高分解能ポータブルNMRの開発に成功~高温超電導バルク磁石により卓上機並みのサイズを実現~

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2021-12-08 理化学研究所,株式会社JEOL RESONANCE,イムラ・ジャパン株式会社

画像診断に使われる磁気共鳴画像(MRI)[1]と、タンパク質の構造解析などに用いられる核磁気共鳴(NMR)[1]には、超電導[2]線材を巻いたコイルが強力な電磁石として使われています。超電導状態の維持には液体ヘリウムなどの冷媒が必要であり、MRIやNMRは基本的に移動や移設が困難な構造をしています。特にNMRは、性能の向上に伴いサイズの大型化が進んでいます。

近年、複数の海外メーカーが永久磁石を使った卓上NMRを販売していますが、磁場強度の限界から用途は限定的です。一方、酸化物超電導体[3]と呼ばれる高温超電導[2]素材は、塊(バルク[3])のまま超電導状態で着磁[4]すると、永久磁石よりもはるかに強い磁場を発生し続ける性質があり、しかも冷媒が不要で冷凍機でも磁場を維持できます。理化学研究所などの研究グループは2011年、高温超電導バルク磁石を用いた世界初の超小型MRIを開発しました注1)

今回、理化学研究所生命機能科学研究センター構造NMR技術研究ユニットの仲村高志専任技師、株式会社JEOL RESONANCE[5]技術部の内海博明部員、宮本哲雄副部長、イムラ・ジャパン株式会社[6]CASE・超電導研究室の柳陽介主任研究員らの共同研究グループは、高温超電導バルク磁石の高度化に取り組み、MRIよりもさらに高い磁場均一度が必要な高分解能200MHz(4.7 T)[7]NMRの開発に成功しました。さらに、着磁した高温超電導バルク磁石を冷凍機で冷却し、磁場を発生させた状態で輸送・移設しても、磁石の性能は変化しないことを確認しました。

高分解能NMRがコンパクト・ポータブルになることで、従来機では不可能だったデスクサイドでの利用が可能になります。また、液体ヘリウムが不要であるため、ヘリウムの資源リスクを回避することで、NMRの維持コストが上昇した際の代替装置にもなり得ます。

本研究は、「第34回国際超電導シンポジウム(ISS2021)」(11月30日開催)で発表されました。

注1)2011年5月11日プレスリリース「高温超伝導バルク磁石を駆使して世界初のMRI画像を撮影

高温超電導バルク磁石にNMR測定サンプルをセットの図

高温超電導バルク磁石にNMR測定サンプルをセット

(背景に見えるのは通常のNMR超電導磁石)

NMR用の高温超電導バルク磁石

NMR測定可能な状態に組んだ高温超電導バルク磁石を上から見た図。磁石部分はアルミでカバーされた筒状だが、内部はリング状のバルクを積層した構造である。測定用のサンプルは試料管に入れ、上からセットする。手で持っている試料管・試料管ホルダーと同じものが、室温ボアに装填されている。

運搬前後に測定した水のプロトンNMR信号の図

運搬前後に測定した水のプロトンNMR信号

NMR測定の評価用サンプルとして、水(直径7mm,長さ10mm)のプロトン(水素の原子核)NMR信号を測定したもの。緑線(下)が運搬前、茶線(上)が運搬後を示す。磁場の強度を示す半値幅(FWHM、スペクトルの左右方向)に変化がなく、磁場の均一度(スペクトルの形)が維持されていることが分かる。なお線形が少し異なるのは、それぞれの場所で使用した分光計の性能差によるもの。

運搬前後のクロトン酸エチルのプロトンNMR信号(直径5 mm試料管)の図

運搬前後のクロトン酸エチルのプロトンNMR信号(直径5mm試料管)

クロトン酸エチル(C6H10O2)のプロトンNMR信号を測定したもの。スペクトルのピークは、炭素原子(C)に結合している水素原子(H)の状態(結合位置)の違いを反映するため、明確なピークは高分解能での測定結果を意味する。運搬の前(左)と後(右)のいずれにおいても、構造解析に必要なスピンカップリングの分裂(一つのプロトンに由来するピークが周囲の核の影響で特徴的な多重線となること)が観測できる高分解能NMR信号が得られた(スペクトルの拡大部分)。

発表情報

Takashi Nakamura、Yousuke Yanagi、Yoshitaka Itoh、Tetsuo Miyamoto、 Hiroaki Utsumi, “Transportable Superconducting Bulk Magnet for High Resolution NMR”, 第34回国際超電導シンポジウム(ISS2021、The 34th International Symposium on Superconductivity)

補足説明

1.磁気共鳴画像(MRI)、核磁気共鳴(NMR)
NMR(Nuclear Magnetic Resonance)は、磁場中に置かれた原子核の核スピンの共鳴現象。この応用により物質の分子構造の解析や物性の解析を行う分析器をNMR装置または単にNMRと呼ぶ。分子の相互作用などの情報も得られるため、生命科学、医薬、化学、食品、材料物性といった幅広い分野で利用されている。MRI(Magnetic Resonance Imaging)は、NMRの現象を利用して得る、生体などの空間的な情報を含む画像取得法。

2.超電導、高温超電導
極低温下で物質の電気抵抗がゼロとなり電流を流し続ける現象を超電導と呼ぶ。超電導状態となるために液体ヘリウム温度(-269℃)が必要なものを低温超電導体、液体窒素温度(-196℃)においても超電導状態を示すものを高温超電導体と呼ぶ。

3.酸化物超電導体、バルク
超電導体は線材として超電導コイルに用いられることが多いが、溶融や徐冷など特殊な工程を経て作製される塊状のものをバルク超電導体と呼ぶ。酸化物超電導体は金属原子と酸素原子を含む超電導体の総称で、液体窒素温度でも超電導を示す高温超電導体である。今回の開発では、2011年の超小型MRIでも用いたユーロピウムバリウム銅酸化物(EuBCO)から、結晶方位が揃った単一結晶粒の日本製鉄製バルクを使用した。

4.着磁
磁石素材が磁化すること。高温超電導バルク体の場合には、均一磁場を発生できるNMR用の大型超電導磁石で着磁させる。この作業が可能な施設は限られており、着磁した後も安定して磁場を維持しながら移動できる仕組みの開発も、高温超電導バルク磁石を用いた「ポータブルNMR」実用化に向けた大きな課題であった。

5.株式会社JEOL RESONANCE
日本電子株式会社の連結子会社。代表取締役社長 穴井孝弘。

6.イムラ・ジャパン株式会社
株式会社アイシンの連結子会社。取締役社長 田内比登志。

7.Hz、T
Hzは周波数の単位で、1MHzは100万Hz。テスラは磁場の単位。1テスラはネオジム系などの強力永久磁石の表面磁場と同等の強さ。核磁気共鳴現象において、共鳴周波数は磁場に比例するため、NMRでは慣習的に磁場を周波数で表現する。4.7テスラの磁場において、水素核は200MHzの周波数で共鳴する。

共同研究グループ

理化学研究所 生命機能科学研究センター 構造NMR技術研究ユニット
専任技師 仲村 高志(なかむら たかし)
(環境資源科学研究センター 技術基盤部門 分子構造解析ユニット 専任技師)

株式会社JEOL RESONANCE 技術部
部員 内海 博明(うつみ ひろあき)
副部長 宮本 哲雄(みやもと てつお)

イムラ・ジャパン株式会社 CASE・超電導研究室
主任研究員 柳 陽介(やなぎ ようすけ)
伊藤 佳孝(いとう よしたか)
(現 株式会社アイシン イノベーションセンター グループ長)

研究支援

本研究は、理化学研究所運営費交付金(生命機能科学研究、環境資源科学研究)で実施し、イムラ・ジャパン株式会社 および株式会社JEOL RESONANCEとの共同研究契約に基づいて行われました。

発表者

理化学研究所
生命機能科学研究センター 構造NMR技術研究ユニット
専任技師 仲村 高志(なかむら たかし)

株式会社JEOL RESONANCE 技術部
部員 内海 博明(うつみ ひろあき)
副部長 宮本 哲雄(みやもと てつお)

イムラ・ジャパン株式会社 CASE・超電導研究室
主任研究員 柳 陽介(やなぎ ようすけ)

機関窓口

理化学研究所 広報室 報道担当

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