ビッグデータを用いた都市多様性の定量分析手法の提案~デジタルテクノロジーでジェイン・ジェイコブズを読み替える~

ad
ad

2021-12-08 東京大学

1. 発表者

吉村 有司(東京大学先端科学技術研究センター 共創まちづくり分野 特任准教授)
熊越 祐介(東京大学先端科学技術研究センター 共創まちづくり分野 特任研究員(研究当時))
小泉 秀樹(東京大学先端科学技術研究センター 共創まちづくり分野 教授)

2. 発表のポイント
  • ジェイン・ジェイコブズの都市多様性の概念を生物学で提案されている「種の多様性指数」を用いて定量化し、都市環境への経済的な影響を検証した。
  • 都市多様性とエリア毎の売り上げをスペイン50都市で検証した結果、多様性が高いエリアでは小売店・飲食店の売り上げが向上するという相関関係が見られた。
  • ジェイコブズの都市多様性の概念の指標化および今回実証した効果は、都市計画やまちづくりといった分野にデータに基づいたアーバンサイエンス(注1)という新しい局面をもたらす可能性を示すものである。
3. 発表概要

都市研究や社会学、経済学に影響を与えたアメリカ人ジャーナリストのジェイン・ジェイコブズは街区の活気やコミュニティ再生における多様性の必要性を説きました。しかし、その定義や効果についての議論は、長らく続いていました。

東京大学先端科学技術研究センターの吉村有司特任准教授、熊越祐介特任研究員(研究当時)、小泉秀樹教授らのグループは、マサチューセッツ工科大学(MIT)センセーブルシティラボのセバスティアーノ・ミラルド(Sebastiano Milardo)ポスドク研究員、パオロ・サンティ(Paolo Santi)主任科学研究員、カルロ・ラッティ(Carlo Ratti)教授、およびビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)のホアン・ムリーリョ(Juan Murillo Arias)氏との共同研究により、都市多様性を定量化し、その街区レベルにおける経済効果を検証しました。生物学で提案されている「種の多様性指数」を都市に適応し(図1)、その効果をクレジットカードからの決済情報と比較することによって、都市多様性と街区レベルで集計された小売店・飲食店の売り上げとの相関関係をスペイン50都市で検証しました(図2)。その結果、多様性が高いエリアにおいては小売店・飲食店の売り上げが向上するという正の相関関係が見いだされました。本研究は、ジェイコブズが約50年前に提唱した都市における多様性が、小売店や飲食店といった都市を構成する要素にとって、ポジティブな影響を与えるということを定量的に実証したものです。

本研究成果は、国際雑誌「Environment and Planning B: Urban Analytics and City Science」に掲載されました。

4. 発表内容
【研究の背景】

ジェイン・ジェイコブズは『アメリカ大都市の死と生』(注2)において都市を「組織立った複雑性」と捉え、無数の要素間での数え切れない相互作用が下から上へと蓄積された結果であるという見方を示しました。また、都市多様性を生成する4つの原則(コミュニティ再生のための4条件)を引き出し、様々な要素が混ざり合いながらも一緒に存在している地区こそ「多様性豊かにして魅力的である」と主張しています。

本研究はジェイコブズの都市多様性のコンセプトを、生物学で呈されてきた「種の多様性指数」(注3)で実装することによって、街路レベルにおける多様性の定量分析を提案しました。

【研究内容】

本研究では、都市多様性を街路レベルにおける小売店の集積(量)と、それら小売店の種類(タイプ)の豊富さであると定義しました。これら2つの変数を同時に定量化する為に、生物学で提案されている種の多様性指数の1つであるShannon-Weaver指数(注4)の街への適応を行いました。

ある地域を200mの架空グリッドで区切っていった際に、そのグリッド内に存在する小売店の種類(カフェ、ホテル、肉屋)と、その数(カフェ10件、ホテル5件、肉屋3件)を変数とみなしました。生物学における種の多様性の定量化手法「特定エリアにおける昆虫の種類(蝶、バッタ、カブトムシ)とその数(蝶1匹、バッタ3匹、カブトムシ4匹)」に相当するものを街路レベルにおける小売店に読み替えました。

このようなグリッド単位における都市多様性を、スペインで人口が最も集積している上位50都市を対象に実装しました。さらにこれら都市多様性指数の定量分析結果と、クレジットカードからの決済情報(十分に匿名化された集計データ)との相関関係を分析しました。これら全ての分析はスペインとEUの個人情報保護法の枠内で行われました。

詳細に分析していった結果、街路レベルにおける小売店・飲食店の多様性とそのエリアの売り上げの間に正の相関関係があることが発見されました。同じタイプの小売店・飲食店だけが集積している街区よりも、様々な種類の店舗がモザイク状に集積している街区のほうが、より多くの富を惹き付けるということがデータによって実証されました。

この結果はジェイン・ジェイコブズが提唱した多様性(そのなかの都市商業の多様性)の定量化を通して、街路の賑わいを構成している小売店・飲食店の「集積のしかたの違い」による経済効果をデータで裏づけるものです。

【社会的意義・今後の展望】

現在、吉村特任准教授と小泉教授らは、2019年より東急株式会社と「都市多様性」に関する共同研究を実施し、都市多様性指数を東京に適応する試みをすすめています。本研究から得られた知見を活かす都市計画、「直感ではなくデータに基づいた都市計画やまちづくり=アーバンサイエンス」が日本の都市にも求められています。今後は、社会や文化、都市構造も全く違う日本の都市へ、欧州発の都市多様性指標の適用を追及するとともに、持続可能な都市を創造していくうえで、本研究の成果がその一助となることが期待されます。

5. 発表雑誌
雑誌名:
Environment and Planning B: Urban Analytics and City Sciences
論文タイトル:
Revisiting Jane Jacobs: Quantifying urban diversity
著者:
Yuji YOSHIMURA*, Yusuke KUMAKOSHI, Sebastiano MILARDO, Paolo SANTI, Juan MURILLO ARIAS, Hideki KOIZUMI, Carlo RATTI
DOI:
10.1177/23998083211050935
6. 問い合わせ

東京大学先端科学技術研究センター 共創まちづくり分野 特任准教授 吉村 有司(よしむら ゆうじ)

7. 用語解説
(注1)
アーバンサイエンス:マサチューセッツ工科大学が科学を理解する建築家やプランナーを育成するコースを立ち上げ、そこでつくられた概念。
(注2)
『アメリカ大都市の死と生』:Jacobs, J. (1961) The Death and Life of Great American Cities, Random House, New York(邦訳:山形浩生訳『アメリカ大都市の死と生』鹿島出版会, 2010年)
(注3)
種の多様性指数:コミュニティにどれだけの種などが存在するかを反映した定量的な指数で、異なる側面(豊かさ、均等性、優位性)を持つ生物多様性を統計的に表したもの。生物学の分野では1950年代から本指数が提案されている。その代表的なものの一つがShannon-Weaver指数であり、1955年にMacArthurによってShannon-Weaverによる情報理論を生物学に適応することが提案された。
(注4)
Shannon-Weaver指数は次の式で与えられる:
Shannon-Weaver指数
8. 添付資料

自然界における種の多様性指数の考え方と都市への応用のダイアグラム
図1. 自然界における種の多様性指数の考え方と都市への応用のダイアグラム


図2. バルセロナの都市多様性の可視化(ビジュアライゼーション)

タイトルとURLをコピーしました