2022-01-07 北九州市立大学,金沢大学,科学技術振興機構
ポイント
- 独自開発した電気化学イメージング技術により、TiO2(酸化チタン)ナノチューブ光電極の局所反応を可視化
- TiO2ナノチューブ光電極における電荷分離機構が直交型であることを実験的に初めて証明
- 太陽光水分解による水素製造のための半導体光電極の開発に弾み
JST 戦略的創造研究推進事業において、北九州市立大学 国際環境工学部の天野 史章 准教授と金沢大学 ナノ生命科学研究所の高橋 康史 特任教授らの共同研究グループは、電気化学イメージングに特化したプローブ顕微鏡を用いて、微細構造を持つ半導体光電極の電荷分離機構を明らかにしました。
半導体光電極を使った水分解反応は、再生可能資源からの水素製造法として注目されており、TiO2ナノチューブは水分解に有効な半導体光電極として知られています。しかし、電荷分離により生じる電子や正孔に起因した反応を局所的に分析することの技術的な課題から、その効率的な電荷分離機構についての理解は得られていませんでした。
本研究グループは、走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)を使用してTiO2ナノチューブ電極の局所的な光電気化学特性を調べました。通常の光電気化学測定では電極全体の情報しか得られないのに対し、SECCMではナノピペットを利用して微小な液滴状の電気化学セルを形成し、水分解反応に由来する光電流を局所的に分析できます。光電流の高い領域と低い領域が存在する一方で、TiO2ナノチューブの上部と側面における局所的な光電流値に大きな差がないことが初めて分かりました。この結果は、TiO2ナノチューブ光電極における電荷分離機構が直交型であることを実験的に示すものです。また、この電荷分離モデルは、PbO2(二酸化鉛)粒子の光電気化学的な析出反応によっても裏付けられました。
本研究成果により、さまざまなナノ構造半導体光電極の光電流特性を微細領域で理解できるようになったことから、材料設計の最適化が加速し、光電気化学的な手法を用いた水分解反応が高性能化することが期待できます。
本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ領域内の共同研究として実施され、金沢大学のマリーナ・マカロワ、福間 剛士、インペリアル・カレッジ・ロンドンのユーリ・コルチェフの協力のもと行われました。
本研究成果は、2022年1月7日(米国東部時間)に米国科学誌「ACS Catalysis」のオンライン版で公開されます。
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)
研究領域
「電子やイオン等の能動的制御と反応」
(研究総括:関根 泰 早稲田大学 理工学術院 教授)
研究課題名
電解還元法による酸素酸化反応プロセスの構築
研究者
天野 史章(北九州市立大学 国際環境工学部 准教授)
研究課題名
ナノスケールの電気化学イメージング技術の創成
研究者
高橋 康史(金沢大学 ナノ生命科学研究所 特任教授)
研究期間
平成30年10月~令和4年3月
<論文タイトル>
- “Direct Electrochemical Visualization of the Orthogonal Charge Separation in Anatase Nanotube Photoanodes for Water Splitting”
- DOI:10.1021/acscatal.1c04910
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
天野 史章(アマノ フミアキ)
北九州市立大学 国際環境工学部 准教授
高橋 康史(タカハシ ヤスフミ)
金沢大学 ナノ生命科学研究所 特任教授
<JST事業に関すること>
嶋林 ゆう子(シマバヤシ ユウコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーション・グループ
<報道担当>
北九州市立大学 企画管理課 企画・研究支援係
金沢大学 ナノ生命科学研究所 事務室
科学技術振興機構 広報課