東北農業気象『見える化』システム」を公開~様々な気象の「見える化」で栽培管理や適地適作をサポート~

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2022-06-08 農研機構

ポイント

農研機構は、ウェブサイト「東北農業気象見える化システム(https://www.tarc-agrimet.affrc.go.jp)」を公開しました。1kmメッシュ気象データを使ったマップを中心に、日々の気象を画像として表示します。その時の状態を確認しやすいよう、一定期間で平均、積算した値や、平年値や過去の値との比較を、色分けマップやグラフとして示すことが特徴です。東北地域の気象の「見える化」で農作物の栽培管理や適地、適作の判断をサポートします。

概要

「東北農業気象『見える化』システム」は、東北地方6県を対象に、日々の気象を地図やグラフなど画像として提供します。前身のウェブサイト「水稲冷害早期警戒システム」に、新たに水稲の高温障害リスクや登熟進度の目安を示す「気温・日照時間の平均値、積算値マップ」と、1週間から1ヶ月程度の気象の傾向を一目で確認できる「一定期間の傾向マップ」(気象庁による資料)を加えた掲載内容の拡大と、対象を水稲に限定せず汎用性のある気象情報を掲載していることに合わせて名称を「東北農業気象『見える化』システム」として公開しました。従来から掲載している「日々の寒暖の目安マップ」(日平均気温の平年偏差)、「気象の経過グラフ」を加えた計4項目を更新しています。

「東北農業気象『見える化』システム」では、ある時点の気象データそのものを単純に可視化するのではなく、過去の値や平年値などと比較したり、平均値、積算値として集計するなど、意思決定に使いやすい形で可視化していることが特徴です。また「気温・日照時間の平年値、積算値」と「日々の寒暖の目安マップ」は1980年以降の40年分以上のデータを掲載しており、過去の興味のある時期についても確認できます。様々な形式での気象の “見える化”によって、農作物の栽培管理や適地、適作の意思決定を支援します。

関連情報

予算:   運営費交付金

お問い合わせ

研究推進責任者:   農研機構東北農業研究センター   所長   川口 健太郎
研究担当者:   農研機構東北農業研究センター   水田輪作研究領域   主任研究員   大久保 さゆり
広報担当者:   農研機構東北農業研究センター   広報チーム長   櫻 玲子

 

詳細情報

開発の社会的背景と経緯

「東北農業気象『見える化』システム」は東北農業研究センターのウェブサイト「水稲冷害早期警戒システム」を前身としています。「水稲冷害早期警戒システム」は1993年の大冷害をきっかけとして1996年に開設された、東北地域の気象や水稲作の情報共有を目的としたウェブサイトです。「水稲冷害早期警戒システム」では水稲を対象とした文章による注意喚起「早期警戒情報」を主要な掲載項目とし、2014年以降は現在の「日々の寒暖差マップ」などの気象データによる項目を掲載してきました。近年では大規模な冷害こそ発生していないものの、2017年には東北地方の水稲のおよそ25,000t程度が冷害により減収したと推定されています1)。一方、全国的に水稲の高温障害が問題視されており、例えば2018年の高温障害による水稲の被害量は東北地方でおよそ20,000tにのぼると見積もられています2)。このように気候変動が進行する中、東北地域では、これまで最も懸念されてきた冷害に加え、高温による影響にも注意を払う必要が出てきました。
そこで2021年11月に「水稲冷害早期警戒システム」に水稲の高温障害のリスクに関する項目などを加えました。さらにこの度、参照できる内容の拡大と、対象を水稲に限らない汎用的な気象情報を掲載している実態に合わせて名称を一新し、本日より「東北農業気象『見える化』システム」として新たにスタートすることにいたしました。

研究の内容・意義

(掲載項目)
「東北農業気象『見える化』システム」の公開へ向けて、2021年秋より「水稲冷害早期警戒システム」の項目を追加、整理してきました。それ以前の項目との主な違いは次の通りです(表1)。

表1   「見える化」システムの主な掲載項目・掲載期間

項目 内容 更新頻度 東北農業気象
「見える化」
システム
水稲冷害早期
警戒システム
(2014年以降)
気温・日照時間の
平均・積算マップ
水稲の高温障害の指標や登熟進度の目安として使われる指標を地図で表します。 毎日
(7-10月)
1980年-
一定期間の傾向マップ
(気象庁による資料)
気温、降水量、日照時間について、1・2・4週間毎の傾向を平年の同時期と比べて表します。 毎日 2021年9月-
日々の寒暖の目安マップ
(日平均気温の平年偏差)
その日の気温を、同じ日付の平年値と比べて高かった/低かったかを表します。 毎日 1980年- 2014年-
気象の経過グラフ 東北地域のアメダス23地点の観測データをグラフで表します。 毎日 2015年- 2015年-

※)「東北農業気象『見える化』システム」の掲載内容は、2021年11月より「水稲冷害早期警戒システム」にて先行して公開してきました。「東北農業気象『見える化』システム」の公開にあたり一部の項目名を変更しました。
(使用しているデータ)
「東北農業気象『見える化』システム」では、農研機構メッシュ農業気象データ3)に加え、気象庁より公開されているアメダスデータおよび資料を用いています。
なお2021年11月より、使用するデータを独自に作成していたメッシュデータ4)から農研機構メッシュ農業気象データに移行しました。現在「東北農業気象『見える化』システム」で掲載しているメッシュデータによる項目は、すべて農研機構メッシュ農業気象データにより作図したものです。
(新規に追加した項目)
⯁気温・日照時間の平均、積算値マップ
水稲の高温障害のリスクや登熟進度の目安を地図で示したものです。高温障害リスクの指標として使われる日平均/最低/最高気温の20日間平均値、登熟進度の目安として用いられる日平均気温/日照時間の40日積算値の計5項目を選択して表示できます(図1)。
高温障害の目安には出穂後20日間程度の気温の値が、登熟の目安には出穂後40日程度の気温や日照時間の積算値などがよく用いられます。実際にどのくらいの値をリスクや登熟の基準とするかは地域や品種により異なるので、当サイトでは特定の閾値を使った表示は用いずに、当該期間の「平均値」「積算値」として示しています。これらの値でリスクや登熟の程度を把握し、地域や品種に応じて栽培管理の判断に活用できます。加えて特に近年では水稲の作付け時期の分散や栽培方法の多様化も進んでいるため、ここで示す指標の基準となる出穂期も様々です。このマップは7-10月を通じて日ごとに作成しているので、実際の生育段階に合わせて参照できます。本項目は、水管理、収穫時期などの意思決定に活用が期待されます。また過去についても1980年以降のマップを表示できるので、高温のリスクを回避したり、十分な登熟気温を保てるような栽培適地、栽培適期を設計する判断材料としても活用が可能です。
⯁一定期間の傾向マップ
気温、降水量、日照時間について、1、2、および4週間毎の傾向を平年の同時期と比べて示したマップを表示します。選択した日の前1、2、および4週間を平均した気象データ(気温、降水量、日照時間の3項目)と、同じ時期の平年値との差(降水量、日照時間は平年値との比)で示します。そのときの天候が、例年の同じ時期とどのように異なるかを把握するのに役立ちます(図2)。
この項目は気象庁ホームページの「前1/2/4週間の気温、降水量、日照時間の平年差・比(https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/longfcst/tenkou/hensa_map.html)」に掲載された図を転載しているもので、転載にあたっては気象庁のルールに従っています。また気象庁ホームページでは公開されていない過去の日付のマップについても当サイトでは遡って閲覧できます(2021年9月14日以降を公開)。
(従来から引き続き掲載している項目)
⯁日々の寒暖の目安マップ(日平均気温の平年偏差)
その日の気温が、平年の同じ時期よりもどのくらい高かった/低かったかを表すマップです(図3)。メッシュ毎の日平均気温と、そのメッシュの同じ日付の平年値の差として示しています。日平均気温そのものをマップにすると、気温はその場所の標高の影響も受けるため、地形が強調された図になり、日ごとの寒暖の傾向は確認しにくくなります。そこで当サイトでは、平年値と比べた差(平年偏差)として示すことで、その日が平年よりどれくらい暖かかったか寒かったかを分かりやすくしています(図4)。この項目は前身の「水稲冷害早期警戒システム」で2014年より掲載を開始しました。使用データを農研機構メッシュデータへ移行したことにより、2021年11月からは1980年以降の図をご覧になれるようになりました。
⯁気象の経過グラフ
気温、降水量、日照時間などの変化をグラフで表示します(図5)。東北地域のアメダス観測点のうち23地点の観測データを折れ線グラフで示しています。このグラフでは季節を通じた変化の傾向を読み取りやすくするために、観測データを5日移動平均値)5)として均した値を用いています。当年のほか、前年、過去5年間(前年を含む5年間)の平均値も表示し、過去の同時期と比較できます。グラフは春夏版(5月から10月)、秋冬版(11月から翌年4月)に分けて掲載しています。この項目は前身の「水稲冷害早期警戒システム」で2018年から掲載を始めました。2015年春夏版以降のグラフをご覧になれます。

今後の予定・期待

気候変動が進行し、気温が上昇傾向にあるとともに、年々の気象の変動も大きくなるとされています。これからは東北地域でも低温、高温のどちらにも注意していくことが求められます。「東北農業気象『見える化』システム」では、日々の気象を図にして公開することで、特別なツールや技術を使うことなくどなたでも地域全体の気象を見られることを利点とし、掲載している項目には、そのシーズンの栽培管理や栽培適期、適地の判断材料として活用しやすいように可視化する工夫をしています。今後も新しい項目の掲載に取り組むほか、従来と同様に、夏季に水稲の冷害などの危険が見込まれる場合には臨時の情報提供なども行います。
「東北農業気象『見える化』システム」は、ユーザー登録などの必要はなく、どなたでもご利用になれるウェブサイトです。近年、普及が進みつつある個別に詳細な栽培支援情報を提供するサービスとは異なりますが、前身の「水稲冷害早期警戒システム」と同様に、東北地域の農業気象を「誰もが見られる」ウェブサイトとして、日々の気象の可視化を通じて気候変動に向き合い、かつ多様化する東北地域の生産現場の支援につなげてまいります。

用語の解説

1)、2)
冷害、高温障害の被害量はいずれも農林水産省「作物統計」による。

3)農研機構メッシュ農業気象データ
アメダスデータなどの気象データを基準地域メッシュ(約1km四方)単位に補間した日別の気象データで、主要な項目については1980年以降のデータが公開されています。農研機構が開発・運用しています。

4)独自に作成したメッシュデータ
アメダスデータを基準地域メッシュ単位に補間した気象データです。

5)5日移動平均値
連続する5日間の値による平均値です。「東北農業気象『見える化』システム」では前2日、当日、後2日の計5日間の平均値としています。日別の観測データをそのまま折れ線グラフにすると日々の値の上下が目立って長期間の傾向が読み取りにくくなるため、毎日の観測データを前後2日ずつを含む5日間の平均値とすることで、日々の細かな変動を取り除いて大まかな傾向を確認できるグラフにしています。

参考図

図1a

図1b

図1.  「気温・日照時間の平均・積算マップ」の表示例
1980年以降の7-10月を対象に、「前20日間の日平均/日最高/日最低気温の平均値」
「前40日間の日平均気温/日照時間の積算値」の計5項目を選択して表示できます。

図2a

図2b

図2.  「一定期間の傾向マップ」表示例
日付を選択し、期間(前1週間、前2週間、前4週間)を選択すると、その期間の平年値との差(降水量は平年値との比)のマップが表示されます。この項目は気象庁による資料の転載です。

図3

図3.  「日々の寒暖の目安マップ」表示例
日付を選択すると、その日の日平均気温と、同じ日付の平年値との差(平年偏差)のマップが表示されます。国土地理院のウェブ地図に重ねた表示と画像による表示の2パターンで表示可能です。

図4

図4.  「平年偏差」の解説
「日々の寒暖の目安マップ」で表示している数値「平年偏差」についての解説です。

図5

図5.  「気象の経過グラフ」表示例
地点、年、季節(春夏版または秋冬版)を選択すると、日平均気温、日合計降水量、日照時間など計5項目を5日移動平均値によるグラフで表示します。それぞれの折れ線は赤が選択した年、青はその前年、グレーは前年を含む前5シーズンの平均値を示しています。

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