2022年1月トンガ噴火に伴う地球規模の津波発生と伝播メカニズムを解明~火山噴火による新しい津波研究が必要に~

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2022-05-13 防災科学技術研究所,東京大学地震研究所

国立研究開発法人防災科学技術研究所(理事長:林 春男)と東京大学地震研究所(所長:佐竹 健治)は、2022年1月に発生した南太平洋トンガ諸島のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の大規模噴火に伴って生じた地球規模の津波発生と伝播メカニズムを解明し、今後の津波研究では地震だけでなく火山噴火も考慮しなければならないことを実証した。

発表のポイント
  • 2022年1月に南太平洋トンガ諸島で火山が噴火、それによる地球規模の津波が発生
  • 噴火に伴い生じた「ラム波」と呼ばれる大気の波による津波をシミュレーションし、観測データを再現
  • ラム波の強制振動が地球規模での津波発生と伝播を引き起こすメカニズムを解明
  • 地震による津波発生とは異なる、火山噴火を考慮した新しい津波研究が必要に
内容(詳細は別紙資料による)
2022年1月15日に南太平洋トンガ諸島のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山で発生した大規模噴火に伴い、地球規模で伝播する津波が発生しました。この津波は、海底地震で起きる通常の津波よりも速く伝播し、また火山から遠く離れた場所でも津波が観測されるという特徴がありました。
本研究は、噴火に伴い生じた「ラム波」と呼ばれる大気の波による津波をシミュレーションし、世界の海底に展開されている水圧観測ネットワークの観測記録の、通常の津波より速く(約300m/s)伝播した部分の波形を再現し、ラム波が通常の津波より速く、強制的に太平洋全体に津波を伝播させたことを実証しました。また、一般的な津波の速度(約200~220m/s)で伝わった津波波形には、「大気重力波」と呼ばれる大気の波の共振現象により生じた波も含まれると考えられ、今後さらなるデータ解析とシミュレーションで検証する必要があります。
これらの結果は、火山噴火による津波の発生メカニズムが海底地震による津波とは異なることを意味しており、今後は火山噴火も考慮した新しい津波研究を展開しなければならないことを明らかにしました。
この研究の詳細は、2022年5月12日14時(米国東部時間)に米国の学術誌「Science」にオンライン掲載されました。
(別紙資料)2022年1月トンガ噴火に伴う地球規模の津波発生と伝播メカニズムを解明 - 火山噴火による新しい津波研究が必要に -
1.はじめに
2022年1月15日の13時頃(日本時間)、南太平洋トンガ諸島のフンガ・トンガ‐フンガ・ハアパイ火山で大規模な噴火が発生した(図1)。この噴火に伴い、世界中に展開されたグローバル気圧観測網により顕著な大気圧増加が観測された(図2A、灰色線)。これは火山から約300m/sの速度で地球規模に伝播するもので、「ラム波」と呼ばれる大気の波の一種である。
この噴火に伴う津波が、世界の海底に展開された水圧観測網において地球規模で明瞭に観測された(図2B、灰色線)。その第一波の到達はラム波の到達時刻とおおむね一致し、火山を波源として理論的に予想される津波到達時刻(図1、水色線)よりも2~3時間以上も早いという特徴を持っていた。
本研究では、フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の噴火に伴って励起されたラム波の伝播による津波の発生・伝播の数値シミュレーションを実施し、地球規模で励起され、世界中の海底水圧観測網で記録された津波の生じたメカニズムを調査した。
2.研究成果
本研究では、ラム波による津波の発生・伝播過程の数値シミュレーションを実施した(図2、図3)。
まず、世界各地で観測された大気圧データを基に、ラム波が火山から300m/sで伝播すると仮定してラム波の伝播シミュレーションを実施し、大気圧変化を計算した(図2A、図3A)。続いて、気圧変化による津波の発生・伝播シミュレーションを実施し、津波(海面の波高変化)を計算した(図3B)。最後に、上記の計算結果を基に、海底における水圧変化を計算した(図2B、図3C)。
世界の海底水圧観測網について、シミュレーションにより計算された波形を実際の観測記録と比較したところ、計算波形はラム波の速度(300m/s)で伝播する第一波部分をよく再現した(図2B)。海面波高変化のスナップショットからは、この波に対応する海面隆起の伝播が確認された(図3B、赤矢印)。移動する気圧の波と津波の伝播速度が近い値となるとき、伝播距離の増大に伴って海面変動の振幅が大きくなる「共振現象」(「プラウドマン効果」とも呼ばれる)が起こることが知られているが、この波は伝播と共に増大していないことから典型的な共振現象とはいえず、むしろラム波による海面の強制振動によって引き起こされたと考えられる。
隆起の第一波に続き、ハワイ諸島などの太平洋の島嶼(しょ)部を2次的な波源とした津波が生じていることも確認された(図3B、黒矢印)。この波は、津波の散乱や反射など、海底地形の形状に由来する効果で生じた副次的な津波であると解釈され、津波の後続波を励起し、津波エネルギーを増加させる要因のひとつとなっている。さらに続いて、太平洋における津波の平均的な伝播速度(約200~220m/s)で移動する海面沈降の波も確認された(図3B、青矢印)。この沈降の波は、ラム波に由来する隆起の第一波が周囲に伝播する際に火山周辺で海水の体積保存により生じた海面の沈降が伝播したものと解釈できる。
数値シミュレーションで得られた海底水圧波形は、観測波形の第一波部分をよく再現した。一方、津波の到達予想時刻の前後における波形(第一波の到達から数時間以上遅れた部分)の再現性はさほど高くなかった(図2B)。これは、この部分の波形には、本シミュレーションでは考慮しなかった噴火に伴う海底の地殻変動(海底地形の変化や山体の崩壊)に由来する津波や、「大気重力波」による津波の寄与が含まれているためである(図4)。
火山噴火においては、ラム波の他にもさまざまな大気の波が励起される。そのうち「大気重力波」と呼ばれる波は津波と同程度の伝播速度を持つ。したがって大気重力波と津波の間で共振現象が生じ、津波の振幅が増大するため、大気重力波によって生じた津波は伝播距離が長くなるほどその振幅が大きくなる。海底水圧観測記録を後続部分まで含めて高い精度で再現するには、地殻変動と大気重力波による津波を考慮する必要がある。そのためには、津波波源付近の地域においてどのような海底の地殻変動が生じたかを詳しく明らかにするための現地調査をはじめ、グローバルな大気圧観測ネットワークの記録や気象衛星の観測データなどを基にした、大気重力波の励起量や伝播過程に関する研究が必要である。
3.本研究の意義
世界中に展開された海底水圧観測網は、これまで地震による津波の発生や伝播メカニズムの研究や即時警報に利用されてきた。一方で、本解析結果から、海底水圧観測記録を火山噴火による津波の研究や警報にも利用の幅を広げるにはいくつかの考慮すべき点があることもわかった。
第一に、海底での水圧変化が、津波による海面波高変化と大気圧変化の影響の両方を含む点である。地震津波においては、大気圧変化は無視できるほど小さかったが、今回の場合は大気圧の影響を無視することができない。特に気圧変化の振幅の大きいラム波の到達前後の津波高さを水圧記録から見積もるには、大気圧観測データなどの利用が重要である。
第二に、大気重力波に由来する後続の津波波高の予測が容易ではない点である。地震による津波、すなわち海底の地殻変動による津波では、一般に津波の波源域の周辺で振幅がもっとも大きく、遠く離れるほど小さくなる。それに対し、大気重力波による津波は共振現象によって遠方において大きな波高となる。したがって、その最大波高は波源域の付近よりも遠く離れた場所のほうが大きい。今回の火山噴火のように地球規模で伝播する津波において、火山から遠く離れた場所の津波の最大振幅を即時的に予測するためには、大気圧観測データなどを利用して大気重力波の励起量を高い精度で即時的に見積もることが重要となる。このような火山噴火による津波の発生のメカニズムを包括的に理解するためには、津波に関する知見に加え、噴火に伴う大気の波(ラム波、大気重力波)の生成の物理メカニズムといった火山学的な知見も欠かせない。
これまで2004年スマトラ島沖地震や2011年東北地方太平洋沖地震などを契機に、地震による津波に関する研究が大きく発展してきた。今回のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の噴火に伴う津波は、従来の地震津波とは異なった、新たな火山噴火に伴う津波の基礎研究の重要性、および火山津波のリスク・ハザード評価の重要性を示すものであるといえる。
4.論文情報
上記の成果に関する学術論文は、2022年5月12日(米国東部時間)に米国の科学誌「Science」に「First Release」論文としてオンライン公開された。「First Release」とは、投稿論文の受理後、4~6週間後に印刷版が出版されるサイエンス(Science)誌掲載予定論文のうち、サイエンス編集部が精選したものをオンライン出版することで早期に発表するものである。

Tatsuya Kubota, Tatsuhiko Saito, Kiwamu Nishida (2022). Global fast-traveling tsunamis driven by atmospheric Lamb waves on the 2022 Tonga eruption, Science.
DOI: 10.1126/science.abo4364

*著者情報
国立研究開発法人防災科学技術研究所 久保田 達矢 特別研究員
国立研究開発法人防災科学技術研究所 齊藤 竜彦 主任研究員
東京大学地震研究所 西田 究 准教授なお、本研究はJSPS科研費特別研究促進費「トンガ海底火山噴火とそれに伴う津波の予測と災害に関する総合調査」(課題番号:JP21K21353)の助成を受けて進められました。
図1

図1 本研究で使用した大気圧および海底水圧観測点の位置

灰色の丸印は気圧計を、青い逆三角形印は海底圧力計をそれぞれ示す。黒い三角形で示したのはフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の位置である。火山から同心円状に広がる水色の線は、理論的に予測される津波の到達時刻(1時間間隔)を表す。

図2
図2A大気圧観測データ 図2B海底圧力データ X軸:噴火からの経過時間が0~16時間 Y軸:観測点の名前

図2 ラム波の伝播に伴う津波発生の数値計算波形と観測波形の比較

図2Aは大気圧観測波形の時系列、図2Bは海底圧力観測波形の時系列。灰色線は観測波形を、赤線はシミュレーション結果による波形である。各波形の右横にあるアルファベット、数字は観測点の名前を示している。観測点の位置は図1を参照。

図3
図3A気圧変化、図3B海面波高変化、図3C海底圧力変化 1時間後、3時間後、5時間後、7時間後の波の変化について地図上で示している。

図3 トンガ火山噴火に伴う気圧波の伝播と津波の発生・伝播のスナップショット

図3Aは大気圧変化のスナップショット。図3Bは海面波高変化のスナップショットで、本別紙資料の本文中において取り上げた海面の波高変化について、赤色、青色、黒色の矢印で示している。
図3Cは海底水圧変化のスナップショットである。

図4

図4 噴火に伴う大気の波の伝播、および津波の発生・伝播メカニズムの模式図

大気中では、約300m/sの速度でラム波が伝播し、200~220m/s程度の速度で大気重力波が伝播する。海面では、ラム波が海水を強制的に持ち上げることにより、ラム波と同じ速度で海面の隆起の波が伝播する (図中[1]の波)。続いて、複数の成因からなる波が、津波の速度 (約200~220m/s) で伝播する (図中[2]の波)。この波には、第一波として伝わる隆起の波の体積を保存するために生じる沈降の波、大気重力波と海洋波の共振 (プラウドマン効果) によって生じる波、および噴火に伴う火山付近での海底地形変化により生じる津波が含まれる。

(語句説明)
ラム波:
大気中を伝播する波の一種。音速と同程度の伝播速度(約300m/s)をもつ。ラム波は地表(大気と地面・海面の境界)に沿って伝播する大気の波「大気境界波」の一種であり、水平方向に2次元的に伝わるという特徴がある。
共振:
ある振動している物体に外部から振動を加えるとき、その物体の固有振動数と加えた振動数が一致した場合に振幅が大きくなる現象を指す。「共鳴」とも呼ばれる。
プラウドマン効果:
大気の波と海洋の波における共振現象を指す。移動する気圧変化の移動速度が海洋波の位相速度に近いとき、気圧の水平勾配による仕事(力×距離)が与えられ続け、伝播距離の増大に伴って海面波高が成長していく。
大気重力波:
大気中を伝播する波の一種。水平方向にはおおむね200~220m/s程度の速度で伝播する。大気に加わる浮力(重力)が波を伝播させる力(復元力)である。
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1702地球物理及び地球化学
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