2022-06-07 京都大学,科学技術振興機構
水中を泳ぐ、という行動は、身体と流体の複雑な力学的絡み合いの産物です。地球上の生物の大多数を占める微生物の遊泳もその例外ではありません。このような微小遊泳の法則として、変形と遊泳の対応関係を表す遊泳公式が知られています。しかし、物体が柔らかい(弾性体)場合には、変形と遊泳が切り離せないため、これまでの遊泳公式は適用できません。そのため、弾性体の遊泳公式は長年の未解決問題でした。
京都大学 数理解析研究所 安田 健人 日本学術振興会 特別研究員、Clément Moreau 同 研究員と石本 健太 同 准教授らの研究グループは、従来の弾性体の拡張概念である「奇弾性体」が、流体中で自発的に遊泳することを理論的に発見し、その遊泳公式の導出に成功しました。
「奇弾性」は、これまでの弾性体理論では存在し得ないとされてきましたが、生き物のようなエネルギー保存則を満たさない物体には存在することが、ごく近年になって分かってきました。本研究グループは、この弾性体の隠れていた基本的な性質に注目することにより、生き物のように自律的に泳ぐマイクロマシンの基本原理を明らかにしました。本研究成果は、自律的なマイクロマシンの開発と実現に向けた、基礎と応用の両面における貢献が期待されます。
本成果は、2022年6月6日(現地時刻)に米国物理学会の学術誌「Physical Review E」にオンライン掲載されます。
本研究は、日本学術振興会による科学研究費補助金事業「受精ダイナミクスに潜む連続体の数理:実験データに基づいた理論的アプローチ」(若手研究・18K13456)、「微細藻の形態形成と生殖・生態・進化に関する環境連成力学モデルの構築」(学術変革領域研究A 21H05309)、「マイクロマシンの非平衡形状ゆらぎと推進機構」(特別研究員研究奨励費・21J00096)、外国人研究者招へい事業(PE20021)、および科学技術振興機構(JST)「生命ダイナミクスのための流体数理活用基盤」(さきがけ・JPMJPR1921)の助成を受けました。
<論文タイトル>
- “Self-organized swimming with odd elasticity”
- DOI:10.1103/PhysRevE.105.064603
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
石本 健太 (イシモト ケンタ)
京都大学 数理解析研究所 准教授
<JST事業に関すること>
前田 さち子(マエダ サチコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICTグループ
<報道担当>
京都大学 総務部 広報課 国際広報室
科学技術振興機構 広報課