日本が命名した113番元素「ニホニウム」 ~新元素発見までの道のりとこれから~

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2020-06-11 科学技術振興機構

日本の技術を結集しニホニウムの発見に貢献した装置、GARIS(ガリス)と研究者たち※画像提供:理化学研究所

2016年11月、113番目の元素「ニホニウム」が、新元素として国際的に発表された。発見・命名したのは、理化学研究所(理研)の森田浩介さん(現、仁科加速器科学研究センター 超重元素研究開発部 部長)率いる研究チーム。アジアでは初めての快挙だ。とはいえ、新たな元素の探索を計画してから発見、認定、そして命名に至るまでには、実に15年近い時間が必要だった。それほど長い時間をかけて、新しい元素の発見を目指したのはなぜだったのか。「ニホニウム」発見に至る道のりと今後について、現場を預かる理研の研究リーダー2人に聞いた。

「元素」って何だろう?

「元素」とは何だろう。この世界に存在するすべての物質は「原子」というごく小さな粒でできている。原子を直接目で見ることはできないが、電子顕微鏡を使えば観察することができる。鉛筆の芯は炭素の原子、水は1個の酸素の原子に2個の水素の原子が結合した水分子からできている。これら、物質をつくる元になっているモノを「原子」、そして「水素」「炭素」「酸素」のような「原子」の種類(グループ名のようなもの)を「元素」という。

原子は陽子と中性子、そして電子からなり、原子が持つ陽子の数を、その原子の原子番号という。※資料提供:理化学研究所

原子の構造を詳しく見ると、中心には陽子と中性子からなる「原子核」があり、その周りを陽子と同じ数の電子が回っている。原子核の陽子の個数を原子番号といい、陽子が1個なら原子番号1番の水素、2個なら2番のヘリウムという具合で、113番のニホニウムの原子核は113個の陽子を含むということになる。

なお、陽子と中性子は最高性能の電子顕微鏡を使っても観察するのが難しいほどに小さく、電子にいたってはあまりに小さすぎるため、観察できるような構造を持っているかどうかさえ分かっていない。

「見つける」から、人工的に「作る」時代へ

元素は自然界に存在するものばかりではなく、実は人工的に作られたものもある。

酸素や水素をはじめ、自然界に存在する元素は94種類。原子番号1の水素から94のプルトニウムまで、天然に存在することが確認されている。金や銀、鉄など一部のものは有史以前からその存在が知られていた。それ以外のものは主に18世紀から19世紀のヨーロッパであいついで見つかり、1925年までにはほとんどすべての天然元素が知られるようになった。天然に存在する元素でも、発見より先に人類が作りだしたものもある。原子番号43のテクネチウムはその一例で、今から80年ほど前に人類が初めて人工的に作り出した元素だ。

元素周期表:元素を原子番号の順に左から右に、性質の近いもの同士が縦に並ぶように配置した表。ニホニウムに続く、新たな日本発の元素が掲載される日を楽しみにしたい。※資料提供:理化学研究所

「新しい元素を作るということは、これまでに確認されていない数の陽子を持つ新しい原子核を作るということです。たとえば、今はまだ報告されていない120番の元素を見つけようとするなら、120個の陽子を持つ原子核を人工的に作ることになります」と理研仁科加速器科学研究センター・超重元素合成研究チームリーダーの羽場宏光さんが説明してくれた。

理研 仁科加速器科学研究センター・超重元素合成研究チームリーダーの羽場宏光さん

計算や実験を重ねて新しい原子核を生み出し、その存在を証明できれば、国際機関から正式に承認され、発見者はその元素に名前をつけることができる。

森田さん率いる理研のグループが113番元素の発見者であると認められたのは、2015年12月31日のこと。そこで、理研は「ニホニウム」の名前と元素記号「Nh」を国際機関に提案。2016年11月にその提案が採用された。ヨーロッパとアメリカ以外の国で命名された元素は「ニホニウム」が初めてだ。

ニホニウムは亜鉛+ビスマスから誕生

113番元素であるニホニウムは、原子番号30の「亜鉛」と、83の「ビスマス」の2種類の原子核をひとつにくっつける(融合させる)ことによって作られている。それだけ聞くと単純な方法のように思えるかもしれないが、加熱などの化学反応では原子核同士を融合させることはできない。原子核をくっつけるには原子核同士を衝突させる必要がある。

原子番号30の亜鉛を83のビスマスに衝突させ、113個の陽子を持つ原子核の合成を目指した。※資料提供:理化学研究所

ところが、原子核は1兆分の1センチと、とても小さいため、いくら狙ってもめったに衝突は起こらない。原子核を衝突させるためには、融合が起こるようなちょうどよい速度で、できるだけたくさんの原子核を標的に当てる必要がある。

113番元素を合成する実験では、理研に設置されたRILAC(ライラック)という大型の線形加速器を使った。RILACは大きさが数十メートルもあり、たくさんの原子核を一度に加速して強力なビームを作ることができる。今回の実験では、亜鉛の原子核をビスマスに1秒間に2兆5000億個照射した。

「あまりに多くの粒子を照射するので、ビスマスは熱エネルギーで一瞬のうちに溶けてしまいます。そこで、直径30センチの円盤の外周に薄い膜状にしたビスマスを用意して、その円盤を毎分3000回転で回すことによって、同じ場所に大量の照射を続けないよう工夫しました」と理研仁科加速器科学研究センター・超重元素分析装置開発チームリーダーの森本幸司さんが、具体的な実験方法について教えてくれた。

線形加速器RILACは、多くの原子を加速してビームを作ることができる。※画像提供:理化学研究所

生成確率は100兆分の1

1秒間に2兆5000億個もの亜鉛を照射したとしても、衝突して113番元素ができる確率は100兆分の1だという。RILACは日本の技術を結集して作られ、世界最高のビーム強度を誇る。もし、1秒間に照射できる数がもっと少なければ、113番元素ができるまでには、一体どれだけ時間がかかっていたことだろう。

さらに、113番元素がせっかくできても、同時にできるその他の無数の粒子に埋もれて、そのままでは検出することができない。そこで活躍したのが、113番元素だけを選り分ける、GARIS(ガリス)という装置だ。

GARISは4つの大きな電磁石からなり、磁力を使って粒子の軌道を変えることができる。その際重要なのが粒子の質量と電荷だ。作られた113番元素の質量は一種類だが、電荷はバラバラなので軌道を決定できない。しかしGARISの中にヘリウムガスを詰めると、113番元素イオンがガスの中を進む際、ヘリウムと衝突を繰り返しながら電子のやり取りをし続けるため、電荷がある平均値で一定になることがわかった。これにより、113番元素の軌道が定まり、検出器へ導くことに成功した。

GARISは磁力を使って、目的の原子核だけを検出器に届ける役割を果たす。※画像提供:理化学研究所

忍耐と信念の575日間、衝突回数は400兆回

113番元素を作る実験は、24時間体制で行われ、亜鉛ビームの照射時間は575日間に及んだ。亜鉛とビスマスの衝突回数は実に400兆回。しかし、作られた113番元素はわずかに3個だけだった。新しい元素の合成はこれほどに難しい。

「原子核を衝突させる速度はこれで合っているか、実験装置はすべて正しく動いているか。忍耐が必要でしたが、実験者すべてが、自分たちの実験は正しい、待っていれば必ず見つかるはずだという信念を持っていました」(森本さん)

自信を持てた理由のひとつは、113番元素の合成に着手する前に、同じ装置で108番から112番までの元素を合成できていたことだ。その当時、107番~112番の元素はドイツが先行して発見していたものの、理研チームも108番から112番を自分たちの装置で再現に成功。しかも、日本の装置はドイツのものより性能が高いと確信していたという。

さらに、アジア初の新元素を誕生させるという大きな目標があったことや、10年~20年かかる研究に対する周囲の理解や支援も、チームの大きな支えだったと羽場さんは振りかえる。

新元素発見に挑む森田さん(上段左から3番目)と研究当時の森田グループのスタッフの皆さん。1列目右端が羽場さん、その左隣が森本さん。※画像提供:理化学研究所

次は、119番、120番の発見だ!

現在、理研では、未報告の119番元素や120番元素の合成への挑戦が始まっている。例えば、119番は、96番の「キュリウム」に23番の「バナジウム」を衝突させて合成する計画で、ビームを作るための線形加速器と、原子核を選り分けるGARISの改良も既に終わっている。ニホニウムの実験と大きく異なるのは、アメリカのオークリッジ国立研究所との共同研究である点だ。

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