貌がわかっていなかった巨大噴火である阿蘇3噴火の全体像とその影響の範囲を明らかにしました。過去の巨大噴火の発生履歴・影響の情報は、地域の防災対策や国土利用計画への活用が期待されます。

開発の社会的背景

東日本大震災以降、低頻度ではあっても甚大な災害を引き起こす地質現象が注目されています。巨大噴火は、広大な地域を火砕流により壊滅させ、また日本の国土の全域に及ぶ火山灰災害を引き起こすと予想されます。縄文時代早期にあたる約7千年前以降、日本国内では巨大噴火は発生していません。しかし、地質学的証拠から、このような巨大噴火は将来必ず発生すると考えられています。

巨大噴火の再発に備え、その影響の範囲を予測しておくことは、長期の国土利用計画を策定する上で不可欠です。そのための基礎資料として、地質時代に発生した巨大噴火の噴出物の分布を把握する必要があります。しかし、噴火後の侵食などにより噴出物が失われ、また新しい時代の地層に覆われているため、既存の地質図などでは噴出物の分布を把握することが困難です。そこで、産総研では巨大噴火による火砕流や降下火山灰が到達した範囲を示すだけでなく、地質学的な知見をまとめた解説も加えた「大規模火砕流分布図」を作成しています。

研究の経緯

産総研は、国内の代表的な大規模火砕流堆積物とそれに伴う噴出物の分布情報や噴火推移の情報を蓄積し、令和3年度より「大規模火砕流分布図」として順次公開しています(2022年1月25日 産総研プレス発表)。「大規模火砕流分布図」シリーズは、地下に埋積していたり、遠方では分布面積が狭かったりするために、既存の地質図などでは把握が難しかった巨大噴火の噴出物の分布を示しています。25万分の1という統一縮尺で作成しているため、全国の大規模火砕流堆積物分布図の規模や影響範囲を一目で比較検討できます。比較的精度よく分布調査が行える最終間氷期以降(過去約13万年間)の大規模火砕流堆積物を対象としています。

阿蘇3噴火は、約13万年前に阿蘇カルデラで発生した巨大噴火です。その噴出物の総量は数百立方キロメートルに及び、その規模は日本国内で約13万年前以降に発生した巨大噴火の上位10位以内に入ります。この巨大噴火で噴出した阿蘇3火砕流堆積物は九州中部から北部に広くその分布が知られていますが、その後約9万年前に発生したわが国最大の巨大噴火である阿蘇4噴火の噴出物などに広く覆われているため、分布範囲やその構成物の詳細は明らかにされていませんでした。産総研ではこの隠された巨大噴火の全体像を明らかにするため、阿蘇3火砕流堆積物の分布の情報の集約と現地調査の結果をまとめた「阿蘇3火砕流堆積物分布図」を作成し、公開しました。

研究の内容

「阿蘇3火砕流堆積物分布図」(図1)により、これまで概略でしか明らかにされていなかった大規模火砕流堆積物の詳細な分布が明らかになりました。阿蘇3火砕流堆積物は、噴火地点である九州中部の阿蘇カルデラを中心として九州北部~中部の広い範囲に分布しています。最も遠方まで阿蘇3火砕流堆積物が分布する南東方向では約110 km離れた宮崎平野中央部まで確認できます。このほか北東側では約70 km離れた大分県の別府湾岸付近、北西側では約90 km離れた佐賀県内の有明海沿岸、南西側では約80 km離れた熊本県南部の人吉盆地まで阿蘇3火砕流堆積物が確認できます。しかし、約9万年前に阿蘇カルデラから噴出した阿蘇4火砕流堆積物や平野の堆積物などによる被覆のため、阿蘇3火砕流堆積物の地表における分布は断片的で、噴火の全貌は未解明でした。阿蘇4火砕流堆積物と阿蘇3火砕流堆積物は、堆積物の特徴や含まれる鉱物の違いで区別できます。本分布図では、地質調査で判明した地表における火砕流堆積物の分布に加え、地下に火砕流堆積物が埋没している、あるいは過去に存在していた可能性のある範囲についても、ボーリング資料などから推測し図示することで、実際に阿蘇3火砕流が覆った可能性がある地域を可視化しました。これにより、九州中部から北部にかけての平野部の大部分に火砕流が到達したことがわかります。また、火砕流から舞い上がった阿蘇3火山灰の主な確認地点も図示しました(図2)。阿蘇3噴火により、阿蘇カルデラから800 km以上離れた関東地方や、さらに太平洋の海底でも厚さ数センチメートルを超える火山灰が堆積していることがわかります(図2)。

本分布図は阿蘇3火砕流堆積物の分布のほか、阿蘇カルデラの長期的な活動や阿蘇3巨大噴火の推移、火砕流堆積物の特徴、各地の火砕流堆積物の露頭写真などからなる解説書を加えています(図3)。阿蘇3火砕流分布図とその解説書は、PDFファイルおよびGISデータとして産総研 地質調査総合センターのウェブサイトからダウンロードが可能です (https://www.gsj.jp/Map/JP/lvi.html)。

「阿蘇3火砕流堆積物分布図」で示された大規模火砕流の分布範囲とそれに基づく火砕流の分布復元結果は、阿蘇3火砕流によって壊滅的な影響を被った範囲を示しているため、将来同様の噴火が発生した場合に、どの程度の範囲にどのような影響が及ぶのかを推測する手がかりとなります。軟弱な火砕流堆積物は斜面災害の要因ともなりえるため、その分布情報は土砂災害リスクの評価にも有用です。また、熊本平野では阿蘇カルデラから噴出した火砕流堆積物が重要な帯水層となっています。

図1
図1 阿蘇カルデラ阿蘇3火砕流堆積物分布図(全体)

濃い桃色の領域は阿蘇3火砕流堆積物が地表に露出している範囲を示しており、薄い桃色の領域は阿蘇3火砕流堆積物がそれより新しい堆積物に覆われ地下に分布していると考えられる分布範囲を示しています。阿蘇3火砕流堆積物は、噴火地点である阿蘇カルデラを中心として、熊本県・大分県の大部分、福岡県・佐賀県・宮崎県の一部にまで分布していることが読み取れます。

図2
図2 阿蘇3火砕流に伴う阿蘇3火山灰の分布図
火山灰が降下・堆積したと考えられる領域が日本列島およびその周辺海域を広く覆っています。

図3
図3 阿蘇3火砕流堆積物の産状

阿蘇カルデラ中心から約28 km離れた宮崎県高千穂町の高千穂峡にみられる溶結した阿蘇3火砕流堆積物の露頭。熊本県・大分県の広い範囲をこのような厚い阿蘇3火砕流堆積物が覆いました。高千穂峡は、国の名勝として1934年天然記念物に指定されています。

今後の予定

今後とも約13万年前以降にわが国で発生した巨大噴火による大規模火砕流の分布図を統一基準・統一縮尺で順次作成・公開する予定です。姶良カルデラ入戸火砕流、支笏カルデラ支笏火砕流、阿蘇カルデラ阿蘇4火砕流については公開済です。令和6年度は、巨大噴火が頻発している北海道南部における最大級の火砕流堆積物である洞爺火砕流堆積物(約11万年前)の分布図を公開予定です。

論文情報

掲載誌:大規模火砕流分布図、産総研地質調査総合センター
タイトル:阿蘇カルデラ阿蘇3火砕流堆積物分布図
著者:星住英夫・宝田晋治・宮縁育夫・宮城磯治・山崎 雅・金田泰明・下司信夫

用語解説
阿蘇3噴火
阿蘇火山は、九州中部に存在する日本有数の活火山です。約27万年前から約9万年前までの間に、巨大噴火を4回発生させ、大量の火砕流や火山灰を噴出しました。これらの噴火を古い年代から順に阿蘇1噴火(約27万年前)、阿蘇2噴火(約14万年前)、阿蘇3噴火(約13万年前)、阿蘇4噴火(約9万年前)と呼びます。
火砕流
高温の火山ガスとマグマの破片の混合体が、時速数十~四百キロメートルで流れ広がる現象で、火砕流に覆われた地域は壊滅的な被害を受けます。火砕流にはさまざまな規模があり、大規模火砕流は噴火地点から数十キロメートル以上の範囲を広く覆います。
巨大噴火
およそ百立方キロメートル以上の噴出物が短時間に爆発的に噴出する大噴火。全世界でも数千年に一度程度の頻度でしか発生していません。ひとたび発生すると広大な範囲に壊滅的な被害を与えるほか、成層圏に巻き上げられる大量の火山灰により全地球の気候にも大きな影響を及ぼします。
阿蘇3火砕流
阿蘇カルデラから約13万年前に噴出した大規模火砕流。数百立方キロメートルに及ぶ堆積物が熊本県・大分県を中心とした広い範囲に分布します。火砕流堆積物は阿蘇カルデラから最大約110 km離れた宮崎県南部にまで追跡できるほか、火砕流から舞い上がった火山灰は日本のほぼ全土を覆っています。
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