市街地内では瞬間的には毎秒60から70メートルにも迫る暴風が吹いた可能性
2019-02-06 京都大学
竹見哲也 防災研究所准教授、吉田敏哉 理学研究科博士課程学生、山崎聖太 同博士課程学生、長谷健太郎 同修士課程学生らの研究グループは、大阪市を対象として、2018年9月の台風21号の通過に伴って、実際の街の中心地でどこまで強い風が吹いていたのかをスーパーコンピューターを使ったシミュレーションで調べることに成功しました。
台風21号の通過に伴って、大阪市内の気象台観測点では、観測史上歴代3位となる毎秒47.4メートルもの最大瞬間風速が記録され、大阪市街地では、各所で大きな被害が出ました。市街地内では、局所的には気象台での観測値よりも強い風が瞬間的に吹いていた可能性がありますが、実測値がありませんでした。
そこで、本研究グループは、台風や周囲の気象場のシミュレーションと市街地内の気流のシミュレーションとを組み合わせて、大阪市街地内での瞬間的な風の変動を計算機シミュレーションによって調べました。実際の気象データや御堂筋を中心とした市街地の建物や構造物のデータを組み込んでシミュレーションした結果、大阪中心街では場所によっては瞬間的に毎秒60メートルを超え、毎秒70メートルにも迫る暴風が吹いていたことが分かりました。
本研究成果は、2019年2月6日に、国際学術誌「Scientific Online Letters on the Atmosphere (SOLA)」のオンライン版に掲載されました。
図:本研究のイメージ図
書誌情報
【DOI】https://doi.org/10.2151/sola.2019-005
【KURENAIアクセスURL】http://hdl.handle.net/2433/236284
Tetsuya Takemi, Toshiya Yoshida, Shota Yamasaki, Kentaro Hase (2019). Quantitative Estimation of Strong Winds in an Urban District during Typhoon Jebi (2018) by Merging Mesoscale Meteorological and Large-Eddy Simulations. SOLA, 15, 22-27.
産経新聞(2月6日 24面)に掲載されました。
詳しい研究内容について
―市街地内では瞬間的には毎秒 60 から 70 メートルにも迫る暴風が吹いた可能性―概要
2018 年 9 月に近畿地方を縦断した台風 21 号は、大阪湾沿岸地域や関西空港をはじめ、各地に大きな被害を もたらしました。京都大学防災研究所 竹見哲也 准教授、吉田敏哉 理学研究科博士課程学生、山崎聖太 同博 士課程学生、長谷健太郎 同修士課程学生の研究グループは、大阪市を対象として、台風 21 号の通過に伴って、 実際の街の中心地でどこまで強い風が吹いていたのかをスーパーコンピューターを使ったシミュレーション で調べることに成功しました。
台風 21 号の通過に伴って、大阪市内の気象台観測点では、観測史上歴代 3 位となる毎秒 47.4 メートルもの 最大瞬間風速が記録され、大阪市街地では、各所で大きな被害が出ました。市街地内では、局所的には気象台 での観測値よりも強い風が瞬間的に吹いていた可能性がありますが、実測値がありません。そこで、台風や周 囲の気象場のシミュレーションと市街地内の気流のシミュレーションとを組み合わせて、大阪市街地内での瞬 間的な風の変動を計算機シミュレーションによって調べました。実際の気象データや御堂筋を中心とした市街 地の建物や構造物のデータを組み込んでシミュレーションした結果、大阪中心街では場所によっては瞬間的に 毎秒 60 メートルを超え 70 メートルにも迫る暴風が吹いていたことが分かりました。
本成果は、2019 年 2 月 6 日に国際学術誌「Scientific Online Letters on the Atmosphere (SOLA)」にオン ライン掲載されました。1.背景
2018 年台風 21 号は、近畿地方を縦断し、大阪湾沿岸地域や関西空港をはじめ、各地に大きな被害をもたら しました。この台風 21 号は、近畿地方においてかつて大きな被害をもたらした 1934 年室戸台風や 1961 年第 二室戸台風と似たコースを辿り、大阪市内の気象台観測点では、室戸台風 第二室戸台風に次いで観測史上歴 代 3 位となる毎秒 47.4 メートルもの最大瞬間風速が記録されました。大阪市街地では、建物や家屋の被害、 樹木の被害、飛散物による被害など、各所で大きな被害が出ました。大阪市の市街地のように高層ビルが林立 する中心街では、場所によっては、気象台での観測値よりも強い風が瞬間的に吹いていた可能性があります。 ところが、実際の市街地内でどのくらいの瞬間的な風が吹いていたのかは、実測がないため分かりません。そ こで、コンピューターによる計算機シミュレーションによって市街地の暴風を調べました。2.研究手法・成果
本研究グループでは、実際の市街地での気流を計算機でシミュレーションする技術開発を進めてきました。 複雑な気流の乱れを計算する技術であるラージ エディ シミュレーション(英語の頭文字をとって LES と いいます)というシミュレーションモデルです。市街地の建物や構造物の詳細なデータをこのモデルに取り込 むことで、実際の市街地での複雑な気流のシミュレーションができます。この研究では、大阪市街地の実際の 構造物や建物のデータを LES モデルに組み込み、実際の市街地の中でどういった風が吹くのかをシミュレー ションすることを試みました。また、台風 21 号という実際の気象状況を把握するため、日々の天気予報のた めに使われるような気象予報のための計算機シミュレーションモデルを使って、別に気象のシミュレーション も行いました。気象シミュレーションと市街地の気流シミュレーションとを組み合わせることで、台風 21 号 の通過に伴って大阪市の中心街での風の変動を再現しました。
気象シミュレーションの結果から、台風の通過に伴って、大阪市上空約 300 メートルの高さでは、風速が最 大で毎秒 70 メートル程度に達していたと推定されます。ところが、気象のシミュレーションでは、実際の市 街地の建物や構造物の存在は考慮されておらず、市街地といっても平坦な平野となっています。そこで、本研 究グループが開発した市街地の気流シミュレーションの技術を使います。
図 1 は、実際の建物や構造物のデータを使って表示した大阪市街地での建物高さ (メートル)を示していま す。本研究では、この中から白い長方形で囲った東西 2 km、南北 3 km の範囲(図 2)に絞って、2 メートル 間隔という非常に細かいメッシュの区切りで LES モデルを使って気流のシミュレーションをしました。台風 通過時には、大阪市内では南風が吹いていましたので、南風を想定して市街地内での気流シミュレーションを 行いました。図 2 では、右向きが北の方角を示しており、図中の左側は難波地区、中心には御堂筋があります。
市街地の中では、風が時間的に激しく変動します。その変動のしかたは、場所によって、周りの建物や構造 物の配置や高さが異なるため、大きく変わります。特に高層ビルが多数存在する中心街では、上空の強い風が 地面近くまで吹き降りるという現象が起こります。さらに、大通りや広場があるような場所では、その強い風 が周囲から集まり、特に風が強まる傾向にあります。LES モデルは、こういった現象もシミュレーションして います。図 3 は、図 2 の範囲で見られた最大の瞬間的な風の強さの分布を示しています。数値は、上空約 300 メートルの高さでの風を基準にした場合の比率を意味します。この数値が 1 に近いほど、上空の風の強さと同 じ風が吹いていた、ということになります。この図から、0.8 を超える場所が多数あることがわかります。と ころによっては、0.9 を超えて 1 に迫るような地区もあります。このことから、市街地内では、場所によって、 瞬間的に毎秒 60 メートルを超え 70 メートルにも迫る暴風が吹いていたと推定できます。
台風に伴って、気象条件としては強風が広範囲で吹きます。ところが、市街地内では、周りの建物や構造物 の配置や高さによって、風が大きく変化します。今回のシミュレーションでは、実際の市街地での暴風を推定 し、大都市にはこういった暴風のリスクが潜んでいることが分かりました。
図 1:大阪市の建物高さの分布
図 2:図 1 の白枠を拡大した気流シミュレーションの範囲
図 3:大阪中心街での瞬間的な風の強さ。数値は、上空の基準風速毎秒 70 メートルに対する比率。
3.波及効果、今後の予定
気象シミュレーションと市街地の気流シミュレーションを組み合わせることで、実際の気象状況において実 際の市街地で吹く風を定量的に推定することが可能となりました。市街地内の風は、周囲の建物や構造物の配 置が高さによって大きく変化します。今後は、いろいろな大都市で同様のシミュレーションを行い、都市にひ そむ暴風のリスクを把握することが大切です。
4.研究プロジェクトについて
本研究は、科学研究費補助金 18H01680 および 18K19953 の支援を受けて行われました。
<研究者のコメント>
台風は広域で強風をもたらしますが、都市における身近な空間では、より局所的な周囲の建物や構造物の影 響を強く受けて風が激しく変化します。本研究から、高層ビルが林立する大都市では、台風などの極端な気象 現象に伴って、極めて強い風が吹く可能性があることがわかりました。近年の都市の再開発、将来の気候変動 による台風の強大化といったことを考え、大都市にひそむ暴風リスクを理解し、適切な備えを考える時期にあ ると思います。
<論文タイトルと著者>
タイトル:Quantitative Estimation of Strong Winds in an Urban District during Typhoon Jebi (2018) by Merging Mesoscale Meteorological and Large-Eddy Simulations(2018 年台風 21 号による市街 地内の強風のメソ気象シミュレーションとラージ エディ シミュレーションを融合した定量評価)
著 者:Tetsuya Takemi, Toshiya Yoshida, Shota Yamasaki, Kentaro Hase
所 属:京都大学防災研究所
掲 載 誌:Scientific Online Letters on the Atmosphere (SOLA)
DOI:10.2151/sola.2019-005