2022-09-05 京都大学
下田景士 産官学連携本部特定准教授、内本喜晴 人間・環境学研究科教授、廣井慧 高輝度光科学研究センター博士研究員、尾原幸治 同主幹研究員、大石昌嗣 徳島大学准教授の研究グループは、大型放射光施設SPring-8のBL04B2を利用した構造解析を行い、リチウムイオン二次電池(Lithium-ion battery, LIB)のリチウム過剰系層状酸化物(Li-rich layered oxide, LLO)正極において、2種類の性質の異なる支柱を有する低結晶相が形成され、多量のリチウムイオンの脱離挿入を実現し、高い充放電特性を示すことを明らかにしました。
LIBは、ロッキングチェア型電池とも言われており、リチウムイオンが正極と負極を行き来することで充放電します。従来の正極材料は、充放電時に層状構造からリチウムイオンのみが脱離挿入し、材料の骨格構造が変化しないため可逆性の高い優れたサイクル特性を示します。しかし、高容量化を目指して多量のリチウムイオンを脱離すると、骨格構造を保つことが困難となり、サイクル劣化の原因となります。高容量正極材料として、LLOは従来の正極材料よりも多量のリチウムイオンを含有し、また多量のリチウムイオンを脱離挿入できますが、その高容量を実現している構造メカニズムの詳細はわかっていません。本研究グループは、放射光を利用した詳細な構造解析を行うことにより、遷移金属イオンによって形成される2種類の支柱がLLO電極の初期充電後に存在することを突き止めました。一方の支柱は既に知られているもので、層状構造を支える代わりにリチウムイオンの拡散を阻害してしまいます。もう一方の支柱はリチウムイオン欠乏時にのみ現れるため、結晶構造の安定化と容易なイオン拡散を両立することができます。後者の支柱、「アダプティブピラー」こそが、LLOの高充放電容量を実現する鍵であることがわかりました。
この成果によってリチウム過剰系層状酸化物の更なる高性能化に指針が示されました。今後、アダプティブピラーの働きを最適化することによって、より高性能で、かつ安価なLIBの開発に結びつくことが期待されます。
本研究成果は、2022年9月2日に、国際科学雑誌「small」のオンライン版に掲載されました。
図:新規層状構造の安定化に寄与する2種類の支柱。これらの支柱はリチウムイオン濃度に対して異なる応答を示す。支柱は遷移金属元素がリチウム層に漏れ出すことによって形成される。
研究者情報
研究者名:下田 景士
研究者名:内本 喜晴