身近な塩で超純良ウラン超伝導物質の育成に成功! ~次世代量子コンピューターへの応用に期待~

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2022-07-29 日本原子力研究開発機構

【発表のポイント】

  • ウラン化合物であるウランテルル化物 (化学式UTe2) は、次世代量子コンピューターへの応用が期待されるトポロジカル超伝導体の候補物質です。
  • 超伝導性能の向上のために、純良な単結晶が必要です。世界中の研究者がUTe2単結晶育成に取り組んでいますが、機能の障害となるわずかな元素欠損を取り除くことができませんでした。
  • どこにでもある身近な塩を使った結晶育成法を考案し、元素欠損のない純良な結晶を得ることに成功しました。
  • 結晶の純良化により超伝導性能が向上し、量子コンピューターへの応用が期待されるトポロジカル超伝導の研究が加速します。

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:小口正範、以下「原子力機構」という。)先端基礎研究センター強相関アクチノイド科学研究グループの酒井研究主幹らは、次世代量子コンピューターへの応用が期待されているトポロジカル超伝導物質候補であるウラン化合物の新しい結晶育成法を考案し、結晶の大幅な純良化と超伝導性能の向上に成功しました。

ウランテルル化物 (化学式UTe2) は、米国の研究グループが2019年に超伝導を報告して以来、国際的に大きな注目を集めています。それは、トポロジカル超伝導体(1)として期待される新しいタイプの超伝導体であったからです。しかし、従来の結晶育成法では、結晶の育成中に生じる元素欠損(2)をどうしても取り除くことができませんでした。超伝導体では、わずかな元素欠損でも、その性質に大きな影響が出るため、研究を進める上で大きな障壁となっていました。

本研究では、従来とは異なる、まったく新しい溶融塩フラックス法(3)という結晶育成法によって、元素欠損のない超純良な結晶を育成することに初めて成功しました。問題の解決の鍵は、我々が日常生活で慣れ親しんだ「塩」でした。

超伝導の本質を調べるために、単結晶の純良化は、極めて重要です。本研究は、トポロジカル超伝導候補物質であるウラン化合物の研究を加速させ、量子コンピューター(4)に必要な新規物質開発に寄与します。

本研究の成果は、2022年7月29日(米国時間)に米国物理学会誌「Physical Review Materials」にオンライン掲載予定です。

【これまでの背景・経緯】

超伝導は、物質の電気抵抗がゼロとなる現象です。送電や蓄電、強力な電磁石などへの応用は、省エネルギー社会に欠かせません。最近は、量子コンピューター素子としても注目されています。通常、超伝導は、図1上図のように電子が2個ずつスピン(5)を逆向きに打ち消し合うペア (電子対) を組むことで起こりますが、ごくまれに、図1下図のように、同じ向きのスピンをもった電子対を生じることがあります。このようなスピンをそろえる超伝導は理論的にトポロジカル超伝導体候補として注目されています。この新しいタイプの超伝導物質は、まだ数例しか見つかっていないのですが、面白いことに、ウラン化合物で候補物質が次々と見つかって、物性物理学の最前線となっています。

図1 超伝導ペア

図2 (左) UTe2の結晶構造 (右) ウラン元素欠損の概念図

そのような超伝導候補の一つが、ウランテルル化物 (化学式UTe2) です。結晶構造を図2左図に示します。2019年に米国国立標準技術研究所(NIST)とメリーランド大学の研究グループにより超伝導が発見[1]されました。これまでUTe2の単結晶は、化学輸送法という方法で作られてきました。この方法では、温度差や原料の仕込み量など合成条件の最適化が難しく、当初から、UTe2の超伝導研究において、単結晶の品質が問題となっていました。それは、研究グループごとに、超伝導転移温度や超伝導特性に、大きな「ばらつき」が見られたからです。今回の我々の成果に繋がった最初の重要なステップは、このばらつきの原因が、ウラン元素の欠損である、と気づいた [2] ことでした。(概念図を図2右図に示しました。このことは、2022年2月に我々の研究グループが原著論文として報告しています。)

【今回の成果】

本研究では、UTe2のウラン元素を欠損させない新しい単結晶育成方法を考案しました。まず合成条件を単純化できるフラックス法を使うことに決めました。フラックス法とは結晶の育成方法のひとつで、溶液から結晶を育成する手法です。水に溶かしたミョウバンや食塩の結晶育成が、その身近な例です。理科の自由研究などで実験したことがあるかもしれません。

「水」の代わりに、塩化ナトリウム (NaCl) と塩化カリウム (KCl) とを混ぜた「塩」を用いました。それぞれの塩の融点は約800℃と高いのですが、このように混ぜると、約650℃まで下がります。この「塩」と、UTe2原料であるウランやテルルをいろいろな比率で溶かして、高温950℃からゆっくりと冷やしました。これを溶融塩フラックス法といいます。この方法では、比較的単純に合成条件を最適化することができます。合成手順を、図3に示しました。熱処理をした後にできた「塩とUTe2の塊」から「塩」を水で洗い流すと、図4のように単結晶を取り出すことができます。

図3 溶融塩フラックス法による単結晶育成手順

さまざまな混合比で単結晶育成を試した結果、超伝導転移温度は、従来の方法では平均的に1.8ケルビン程度であったものが、2.1ケルビンを超える単結晶が安定して得られるようになりました。同時に単結晶品質の指標である電気抵抗の残留抵抗比(RRR)(6)も、これまでの最高値88を大きく超えて1000という桁違いに大きな値に到達しました(図5)。このことは、これまで問題となっていたウラン欠損を限りなく取り除いたことを意味します。超伝導の本質を調べるために単結晶の純良化は極めて重要で、溶融塩フラックス法が、その決定打となったのです。

図4 単結晶を取り出した様子

図5 UTe2単結晶の比抵抗率の温度依存性

【今後の展望】

本研究で考案した単結晶育成法は再現性が良く、原料混合比や溶融塩の量を同じにすれば、純良単結晶が安定して得られます。このことは、超伝導の本質に迫る実験研究を大きく後押しします。本研究は、次世代量子コンピューターへの応用が期待されるトポロジカル超伝導の基礎研究を加速させ、新規物質開発に寄与します。

【論文情報】

雑誌名:Phys. Rev. Mater. (2022).
タイトル:“Single crystal growth of superconducting UTe2 by molten salt flux method”
(溶融塩フラックス法による超伝導UTe2の単結晶育成)
著者名:H. Sakai, P. Opletal, Y. Tokiwa, E. Yamamoto, Y. Tokunaga, S. Kambe, and Y. Haga

【参考文献】

[1] “Nearly ferromagnetic spin-triplet superconductivity”, S. Ran, C. Eckberg, Q.-P. Ding, Y. Furukawa, T. Metz, S. R. Saha, I.-L. Liu, M. Zic, H. Kim, J. Paglione, and N. P. Butch, Science 365, 684 (2019).

[2] “Effect of uranium deficiency on normal and superconducting properties in unconventional superconductor UTe2”, Y. Haga, P. Opletal, Y. Tokiwa, E. Yamamoto, Y. Tokunaga, S. Kambe, and H. Sakai, Journal of Physics: Condensed Matter 34, 175601 (2022).

[3] “Single thermodynamic transition at 2 K in superconducting UTe2 single crystals”, P. F. S. Rosa, A. Weiland, S. S. Fender, B. L. Scott, F. Ronning, J. D. Thompson, E. D. Bauer, and S. M. Thomas, Communications Materials 3, 33 (2022).

【助成金の情報】

本研究の一部は、日本学術振興会科研費JP16KK0106、JP19K03726、JP20H00130、JP20KK0061、JP20K20905の助成を受けたものです。また、一部は原子力機構の萌芽研究開発制度の助成を受けて実施しました。

【用語の説明】

(1) トポロジカル超伝導体
通常の超伝導では、電子がペアを作って起きます。このペア電子状態が安定に起こるために通常のバラバラな電子状態との間に、エネルギーギャップが開きます。トポロジカル超伝導体では、物質内部ではこのようなギャップが開いている一方、物質表面において、ギャップが閉じた状態が現れると理論的に予想されています。このような特異な表面電子状態は、まだ実験的に存在が確認されておらず、世界中で物質探索や表面状態検出のための実験がなされています。

(2) 元素欠損
結晶格子の中から元素が欠落している状態。ただし、この状態を決定するのは単純ではありません。例えば、ABという化合物の場合、化学組成がA:B=1:1からずれていることがわかったとしても、これは相対比なので、Aが欠損しているのか、Bが欠損しているのかは、明らかではありません。または、AかBの欠損ではなくて、余分にAまたはBが入り込んでいるのかもしれません。単結晶を用いたX線構造解析などで詳細に調べて、初めて欠陥構造について知ることができるのです。UTe2の場合ウランが欠損していることがわかりました。

(3) 溶融塩フラックス法
溶融塩として、今回塩化ナトリウム (NaCl) と塩化カリウム (KCl) とを1:1で混合したものを用いました。NaClもKClも、単体では融点800℃程度ですが混ぜると融点は650℃まで下がって、ウランやテルルをよく溶かす融剤(フラックス)となります。食塩の水溶液をゆっくり冷却すると、食塩の単結晶が得られるように、UTe2の溶けたフラックスをゆっくり冷却することで単結晶が得られます。

(4) 量子コンピューター
従来のコンピューターでは、「0」か「1」を示す最低単位をビットと呼んで、情報を処理してきました。このビットの代わりに、「0」と「1」とを重ね合わせた状態、言い換えると、50%の確率で「0」と「1」になる状態、という量子ビットを用いて高速並列計算を実現する新しいコンピューターです。このような量子ビットとして、超伝導素子を使う研究が進んでいます。

(5) スピン
電子がもつ量子力学的な重要な自由度の1つであり、電子の自転運動から生じる微視的磁石に例えられます。

(6) 残留抵抗比(RRR)
金属の純度を測る指標で、室温の電気抵抗値を極低温での値で割って比率にしたもの。超伝導体の場合、超伝導転移温度までの電気抵抗の温度依存性から予測した0 ケルビンでの値を使うことが多い。不純物や欠損が少ないほど、大きな値を示します。

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