北極陸域から発生するダストが雲での氷晶形成を誘発する

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2019-03-26   国立極地研究所, 気象研究所,名古屋大学,東京大学

国立極地研究所の當房豊助教、気象研究所の足立光司主任研究官、名古屋大学宇宙地球環境研究所の大畑祥助教、東京大学の小池真准教授らによって構成される国際共同研究グループは、北極圏の氷河から流出した水流によって作られる地形(アウトウォッシュ・プレーン)で発生するダスト(固体微粒子)が、雲の中での氷晶(氷の微小な結晶)の形成を強力に促進し得ることを明らかにしました。

今後、地球温暖化に伴って雪氷が融解し地面の露出が進むと、北極陸域からのダストの発生量は増加すると推測されています。特にアウトウォッシュ・プレーンは、北極圏で発生するダストの主な供給源だと言われています。本研究グループは、北極圏のスバールバル諸島(ノルウェー)のアウトウォッシュ・プレーンで採取したダストが、氷晶が形成される際の「核」として非常に有効に働くことを実験により明らかにしました。そしてこの能力は、ダスト中に1%程度しか含まれない有機物の存在によって高められていました。さらに本研究グループは、スバールバル諸島での大気観測の結果から、大気中の氷晶核の濃度が、北極圏内で発生したダストの影響によって、夏季には冬季よりも1桁高い値となることを示しました。これらの新たな知見は、北極圏上空の雲の中での氷晶の形成プロセスを理解する上での重要な手がかりとなり、気候の予測精度の向上につながるものと期待されます。

本研究成果は、2019年3月26日(日本時間)に英国科学誌「Nature Geoscience」のオンライン版に掲載されます。

研究の背景

北極圏の下層大気(上空数百メートル~数キロメートル)で見られる混相雲(注1)は、年間を通して頻繁に発生しているため、北極圏の気候(天気、気温、降水量など)に大きな影響を及ぼしています。混相雲は、過冷却水滴(0℃以下でも凍結していない雲粒)と氷晶から成りますが、氷晶の形成は、エアロゾル(大気中に浮遊する微粒子)が氷晶核(注2)として機能することによって、誘発されると考えられています。混相雲内での氷晶の占める割合が増えると、雲の放射特性や寿命などは大きく変化することになります。

北極圏の上空で氷晶核として機能するエアロゾルの正体については、まだよく分かっていません。これまでの研究では、北極圏の海洋表層から放出される固体の有機エアロゾルの寄与が最も重要だと考えられていました。また、低~中緯度の乾燥地帯で発生し北極圏まで長距離輸送されるダストの寄与も指摘されていました。その一方で、夏季に積雪が融解して地面が露出すると、北極圏内でもアウトウォッシュ・プレーン(注3)などからダストが発生することが分かってきています(図1)。しかし、北極圏から発生するダストの氷晶核としての役割については、着目されていませんでした。

図1:(a)夏季の北極圏で発生するダストが氷晶形成に及ぼす影響の概念図。(b)夏季と冬季における北極圏のスバールバル諸島のブレッガー氷河とその周辺の様子。

研究の内容

本研究では、北極圏のスバールバル諸島に分布するアウトウォッシュ・プレーン(図1)にてダストを採取し、国立極地研究所で開発した氷晶核計測装置「CRAFT」を用いて、その氷晶核としての能力を調べました。その結果、アウトウォッシュ・プレーン由来のダストは、低~中緯度の乾燥地帯で発生する鉱物ダストよりも氷晶核としての能力が圧倒的に高いことが判明しました。ところが、アウトウォッシュ・プレーン由来のダスト中にわずかに含まれる有機物を取り除いてしまうと、氷晶核としての能力が鉱物ダストとほぼ同程度にまで下がることが分かりました。つまり、アウトウォッシュ・プレーン由来のダストの氷晶核としての能力は、微量に含まれる有機物の存在によって高められていたことが示唆されます。

さらに、本研究グループは、夏季(2016年7月)と冬季(2017年3月)に、スバールバル諸島のツェッペリン山観測所(海抜475メートル)で、氷晶核としての能力を持つエアロゾルの濃度を計測しました。その結果、冬季の値は海洋上空の大気で報告されている値とほぼ同程度でしたが、夏季の値は1桁高くなっていました(図2)。また、大気中で採取されたエアロゾル試料の電子顕微鏡観察や数値モデルシミュレーション(図3)の結果などから、夏季のスバールバル諸島上空での氷晶核濃度の増加は、海洋由来の有機エアロゾルではなく、北極陸域(スバールバル諸島やグリーンランドなど)で発生したダストによって生じていた可能性が高いことが分かりました。

図2: 夏季(2016年7月)と冬季(2017年3月)にスバールバル諸島のツェッペリン山観測所にて計測された大気中の氷晶核として働くエアロゾル粒子の数濃度。比較対象として、これまでに報告された北極圏の海洋上空での値も例示した。

図3: 夏季(2016年7月)の下部対流圏における北極圏内で発生したダストの質量濃度の分布の数値モデルシミュレーション(CAM4モデルを使用)。(左図)スバールバル諸島で発生したダスト。(右図)北緯60度以上の高緯度域で発生したダスト。白い目印が、スバールバル諸島のツェッペリン山観測所付近に該当する。

今後の展望

夏季に北極圏のアウトウォッシュ・プレーンで発生するダストが、低~中緯度の乾燥地帯で発生するダストよりも氷晶核としての能力がはるかに高く、大気中にて氷晶核として働くエアロゾルの濃度の大幅な増加をもたらしていることは、本研究によって初めて明らかになりました。北極圏上空の氷晶核濃度が高くなると、そこで頻繁に発生する混相雲の中での氷晶の形成がより活性化されることになります。今後、温暖化の進行によって積雪の融解や氷河の後退が進むと、北極圏において地面が露出する面積と期間が増えることになるため、北極圏でのダストの発生量も増えると言われています。現在、北極圏で急速に進行しているとされる温暖化の影響によって、大気中のダストや氷晶核の濃度がどのように変動し、さらに北極圏上空の雲の放射特性や寿命などにどのような影響があらわれるのかを詳しく理解することは、今後の重要な課題です。

注1 混相雲
約-36℃~0℃の温度条件下でみられる過冷却水滴と氷晶によって構成される雲。混相雲内での氷晶の形成は、氷晶核として働くエアロゾルを含んだ水滴が凍結することで誘発されると言われている。

注2 氷晶核
大気中で氷晶が形成される際に、「核」として働く能力をもつエアロゾルのこと。一般的には、固体の微粒子であることが多い。氷晶核として働くエアロゾルが存在しない場合、雲の中での氷晶の形成は、温度が約-36℃以下にならないと活性化されない。

注3 アウトウォッシュ・プレーン
氷河末端から流れだす網状の流路をもつ水流により、氷河の前面に形成される扇状地状の堆積平野地形。植生がほとんどなく、氷河の浸食作用によって細粒化された微粒子を多く含んでいることから、北極圏から発生するダストの主な供給源になっていると言われている。

発表論文

掲載誌: Nature Geoscience
タイトル: Glacially sourced dust as a potentially significant source of ice nucleating particles
著者:
當房豊1,2,足立光司3, Paul J. DeMott4, Thomas C. J. Hill4, Douglas S. Hamilton5, Natalie M. Mahowald5, 永塚尚子1, 大畑祥6,7,8, 植竹淳1,4, 近藤豊1, 小池真6
1. 国立極地研究所
2. 総合研究大学院大学 複合科学研究科
3. 気象研究所
4. コロラド州立大学 Department of Atmospheric Science
5. コーネル大学 Department of Earth and Atmospheric Sciences
6. 東京大学 大学院理学系研究科
7. 名古屋大学 宇宙地球環境研究所
8. 名古屋大学 高等研究院
DOI: 10.1038/s41561-019-0314-x
URL: https://www.nature.com/articles/s41561-019-0314-x
論文公開日: 日本時間2019年3月26日午前1時 (英国時間3月25日午後4時)

研究サポート

本研究はJSPS科研費(15K13570、15K16120、16H06020、16J08380、16K16188、18H04143)、北極域研究推進プロジェクト(ArCS)、環境省・(独)環境再生保全機構・環境研究総合推進費(2-1703)等の助成を受けて実施されました。

お問い合わせ先

研究内容について
国立極地研究所 気水圏研究グループ助教 當房 豊(とうぼう ゆたか)

報道について
国立極地研究所 広報室

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