地下水が流れていない場所を探す~地下水の動きを割れ目の水質で判断する方法を構築~

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2022-06-06 日本原子力研究開発機構

【発表のポイント】

  • 高レベル放射性廃棄物の地層処分では、地下水の流れによる放射性物質の移動が生じにくい領域を探すために、地層中の割れ目における地下水の流れの分布を推定する技術が必要になります。
  • 幌延深地層研究センターでは、地下水の水質(同位体比)を指標として、割れ目に沿った地下水の流れが現在生じている場所と生じていない場所を判別する技術を考案しました。
  • この技術により、割れ目が連結していても、割れ目に沿った地下水の流れが生じていない領域が存在することを実証しました。
  • 以上の技術や知見は、処分地選定プロセスの概要調査における候補地の選定や、処分場の建設・操業段階における廃棄体の定置位置の設定に役立つと期待されます。

図 幌延地域における、割れ目に沿った地下水の流れの分布に関する概念図

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 小口正範、以下「原子力機構」という。)核燃料・バックエンド研究開発部門 幌延深地層研究センターの望月陽人研究員および石井英一研究主幹は、地表から掘削したボーリング孔の水質データを利用して、割れ目に沿った地下水の流れが現在生じている場所と生じていない場所を判別する方法を考案し、割れ目が連結していても、割れ目に沿った地下水の流れが生じていない領域が存在することを実証しました。

地層中には一般的に割れ目が存在しますが、それらが連結していない場合には、割れ目を通した地下水の流れは生じにくいといえます。したがって、高レベル放射性廃棄物の地層処分においては、地層中の割れ目が連結していないことが、地層の閉じ込め性能を担保するうえで好ましい条件の一つと考えられています。しかし、処分場の候補地に、割れ目が連結していない領域が十分な拡がりをもって存在するとは限りません。このような場合を想定して、割れ目の連結性が高くても、その割れ目を通した地下水の流れが生じていない領域を判別する技術が重要となります。

地層中において、地下水は割れ目と間隙1)の両方に存在し、割れ目を優先的に流れます。そのため、地層にもともと含まれていた水とは異なる水質の水が割れ目中を流れている場合、割れ目から採取した水(割れ目水)の水質は、周囲の間隙中の水(間隙水)と比べて、流れてきた水の値により近くなると考えられます。このような考えのもと、幌延のボーリング孔から採取された割れ目水と間隙水の水素・酸素安定同位体比2)(以下、同位体比)を比較し、割れ目中の水の流れの有無を考察しました。

その結果、地表付近の浅い領域では、割れ目に沿った地下水の流れが現在生じており、これよりもやや深い領域では、割れ目に沿った地下水の流れが現在生じていないことが明らかとなりました。いずれの領域も割れ目の連結性は高く、割れ目を通じて地表から水が浸透しうることがわかっています。したがって今回の結果から、割れ目の連結性が高い領域であっても、水が流れていない領域が存在することが明らかとなりました。

割れ目の連結性が高くても水の流れが生じていない領域が存在する、という本研究で得られた知見から、高レベル放射性廃棄物の地層処分において、割れ目の連結性が高い地層も廃棄物の定置場所の候補になり得ることが示唆されます。このことは、処分地選定プロセスの概要調査における候補地の選定や、処分場の建設・操業段階における廃棄体の定置位置の設定において役立つ知見であると期待されます。また、そのような地層において割れ目に沿った地下水の流れが生じているかを評価するために、本研究で考案した方法が利用可能であると期待されます。

本研究成果は、令和4年5月12日に国際学術誌「Hydrogeology Journal」に掲載されました。

【これまでの背景・経緯】

高レベル放射性廃棄物の地層処分においては、地層中の割れ目が連結していないことが、地層の閉じ込め性能を担保するうえで好ましい条件の一つと考えられています。そのような地層では、割れ目中の地下水の流れが生じにくく、地下水の流れによる放射性物質の移動も生じにくいためです。しかし、処分場の候補地に、割れ目がほとんど連結していない地層が十分な拡がりをもって存在するとは限りません。このような場合を想定して、割れ目の連結性が高くても、その割れ目を通した地下水の流れが生じていない領域を判別する技術が必要となります。割れ目中の地下水が流れる速さを測定できれば、このような評価が可能となります。しかし、地下深くの地下水の流れはきわめて遅く、直接測定することが困難です。したがって、流速を測定する以外の方法により、割れ目を通した地下水の流れの有無を判別する技術が必要になります。

地層中において、地下水は割れ目と間隙の両方に存在し、割れ目を優先的に流れます。そのため、地層にもともと含まれていた水とは異なる水質の水が割れ目中を流れている場合、割れ目から採取した水(割れ目水)の水質は、間隙中の水(間隙水)と比べて、流れてきた水の値により近くなると考えられます(図1a)。一方、割れ目中に水の流れが生じていない場合には、割れ目水と周囲の間隙水が均一になり、割れ目水と間隙水はほぼ同じ水質を示すようになると考えられます(図1b)。このような考えのもと、幌延地域を対象として、地下水中の水素・酸素安定同位体比(以下、同位体比)を指標に用いて、割れ目ごとに地下水の流れが生じているかを判別する方法を検討しました。

図1 割れ目水と間隙水の組成(水質)に関する概念図

左側の図は、割れ目に沿って地表水が流れている場合を表し、割れ目水は、周囲の間隙水と比べてより地表水に近い組成を示すと考えられます。右側の図は、割れ目に沿った地下水の流れが生じていない場合を表し、割れ目水は、周囲の間隙水とほぼ同じ組成を示すと考えられます。

【今回の成果】

幌延地域の地表から掘削されたボーリング孔で採取された2種類の地下水の水質データを詳細に調べました。一つは、地層中の割れ目に存在する地下水(割れ目水)で、ボーリング孔内に設けた長さ数m~数十mの区間から水をポンプで引き揚げることにより得られます。もう一つは、ボーリング孔の岩石コア試料中における粒子の間隙に含まれる地下水(間隙水)で、岩石コア試料を最大数十MPaの圧力で圧縮することにより抽出できます。

一部のボーリング孔の浅い区間では、割れ目水の同位体比が上下深度の間隙水の同位体比に比べて、より地表水に近い値を示すことがわかりました(図2)。この結果は、地表水が割れ目に沿って流れており、周囲の間隙水とは平衡に達していない状態と解釈できます。一方、深い区間では、割れ目水の同位体比が周囲の間隙水の同位体比と同等でした(図2)。この結果は、割れ目を通じた地下水の流れが現在生じていないか、拡散3)が卓越するほど流れが遅いと解釈できます。

図2 調査ボーリング孔における割れ目水および間隙水の同位体比の関係

白い丸は間隙水、赤いひし形は割れ目水のデータを意味し、脇の数字はそれぞれの地下水を採取した地点の地表からの深度を意味します。黒い直線は、先行研究に基づく幌延地域の天水線4)を意味します。深度154~250 mの区間から採取した割れ目水は、周囲(深度125~279 m)の間隙水と比べて地表水に近い値を示します。一方、深度331~402 mの割れ目水は、その上下の深度である325 mと426 mの間隙水の間に位置します。


今回対象としたすべてのデータをプロットすると、割れ目に沿った水の流れが生じている領域には現在と同程度の水温の地表水が、割れ目に沿った水の流れが生じていない領域には現在よりも寒冷な気候であった氷期5)の地表水が浸透していることが、同位体比の値からわかります(図3)。流れが生じている領域と生じていない領域とで割れ目の連結性に違いはなく、水の通りやすさを表す透水係数の値にも系統的な差はありませんでした。したがって、割れ目を地下水が流れる速さは、動水勾配6)に依存すると考えられます。氷期には、海水準が現在よりも低かったことなどにより動水勾配が現在よりも大きく、地表水がより深くまで浸透しやすかったと考えられています。今回の結果はこの考えを支持するものです。

図3 全データを対象とした割れ目水および間隙水の同位体比の関係

白い丸は間隙水、赤いひし形は割れ目水のデータを意味します。割れ目に沿った流れが生じている領域では、割れ目水の同位体比が、間隙水と比べて現在の地表水により近い値を示すことから、現在の地表水が割れ目に沿って流れていると考えられます。一方、割れ目に沿った流れが生じていない領域では、青色の点線で示したように、氷期の地表水のみが浸透していると考えられます。


図4には、本研究の結果をもとに、幌延地域における地下水の流れに関する領域分布を示しています。より深いところに浸透した氷期の地表水は、氷期の終了時に動水勾配が低下したことにともなって流速が遅くなり、現在では深部に留まっていると考えられます(図4)。過去の氷期のうちもっとも新しい氷期(最終氷期)は、現在から約1万年前には終了したと考えられています。したがって本研究の成果により、割れ目の連結性が高い領域でも、約1万年以上前に浸透した水が割れ目を流れずに留まっていると推測されます。

図4 幌延地域における割れ目に沿った地下水の流れに関する領域分布(断面図)

【今後の展望】

本研究から、以下のことがわかりました。

  1. 割れ目水と周囲の間隙水とで水素・酸素安定同位体比を比較する方法により、割れ目に沿った水の流れが現在生じているかを推定することが可能となりました。
  2. 幌延では、割れ目の連結性が高く地表から水が浸透しうる領域の中でも、割れ目に沿った水の流れが生じていない領域があることがわかりました。

2点目の、割れ目に沿った水の流れが生じていない領域については、氷期に地表水が浸透し、氷期以降に動水勾配が低下したことによって、その水が現在では流れずに留まっていることが推測されます。すなわち、割れ目の連結性が高くても、1万年以上前に浸透した水が流れずに留まっている領域であることが考えられます。このことは、高レベル放射性廃棄物の地層処分において、割れ目の連結性が高い地層や領域も閉塞的な環境になり得ることを示しており、処分地選定プロセスの概要調査における候補地の選定や、処分場の建設・操業段階における廃棄体の定置位置の設定において役立つ知見であるといえます。また、そのような地層において割れ目に沿った地下水の流れが生じているかを評価するために、本研究で考案した方法が利用可能であると期待されます。

【論文掲載情報】

雑誌名:Hydrogeology Journal, 30(3), 813-827 (2022), 10.1007/s10040-022-02466-9

論文タイトル:Assessment of the level of activity of advective transport through fractures and faults in marine deposits by comparison between stable isotope compositions of fracture and pore waters

著者:望月陽人、石井英一

【用語解説】

1)割れ目と間隙
ここでは、肉眼で確認できる大きさをもつ岩石中のひび(断層も含む)を割れ目と呼び、顕微鏡で確認できる岩石中の小さな隙間(鉱物の粒子間の隙間など)を間隙と呼ぶ。

2)水素・酸素安定同位体比
原子番号が同じで質量数が異なる核種のうち、放射性崩壊しない同位体を安定同位体と呼ぶ。天然の水素には質量数1、2の二つの安定同位体、酸素には質量数16、17、18の三つの安定同位体が存在する。質量数1の水素に対する質量数2の水素の割合を水素安定同位体比(δD)、質量数16の酸素に対する質量数18の酸素の割合を酸素安定同位体比(δ18O)と呼び、これらの安定同位体比の微小な変化をとらえることにより、過去の気候や海水準の変化などを推定することができる。

3)拡散
媒体中をある物質が濃度勾配を駆動力にして移動する現象。

4)天水線
天水(雨水、河川水など陸上表面の水)の水素安定同位体比と酸素安定同位体比がもつ相関関係を示した直線。

5)氷期
大陸氷河が拡大する寒冷な時期。

6)動水勾配
地下水の動きを決める要因の一つで、地下水が流れる方向の単位距離あたりの水圧(正確には水頭)の差。

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