グラフェン光源チップによる赤外分析の新技術を開発

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理論限界も超える性能を安価・小型で実現、新たなバイオ・医療・新物質開発へ

2022-04-19 慶應義塾大学,科学技術振興機構,神奈川県立産業技術総合研究所

グラフェン光源チップによる赤外分析の新技術を開発

慶應義塾大学 理工学部 物理情報工学科の牧 英之 教授と中川 鉄馬 訪問研究員、同大学院 修士課程の志村 惟らの研究グループは、多層グラフェン光源チップによる新しい原理の赤外分析技術を開発しました。本技術は、多層グラフェン光源チップを用いたことで安価かつ小型な赤外分析を可能とするだけでなく、従来のフーリエ変換赤外線分光装置(FT-IR)の空間分解能や理論限界の「回折限界」を超える、極めて高い空間分解能の赤外イメージングを実現しました。

分析技術は、基礎研究や工業分野を始め、近年は疾病や病原体の診断や環境分析といった身近な技術としても重要となっています。その中でも、FT-IRなどの赤外光を用いた分析技術は、最も有名な分析手法の1つであり、物質構造の情報がダイレクトに得られることから、色素などのマーカーを必要としない分析として、化学・材料・環境・バイオなどのさまざまな分野で幅広く利用されています。しかし、現在のFT-IRでは、ハロゲンランプやセラミック光源といったミリメートルオーダーのマクロな赤外光源が用いられていることと、回折限界で知られる理論的な限界が存在することによって、空間分解能は10マイクロメートル程度と低く、可視光のような分解能の高いイメージングや微小・微量分析が困難でした。

今回、最小で500ナノメートル角となる非常に微小な多層グラフェンを用いたチップ上の赤外光源を独自に開発するとともに、グラフェン光源チップに対して分析サンプルをダイレクトに近接させて、赤外分析を行いました。その結果、従来のFT-IR用光源と比べて発光面積が100万分の1という極めて微小な光源であるにも関わらず、市販のFT-IRと同様の赤外分析が可能であるとともに、光源自体に生じる近接場を用いる新たな原理によって、回折限界を超える極めて高い空間分解能(1マイクロメートル)を実証しました。本技術を用いることにより、レーザーなどの大型で高価な赤外光源を用いることなく、可視光並みのイメージングや微量分析が赤外領域で可能となることから、医療・バイオ・新物質開発・環境分析などのさまざまな分野での全く新しい赤外分析技術の創出が期待できます。

本研究成果は、2022年4月18日(現地時間)に米国化学会(ACS)の「Nano Letters」誌オンライン版で公開されます。

本研究は、JST 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム A-STEP 産学共同(育成型) JPMJTR20R4、地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)戦略的シーズ育成事業、科学研究費補助金(16H04355,23686055,18K19025,20H02210)、スピントロニクス学術研究基盤と連携ネットワーク、文部科学省 ナノテクノロジープラットフォーム事業(NIMS微細加工プラットフォーム)などの支援を受けて実施されました。

詳しい資料は≫

<論文タイトル>
“Microemitter-based IR spectroscopy and imaging with multilayer graphene thermal emission”
DOI:10.1021/acs.nanolett.1c04857
<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
牧 英之(マキ ヒデユキ)
慶應義塾大学 理工学部 物理情報工学科 教授

<JST事業に関すること>
星 潤一(ホシ ジュンイチ)
科学技術振興機構 産学連携展開部 研究支援グループ

<KISTEC事業に関すること>
渡部 俊彦(ワタベ トシヒコ)
神奈川県立産業技術総合研究所 研究支援課

<報道担当>
慶應義塾 広報室(澤野)
科学技術振興機構 広報課

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