アルマ望遠鏡、巨大赤ちゃん星のまわりで塩を発見

ad

2019-02-08  国立天文台

アルマ望遠鏡が地球からおよそ1500光年離れた若い星を観測し、その星を取り巻くガスの円盤の中に塩(塩化ナトリウム)が含まれていることを発見しました。年老いた星の大気中では検出されたことがありますが、若い星のまわりで塩が発見されたのはこれが初めてのことです。今回の発見は、ガスと塵の雲の奥深くで生まれる星のまわりの化学反応を理解するうえで重要な成果といえます。

A Star, Sprinkled with Salt

巨大な赤ちゃん星オリオンKL電波源Iの想像図。中心に赤ちゃん星があり、そのまわりをガスと塵の円盤が取り巻いているようすを描いています。星の近くの青白く光っている部分が、今回アルマ望遠鏡によって塩が見つかった領域です。
Credit: NRAO/AUI/NSF; S. Dagnello

nrao19cb1_FITS_V2_SD

オリオンKL領域の近赤外線画像(ジェミニ望遠鏡で撮影)に、アルマ望遠鏡が観測した塩化ナトリウムからの電波の分布を合成した図。塩化ナトリウムが星を取り巻くリング状に分布していることがわかります。
Credit: ALMA (NRAO/ESO/NAOJ); NRAO/AUI/NSF; Gemini Observatory/AURA

米国立電波天文台ジャンスキー・フェローのアダム・ギンスバーグ氏らの研究チームは、アルマ望遠鏡を使ってオリオン星雲の中にある巨大な原始星「オリオンKL電波源I(アイ)」を観測しました。そして、一般的な食塩の主成分である塩化ナトリウムや塩化カリウムが放つ電波をとらえました。

「塩化ナトリウムは死にゆく星の外層部でしかこれまで見つかっていなかったので、若い星のまわりで塩が見つかるとは思っていませんでした。これが何を意味するのか、私たちはまだ完全には理解できていません。とにかく、この星のまわりの環境が特殊だということを示しているのだと考えています。」とギンスバーグ氏はコメントしています。

宇宙にある物質の成分分析をするためには、いろいろな分子などが特有の周波数で放つ電波(輝線)をとらえる必要があります。輝線の強度や周波数は、その物質が存在する場所の温度や密度などによっても変わります。

アルマ望遠鏡の観測では、塩化ナトリウムが放つ複数の輝線がとらえられました。その分析から、塩化ナトリウムが分布する場所が、絶対温度でおよそ100ケルビンから4000ケルビン(マイナス175℃からプラス3700℃)という極端に温度差のある環境であることがわかりました。温度分布を詳しく調べることで、生まれたばかりの星が放つ光によって周囲がどのように温められるのかという謎にも迫ることができます。

「アルマ望遠鏡で得られたデータには、塩化ナトリウムや塩化カリウムの分子が放つ60もの輝線が含まれていました。これは衝撃的でもあり、ワクワクする結果でもあります」と米国立電波天文台のブレット・マグワイア氏は語っています。

研究チームは、星を取り巻く円盤の中で塵の粒子が互いに衝突し壊れることによって、塵に含まれていた塩化ナトリウムや塩化カリウムが飛び出してきたのだろうと推測しています。つまり、塩があるところをつきとめれば、星周円盤の広がりがわかるというのです。

「この手の観測を行うと、星のまわりの円盤とその近くから噴き出すガス流からの電波が混じってしまって区別がつかなくなる、ということがよくあります。しかし今回は、塩を見つけることができたおかげで、円盤の広がりを明確にとらえることができました。そして、円盤の動きや質量も見積もることができるのです。これは究極的には、中心にある星のようすを理解することにもつながります。」とギンスバーグ氏は語ります。

若い星のまわりで塩が見つかったことは、宇宙化学の観点からも面白いといえます。塩には、ナトリウムやカリウムといった金属元素が含まれているからです。もしかしたら、他にも金属元素を含む分子が存在しているかもしれません。もしそうだとしたら、星が生まれる領域に含まれる金属の量も測定できるかもしれないのです。「これまで、こうした研究はまったくできていませんでした。宇宙を漂う金属元素は、たいていの場合は電波を出さないからです」とマグワイア氏はコメントしています。

塩が見つかったのは、中心星からおよそ30~60天文単位(1天文単位は地球と太陽の間の平均距離で、約1億5000万km)の場所でした。研究者の見積もりによれば、ここにある塩の総量は100億kgのさらに1000億倍、あるいは地球の海の質量と同じくらいとされています。

「次の一歩は、他の領域で塩や金属元素を含む分子を見つけることです。見つかれば、原始惑星系円盤の目印として塩がとても有用だということになりますし、見つからなければ今回の天体がとても特殊だということになります。現在構想が進んでいる次世代電波干渉計ngVLAは、塩の研究に適した波長と高い感度とを併せ持っていますから、原始惑星系円盤の研究がさらに大きく進むと思います。」とギンスバーグ氏は期待を述べています。

今回の観測対象となったオリオンKL電波源Iは、オリオン大星雲で非常に活発に星が生まれている場所に位置しており、これまで何度もアルマ望遠鏡の観測対象となってきました [1] 。長年この天体を観測してきたコロラド大学のジョン・バリー氏は、「この天体はおよそ550年前に母体となったガス雲から秒速10kmの速度で飛び出したと考えられます。そして他の星と近接遭遇した際に衝撃波が発生し、これによって円盤内の塵の粒子を砕かれて塩化ナトリウムなどの分子が飛び出した可能性があります。他の巨大な赤ちゃん星のまわりにも普遍的に塩があるのか、あるいは塩は劇的な過去の証拠なのか、これから調べたいと思っています。」と語っています。

論文・研究チーム
この観測成果は、Ginsburg et al. “Orion SrcI’s disk is salty”として、2019年2月7日付の米国の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されます。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
Adam Ginsburg (National Radio Astronomy Observatory), Brett McGuire (National Radio Astronomy Observatory/Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics), Richard Plambeck (University of California, Berkeley), John Bally (University of Colorado), Ciriaco Goddi (Leiden University/Radboud University Nijmegen), Melvyn Wright (University of California, Berkeley)

[1]
例えば、2017年6月13日発表のプレスリリース「産声から探る巨大赤ちゃん星の成長

1701物理及び化学
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました