一次元モット絶縁体において励起子の量子干渉によるテラヘルツ放射に成功~固体の物性制御のための新しい光として活用へ~

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2023-10-13 東京大学

発表のポイント

◆一次元モット絶縁体において、2色のフェムト秒パルスを使って奇と偶の対称性を持つ励起子を生成させると、それらの間に量子干渉が生じることによって、テラヘルツパルスが高効率に放射されることを明らかにしました。
◆奇対称性と偶対称性の2つの励起子が生成する時間差をアト秒(=10-18秒)の精度で調整することによって、放射されるテラヘルツパルスの位相、周波数、振幅を制御できることを実証しました。
◆本手法によって得られる位相可変なテラヘルツパルスは、固体の電子状態や物性を高速に制御するための新しい励起光源としての活用が期待されます。

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2色のフェムト秒パルス励起による位相可変なテラヘルツパルスの放射

発表概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科の宮本辰也助教(研究当時)、尤仕佳大学院生、岡本博教授らの研究グループは、一次元モット絶縁体(注1)である[Ni(chxn)2Br]Br2(chxn:シクロヘキサンジアミン)において、三次の非線形光学効果(注2)を利用して、位相が可変なテラヘルツパルスを高効率に発生させることに成功しました。

テラヘルツパルスとは、周波数が約1テラヘルツ(1012ヘルツ)、周期が約1ピコ秒(10-12秒)であり、ほぼ1周期だけ振動する電磁波を指します。このテラヘルツパルスは、固体中の素励起(注3)を調べるために幅広く利用されています。最近では、テラヘルツパルスの高強度化が可能となり、それを用いた固体の物性制御に関する研究も盛んに行われるようになってきました。テラヘルツパルスは、通常、反転対称性が無い透明な結晶にフェムト秒パルス(注4)を照射したときに生じる二次の非線形光学効果を利用して発生させます。しかし、この方法では、発生するテラヘルツパルスの位相や周波数を制御することが難しいという問題がありました。

研究グループは、[Ni(chxn)2Br]Br2に2色のフェムト秒パルスを照射して奇と偶の対称性を持つ2つの励起子(注5)を生成すると、これらの励起子間に量子干渉(注6)が起こり、強いテラヘルツパルスが発生することを見出しました。この手法において、2色のフェムト秒パルスの周波数を適切に選択し、それらを試料に入射する時刻の差をアト秒の精度で調整することにより、テラヘルツパルスの位相、周波数、振幅を精密に制御できることを実証しました。さらに、この手法を利用して、一次元モット絶縁体の励起子の位相緩和時間(注7)を評価し、その値が通常の無機半導体と比較して極めて短いことを明らかにしました。

本手法を用いて得られる位相可変なテラヘルツパルスは、固体の電子状態や物性を高速に制御するための新しい励起光源として利用されることが期待されます。

本研究の成果は2023年10月13日付けで、米国科学誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

論文情報

〈雑誌〉 Nature Communications
〈題名〉 Terahertz radiation by quantum interference of excitons in a one-dimensional Mott insulator
〈著者〉 Tatsuya Miyamoto, Akihiro Kondo, Takeshi Inaba, Takeshi Morimoto, Shijia You and Hiroshi Okamoto
〈DOI〉 10.1038/s41467-023-41463-8
〈URL〉 https://doi.org/10.1038/s41467-023-41463-8

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