55 億光年先の宇宙で最大級のモンスター超銀河団を発見

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2023-01-19 国立天文台

国立天文台と広島大学を中心とした研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラを用いた大規模観測から、約 55 億光年先の宇宙において、巨大な超銀河団を発見しました。およそ満月 15 個分の天域にまたがって銀河とダークマターが強く密集しているだけでなく、少なくとも 19 個の銀河団が付随しており、50 億光年以遠の宇宙で確認された中では最大の超銀河団です。

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55 億光年先の宇宙で最大級のモンスター超銀河団を発見

図1:すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラが捉えた超銀河団領域の3色合成画像。中央画像の等高線は銀河の密度分布を、淡赤色はダークマターが広範囲に渡ってとりわけ強く密集する領域を示しています。番号が付記された四角は超銀河団に付随する銀河団の位置を示しています。周囲のパネルは、これら 19 個の銀河団の拡大図で、銀河団でよく見られる、赤い銀河が群れ集まる様子が捉えられています。左上の満月は、超銀河団の領域と比較した場合の、満月の見かけの大きさを表しています。(クレジット:国立天文台)


無数の星やガスの集合からなる銀河、さらにその集合体で成り立つ銀河団は宇宙最大の自己重力系として知られています。しかし宇宙にはこの銀河団がさらに集まってできた超銀河団という巨大構造が存在します。超銀河団は約 100 メガパーセク(天の川銀河の約 500 倍)に渡って広がっている一方、定義そのものもまだ曖昧で、その正体や内部で何が起こっているかなど、多くの謎に包まれています。実のところ、天の川銀河もおとめ座超銀河団と呼ばれる超銀河団の内部に位置しており、さらに周辺の複数の銀河団と超銀河団とともに、より大きなラニアケア超銀河団を構築しています(注1)。したがって、超銀河団は私たちの住む近傍宇宙の成り立ちを明らかにする上で非常に重要な研究対象といえるでしょう。
すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム, HSC)を用いた大規模探査(すばる戦略枠プログラム)は満月の見かけの大きさの約 4400 倍に相当する広範囲を 100 億光年以遠のかなたまで観測することに成功しています。当プログラムから得られる高品質な画像データは、未知の超銀河団を探すのに現時点で最適のリソースです。
今回、研究チームは過去に同チームによって発見された 100 天体近くの超銀河団候補(注2)の中から、密度超過を示す範囲が最も広い天体に対して星の総質量とダークマターの分布を調べました(注3)。その結果、3つのダークマター密集領域を中心に、少なくとも 19 の銀河団で構成された超銀河団構造を検出しました(図1)。
宇宙論的シミュレーションとの比較から、この超銀河団は太陽質量の 10 の 16 乗倍のダークマター質量を持っていることが示唆されました。これはおとめ座超銀河団のおよそ 10 倍に匹敵します。さらに、その直ぐ外側にも超銀河団相当の巨大構造が2つ確認されており、近傍宇宙最大のラニアケア超銀河団のような超巨大構造の前身である可能性があります。
本研究の主著者である嶋川里澄特任助教(国立天文台ハワイ観測所)は「実のところ今回ターゲットにした約 55 億光年先の宇宙で、すばる望遠鏡の戦略枠プログラムによる探査データからこのような超銀河団が見つかる確率は五分五分でした。今後は近く稼働予定のすばる望遠鏡の超広視野多天体分光器 PFS や、ユークリッド宇宙望遠鏡を使って、3次元構造や内部の銀河形態などに迫っていきたいと思っています」と語ります。
本研究成果は英国の王立天文学会誌に 2022年11月26日付で掲載されました(Shimakawa et al. “King Ghidorah Supercluster: Mapping the light and dark matter in a new supercluster at z = 0.55 using the subaru hyper suprime-cam“)。
注1:我々の住む天の川銀河はおとめ座超銀河団の内部、およびその中核を成すおとめ座銀河団の外れに位置していることが知られています。超銀河団の定義自体が曖昧である現状も相まって、超銀河団をさらに包み込む巨大構造も超銀河団と呼ばれるケースがあります(天文学辞典)。
注2:”Subaru Hyper Suprime-Cam excavates colossal over- and underdense structures over 360 deg2 out to z = 1“, Shimakawa et al, 2021, MNRAS
注3:ダークマターの分布は、弱重力レンズ効果を利用して求めました。弱重力レンズ効果は、遠方の銀河から放たれた光が、手前にある銀河団など強い重力場をもつ領域を通過する際に光路が曲げられることで、遠方銀河がゆがんだり増光されて見える現象(重力レンズ効果)のうち、その程度が比較的小さい場合を指します(天文学辞典)。本研究で発見された超銀河団は、50 億光年以遠の宇宙で、これまでに弱重力レンズ解析によって確認された中では最大の構造です。

すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

1701物理及び化学
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