2022-09-05 農研機構,宮崎県
ポイント
農研機構と宮崎県はこれまでに共同で、遺伝子選抜により発育性が向上した改良型「みやざき地頭鶏」を開発していました。種鶏1)を段階的に従来型から改良型へ置き換えを進め、今春、全羽の種鶏について改良型への置き換えが完了し、改良型「みやざき地頭鶏」鶏肉の生産・販売を開始しました。これにより、地鶏2)生産農家の生産量の増加が期待できます。
概要
農研機構と宮崎県は、2019年2月に秋田県、岐阜県、および熊本県と共同で、種鶏を特定の遺伝子型で選抜することにより、地鶏の発育性を向上させ、出荷時体重を増加できることを共同で発表しました。
参考:2019年2月18日プレスリリース:遺伝子選抜により、地鶏の発育性が向上
https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nilgs/121553.html
宮崎県では農研機構と協力して、この成果を実用化するため、発育性向上遺伝子型を持つ「みやざき地頭鶏」の種鶏(地頭鶏、白色プリマスロック、および九州ロード)に置き換えた改良型「みやざき地頭鶏」の造成を完了し、その鶏肉販売を本格的に開始しました。
全羽置き換えにより生産者売り上げ増とともに、生肉について3.5%の供給量増加が見込まれ、新型コロナ終息後のみやざき地頭鶏の需要拡大に対する供給体制への寄与が期待されます。
関連情報
予算 : 生物系特定産業技術研究支援センター 革新的技術開発・緊急展開事業「地域戦略プロジェクト」
問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構畜産研究部門 所長三森 眞琴
研究担当者 :
同 高橋 秀彰(現所属:基盤技術研究本部遺伝資源研究センター)
宮崎県畜産試験場 川南支場立山松男、堀之内正次郎
広報担当者 :
農研機構畜産研究部門 研究推進室髙橋 朋宏
宮崎県畜産新生推進局 畜産振興課興梠貴子、津曲明美
詳細情報
開発の社会的背景と研究の経緯
「みやざき地頭鶏」は、宮崎県の特産品として定着し、ブロイラーよりも高値で取引されています。一方、生産基準が雄120日以上、雌150日以上飼育と期間が長く、発育形質の改良が生産者から求められてきました。
2019年2月、農研機構と宮崎県、秋田県、岐阜県、および熊本県は共同で、発育形質と強く関連する遺伝子(コレシストキニンA受容体遺伝子3)、CCKAR遺伝子)の一塩基多型 (SNP)4)による発育性の向上効果を検証し、報告しました。
この成果のなかで、みやざき地頭鶏生産農場2戸に委託して実証試験を行った結果、出荷体重が雄123.5g、雌131.9g増加することを確認しました(図1)。
「みやざき地頭鶏」は、在来種「地頭鶏」および「白色プリマスロック」を両親に持つ雄種鶏と、「九州ロード」の雌種鶏を交配させて作出されています(図2)。宮崎県畜産試験場は、CCKAR遺伝子選抜(目的とするCCKAR遺伝子型を持つ鶏を選ぶこと)の効果を「みやざき地頭鶏」生産農場に波及させるため、実生産に用いる原種鶏(地頭鶏、九州ロード)のCCKAR遺伝子型による選抜を行いました。
研究の内容・意義
1.宮崎県は、「みやざき地頭鶏」生産に用いる「地頭鶏」および「九州ロード」原種鶏をCCKAR遺伝子型により選抜し、種鶏を更新するとともに、改良型のCCKAR遺伝子型を持つ白色プリマスロックの導入を行ってきました。この結果、2022年2月以降、出荷される全ての「みやざき地頭鶏」鶏肉がCCKAR遺伝子の望ましいSNP型を持つ鶏由来のものとなり、本研究の「みやざき地頭鶏」への社会実装が完了しました。
2.2020年9月以降、みやざき地頭鶏ひな供給センターで飼育する種鶏の更新を行い、2021年7月から全ての種鶏が遺伝子型選抜された種鶏となりました(表1)。これにより、生産農家に供給される「みやざき地頭鶏」は、2021年から順次改良鶏に更新されました。
今後の予定・期待
みやざき地頭鶏で従来鶏を改良鶏に置き換えた場合、生産者売り上げ増とともに、生肉について3.5%の供給量増加が見込まれ、新型コロナ終息後のみやざき地頭鶏の需要拡大に対する供給体制への寄与が期待されます。
用語の解説
- 1)種鶏
- 地鶏の生産において、純粋な品種や系統がそのまま市場に出回ることは、ほとんどありません。純粋な品種や系統は「原種鶏」と呼ばれます。原種鶏から、商業鶏作出のために分派させた鶏群が「種鶏」です。遺伝的な改良は、主に種鶏で行われます。多くの地鶏は、複数の種鶏を交配させて作出されています。
- 2)地鶏
- 本成果で使用している「地鶏」は、「地鶏肉の日本農林規格」(平成11年制定。平成27年最終改正)で定義された地鶏を指します。その中で、飼育の対象となるひな鶏、飼育期間、飼育方法、飼育密度が詳細に定められています。
- 3)コレシストキニンA受容体遺伝子(CCKAR:cholecystokinin type A receptor gene)
- コレシストキニンA受容体をコードする遺伝子。ニワトリでは、第4番染色体に座乗しています。コレシストキニンは、食欲を抑制する神経情報伝達を担うペプチドホルモンとして知られています。コレシストキニンの受容体としては、AおよびB受容体が同定されています。このうち、腸管に主に分布しているA受容体は、満腹感を脳に伝えるシグナル伝達を担っています。CCKAR遺伝子の一塩基多型が、どのようなメカニズムで、発育形質に影響を及ぼしているかについて、今後詳細に検討する必要がありますが、食欲や代謝に影響を及ぼしている可能性があります。
- 4)一塩基多型(SNP, Single Nucleotide Polymorphism)
- DNA多型のうち、1つの塩基が、ほかの塩基と置き換わっているものを一塩基多型(SNP: Single Nucleotide Polymorphism)と呼びます。塩基が置き換わることにより、遺伝子の発現量や遺伝子をもとに体内で作られるタンパク質の働きが変化し、発育性などの発現形質に影響を与えることがあります。
発表論文
Horinouchi Shojiroh, Nakayama Hiromi, Ando Tadahiro, Takahashi Hideaki. Practical application of Miyazaki Jitokko chickens selected for a superior allele at a single nucleotide polymorphism site in the cholecystokinin type A receptor gene. The Journal of Poultry Science 58: 12-20. 2021. https://doi.org/10.2141/jpsa.0190127
Horinouchi Shojiroh, Nakayama Hiromi, Takahashi Hideaki. Effect of a single nucleotide polymorphism in the cholecystokinin type A receptor gene on growth traits of the Miyazaki Jitokko chicken. The Journal of Poultry Science 56: 96-100. 2019. https://doi.org/10.2141/jpsa.0180077
参考図
図1 遺伝子選抜の有無による、雄雌別の出荷体重の比較
統計処理によって、農場の効果を補正し、遺伝子選抜の効果を性別ごとに算出しました。その結果、出荷体重が雄雌共に有意に増加しました。図2 みやざき地頭鶏の生産体制表1 みやざき地頭鶏ひな供給センターにおける種鶏の更新割合