日本初!放射線測定器のJIS登録試験所が誕生~放射線測定の信頼性確保が大きく前進~

ad

2022-06-23 日本原子力研究開発機構

【発表のポイント】

  • 放射線はその種類とエネルギーによってふるまいが異なるため、日本産業規格(JIS)では、その種類ごとに、幅広いエネルギー範囲で放射線測定器の試験を求めています。原子力機構の放射線標準施設棟(FRS)は、これに応えられる世界でも最大規模の照射施設です。
  • 今回、これまでに開発してきた照射技術を活用して試験結果の正しさを精密に評価する方法など開発し、JISに準拠したエネルギー特性試験の実施方法を確立したことで、日本初の放射線測定器のJIS試験が可能な試験所として登録されました。
  • これにより、公的な証明書に基づいて性能を客観的に証明し、「信頼性」という付加価値を製品に与えることが可能となりました。これは、ユーザーに信頼される製品の創出につながるとともに、放射線測定器のJISマーク表示化に向けた大きな第一歩となります。
  • 放射線測定器の性能が公的に証明されることを通じて、研究開発、医療、工業、原子力分野などの放射線を取り扱う施設や、福島などの廃炉作業等における放射線測定の信頼性がさらに高まり、安全・安心な社会の実現につながることが期待されます。

概要資料:日本初!「放射線測定器のJIS登録試験所」が誕生 -放射線測定の信頼性確保が大きく前進- [PDF:1.2MB]

日本初!放射線測定器のJIS登録試験所が誕生~放射線測定の信頼性確保が大きく前進~

図1 さまざまな種類の放射線、広範囲な放射線エネルギーで照射可能な放射線標準施設棟を利用して、信頼性が高いJISの試験が可能に

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:小口正範、以下「原子力機構」という。)原子力科学研究部門 原子力科学研究所 放射線管理部では、放射線測定器について、JIS試験が可能な試験所を整備しました。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)による産業標準化法(JIS法)に基づく試験事業者登録制度(JNLA)1)の審査を経て、日本で初めて放射線測定器のJIS登録試験所となりました。

放射線には、性質が違うX線・γ線、β線、中性子といった種類があり、そのエネルギーによってもふるまいが変わります。このため、放射線測定器は、測定する放射線の種類やエネルギーによって、その指示値の正しさ(応答)が変化します。そこで、放射線の種類ごとにエネルギーの変化に対する応答の違い(エネルギー特性)を調査しておくことが放射線測定の信頼性のカギとなり、JISで試験項目として定められています。ところが、これまでJIS法に基づく試験所(JIS登録試験所)はなく、製品化に必要なJIS試験の結果を明確に証明することができませんでした。

原子力科学研究所に設置されている放射線標準施設棟(以下「FRS」という。)は、さまざまな種類の放射線(X線、γ線、β線及び中性子)について、幅広い放射線エネルギー範囲で試験できる世界でも最大規模の設備を有しています。この特徴を活かし、放射線測定器の4つのJIS(JIS Z 4345, JIS Z 4416, JIS Z 4333及びJIS Z 4341)について、エネルギー特性試験を高い信頼性をもって実施できる方法を確立して、放射線分野では初めてのJIS登録試験所として運用を開始することになりました。これにより、FRSで試験を行った測定器に対して、公的な試験証明書に基づいて放射線測定器の性能を証明する、すなわち第三者として客観的に試験結果の信頼性を示すことが可能になります。

放射線の利用は、医療や工業など社会のさまざまな分野で拡大し続けており、それに伴って使用するエネルギー範囲も多岐にわたります。このため、さまざまな測定条件に対応できる次世代放射線測定器の開発ニーズが高まっていますが、開発の過程でその性能を明らかにする必要があります。これまでは、メーカーが独自に行っていた性能試験を、新生のJIS登録試験所に施設供用制度を通じて依頼することにより、エネルギー特性に関して放射線測定器の性能を公的に証明でき、製品に“信頼性”という新たな付加価値を与えることが可能となります。医療、工業や原子力といった放射線を取り扱うさまざまな施設や福島の廃炉作業などで放射線測定に携わるユーザーにとっても、その信頼性を客観的に示すことができるようになります。これにより、測定結果に応じた適切な判断、放射線施設の安全確保を可能にすることで、安全・安心な社会の実現につながることが期待されます。

【これまでの背景・経緯】

放射線は、医療、工業、農業などの産業分野、学術研究、原子力分野など社会のさまざまな分野で取り扱われており、放射線を利用している事業所数は国内では8,000近くになります。また、取り扱われる放射線の性質(X線、γ線、β線または中性子といった放射線の種類やこれらの放射線のもつエネルギーなど)は、放射線を取り扱う施設の状況や用途によって多種多様です。放射線は目に見えませんので、これらの放射線を安全に取り扱っていくためには、放射線の線量2)を測定により正しく把握することが求められます。放射線測定の信頼性確保は、ますます重要視されるようになっており、例えば、国際原子力機関(IAEA)の総合規制評価サービス(IRRS)3)での勧告を受けて規制化の検討がなされていることなどが挙げられます。

放射線測定の信頼性確保の1つの根幹をなすのが放射線測定器の“校正”です。校正は、決められたある条件において、その場所の正しい放射線量と放射線測定器の指示値の関係を明らかにする行為です。これによって、放射線測定器を用いて、正しい放射線量を測定できることになります。一方で、実際の測定では、必ずしも校正時と同じ条件であるとは限りません。一般的に、放射線測定器の応答は、放射線の種類、エネルギーや測定条件などの要因によって異なります。そこで、あらかじめ、さまざまな条件下で放射線測定器の応答を調べておく“試験”を実施しておくことが信頼性の高い放射線測定のもう1つのカギとなります。

放射線測定器についても、他の工業製品と同様にJIS4)でその要求性能が定められています。こうした性能を確かめる試験が、公正かつ確かな信頼性をもって行われることを保証する制度として、JNLAが運用されています。しかしながら、放射線分野においては、これまで制度に基づいて登録された試験所がなく、放射線測定器の性能試験の信頼性を客観的に証明することができませんでした。JIS試験所として登録されるには、試験機関に対する要求事項を定めた国際規格であるISO/IEC 170255)の要求事項に基づいて、JISの試験を実施できる能力を示すことが必要になります。しかし、①JISに準拠した幅広いエネルギーや放射線の種類に対する試験内容を実施できる施設設備、②照射する放射線の量を国が持つ基準とつながり(トレーサビリティ)を持つように正しく測定評価できる技術、③試験結果の品質を保証する体制、のすべてを同時に保有し続けなければならないことが課題となり、これまでJIS登録試験所がありませんでした。

【今回の成果】

原子力機構原子力科学研究所に設置されているFRSは、放射線測定器の校正や関連する研究開発を目的として、さまざまな放射性物質等を用いた照射が可能な施設として昭和55年に建設されました。その後、平成12年には、加速器を用いた中性子の照射が可能な施設を増設するとともに、X線、γ線、β線及び中性子といったさまざまな種類の放射線に対して、世界でも最も広いエネルギー範囲での照射試験を可能とする技術を開発してきました(図1)。また、外部からの利用も積極的に受け入れ、さまざまな場所で使用されている年間30,000台以上に及ぶ放射線測定器の校正や、放射線計測技術の開発に貢献してきました。

放射線測定器の応答に影響を与える因子のうち、特に重要なものが放射線のエネルギーです。放射線のエネルギーは、放射性物質の種類や周りの物質によって変わり、多くの場合、放射線測定器の応答もそれに応じて変化することが知られています。このため、JISにおいても幅広いエネルギー範囲にわたる試験(エネルギー特性試験)が定められています。JISに準拠した放射線測定器であることを証明するためには、JIS試験の実施が必須となりますが、これまで放射線測定器のJIS登録試験所がなく、この結果を明確に示すことができませんでした。そこで、われわれは、FRSの設備やこれまで開発してきた技術を活用し、JISに準拠したエネルギー特性試験の実施方法を具現化することで、日本初となる放射線測定器のJIS登録試験所を構築し、放射線測定器の開発に大きく貢献できると考えました。

FRSにおいては、試験所の基盤となる試験設備や放射線計測技術は培われておりましたが、上述した①から③までの3つの課題を克服することが必要でした。①の課題を解決して試験所を構築するためには、JISや関連する国際規格(ISO)に準拠した試験をFRSの設備を利用して実施できることが必要となります。例えばX線を用いた放射線測定器の試験では、X線の発生量を常にモニタして補正する方法を新たに導入するなど、JISやISOに合致した方法での試験を可能にしました。

また、放射線測定器の試験においては、照射する放射線の線量と放射線測定器の指示値を比較します。このため、②の課題を解決して、照射する放射線の線量が正しく測定評価することがカギとなります。長さや重さといった身近に使っているいろいろな“量”と同様に、放射線についても、国の計量標準機関が持つ基準となる量が決められており(国家標準)、それとの比較を通じて放射線の線量の測定結果の確からしさを保証する仕組み(計量トレーサビリティ6))が構築されています。そこで、放射線の種類や性質に応じた“基準測定器”を介して、国家標準との計量トレーサビリティを確保し、さらにその確からしさ(測定不確かさ7))を適切に評価できる手法を確立しました。

③の課題を解決して試験結果の信頼性を確保するためには、これらの試験設備や機器が正常に動作し、試験方法も決められた手順で確実に行うことが求められます(図2)。そこで、これらの試験を確実に実施できる人材の確保や試験結果の妥当性を確認する仕組みを整えました。こうした“品質保証体制”を導入することで、いつでも確実に公正で信頼性の高い試験を行うことができるようになりました。

これら3つの課題を克服できたことから、JNLA制度の公的認定機関であるNITE認定センターにFRSにおける以下の4種類のJISが定める放射線測定器のエネルギー特性試験についてJNLA登録の申請を行い、所定の審査を経て、放射線分野では初のJIS試験所として登録されました。

(1) JIS Z 4345(X・γ線及びβ線用受動形個人線量計測装置並びに環境線量計測装置)

(2) JIS Z 4416(中性子用固体飛跡個人線量計)

(3) JIS Z 4333(X線、γ線及びβ線用線量当量(率)サーベイメータ)

(4) JIS Z 4341(中性子用線量当量(率)サーベイメータ)

図2 FRSのさまざまな設備を用いた試験の様子

【今後の展望】

FRSは、施設供用制度により原子力機構外の方々もご利用いただけます(https://tenkai.jaea.go.jp/facility/)。JIS試験所として登録されたことにより、上述したJISの4区分の試験について、試験結果の信頼性の証としてJNLA標章を付した公的な試験証明書を発行することができます。

放射線測定器の開発において、これまでメーカーが独自に行っていた性能試験に客観的な保証を与えることで、ユーザーに信頼される製品の創出につながります。幅広いユーザーがその製品の信頼性を判断するためには、他の工業製品のように“放射線測定器にJISマーク表示を付ける”こと(JIS化)が有効です。放射線測定器の性能試験の基盤となるJIS登録試験所が誕生したことは、放射線測定器のJIS化に向けた第一歩となる技術的なマイルストーンといえます。

こうして放射線測定器の重要な性能を客観的に評価できるようになったことは、放射線を取り扱う施設や福島などの廃炉作業などにおける放射線測定の信頼性確保を大きく前進させることにつながり、安全・安心な社会の実現へ寄与することが期待されます。

今後は、JISにあるその他の試験項目にも登録範囲を拡充するとともに、海外でも試験成績書をそのまま通用させるために必要な国際MRA8)対応のJNLAを取得することで、国内外の放射線測定の信頼性確保に貢献していく予定です。

【用語の説明】

1) JNLA
産業標準化法に基づいて試験事業者を登録する制度であり、定められた公的認定機関であるNITE認定センターが運営しています。登録対象となる区分は、放射線以外にも、鉄鋼・非鉄金属、繊維、化学品、電気、抗菌など多岐にわたっております。登録された試験事業者は、JNLAシンボルマーク付きの試験証明書を発行することができます。

2) 放射線の線量
放射線を適切に管理する目的では、測定にかかる量として、国際放射線単位測定委員会により提案された「場所」のモニタリングのための周辺線量当量や「人」のモニタリングのための個人線量当量などが用いられております。したがって、これらの量を正しく測定することが必要となります。

3) 総合規制評価サービス(IRRS)
IAEAが加盟国の要請に基づいて、原子力規制に関する評価を行うサービスであり、我が国でも福島第一原子力発電所事故後の2016年に実施されました。その中で、職業被ばくや公衆被ばくのモニタリングサービスに必要な品質を確認すべきとの勧告がなされております。

4) 放射線測定器に係るJIS
サーベイメータ、個人線量計や据置形エリアモニタといった放射線測定器の種類や線種に応じて、いくつかのJIS規格が制定されています。いずれも、エネルギー特性、方向特性、直線性や温度特性といった試験項目に対する性能要求事項が主に規定されおり、可能な限り対応する国際規格(ISOやIEC)との整合が図られています。

5) ISO/IEC 17025
試験所や校正機関がその試験または校正がもつべき能力についての要求事項を定めた国際規格であり、品質を保証するための管理上の要求と技術的能力に関する要求から構成されています。試験所や校正機関の能力の信頼できる指標として国内外で高く評価されており、市場における製品の取引や貿易における性能試験の証明として広く利用されています。

6) 計量トレーサビリティ
測定結果が、切れ目のない校正の連鎖を通じて、最終的に国家標準に関連づけられることを意味します。放射線に関しては、国立研究開発法人産業技術総合研究所が国家標準機関となっています。

7) 測定不確かさ
測定の結果に付随する測定値のあいまいさを表す指標であり、測定データの統計的なばらつきや測定に利用した情報の不完全さに起因して生じます。測定値がどの程度信頼できるかは、不確かさとして定量的に表されますので、不確かさの評価は、試験結果の信頼性確保の重要な構成要素です。

8) 国際MRA
多国間の相互承認のことであり、国際MRA対応認定を受けると、その試験結果は、国際的にも通用するものとして、相互承認された機関の間では同等な試験証明書として取り扱われます。

2000原子力放射線一般
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました