空気中の湿度変化を利用して発電する「湿度変動電池」を開発~潮解性材料と塩分濃度差発電の融合~

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2021-06-02 産業技術総合研究所

ポイント

  • 空気中の湿度変化をエネルギー源として発電する「湿度変動電池」を開発
  • 新原理の発電方式によりmAレベルの電流を取り出すことに成功
  • IoT機器用自立電源などの応用に期待

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)センシングシステム研究センター【研究センター長 鎌田 俊英】 兼 人間拡張研究センター【研究センター長 持丸 正明】 駒﨑 友亮 研究員らは、空気中の湿度変化を利用して発電を行うことができる「湿度変動電池」を開発した。

小型電子機器用の自立電源として、熱電素子、太陽光発電、振動発電など、環境中に存在する微小なエネルギーを使った環境発電技術の開発が長年続けられているが、従来エネルギー源とされる熱、光、振動などは存在する場所が限られており、「どこでも発電できる」技術とは言い難かった。そこで、地球上であればほとんどどこにでも存在する湿度(空気中の水蒸気)をエネルギー源とした環境発電技術の開発が進められている。しかし、湿度を利用した既存の発電素子では、得られる電流がnA~µAレベルであり、実用的な電源とは言えなかった。今回開発した湿度変動電池は、潮解性材料と塩分濃度差発電を組み合わせた新しい原理で動作し、内部抵抗が低いためmAレベルの電流を連続して取り出すことができる。この素子は、空気にさらしておくだけで昼と夜の湿度差を用いて発電することができるため、IoT機器などの極低電力電源として応用が期待される。

この技術の詳細は、英国王立化学会の学術誌Sustainable Energy & Fuelsに2021年6月2日付で掲載される。

概要図

開発した湿度変動電池(左)と湿度を変化させたときの湿度変動電池の電圧(右)

開発の社会的背景

近年、技術の進歩に伴ってさまざまな電子機器が用いられるようになり、その数は増加の一途を辿っている。身の回りのモノの情報をインターネットに接続するIoT(Internet of Things、モノのインターネット)の技術も進展しつつあり、この傾向は今後も続くと考えられる。電子機器の数が増加し続けた場合、膨大な数の電子機器に対してどのように電源供給を行うかという問題が生じる。電子機器の数が膨大になるにつれて、電源配線の接続、定期的な充電や電池交換は物理的なスペースや労力の面から現実的でなくなると考えられる。そこで環境中の微小なエネルギーを用いて自立的に発電を行う環境発電技術の開発が行われているが、従来の技術では利用するエネルギーはどこにでもあるわけではなく、「どこでも発電できる」技術の実現は難しかった。

研究の経緯

産総研 センシングシステム研究センターでは、産総研 人間拡張研究センターと連携して人々の周囲の情報を可視化するための高性能センシング技術に加え、駆動電源やデータの無線伝送などセンシングに関わる幅広い技術の開発を行っている。今回、センシングシステム研究センターが有している湿度センサの技術を基に、湿度変動電池の開発に取り組んだ。

なお今回の研究開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 NEDO先導研究プログラム/未踏チャレンジ2050「湿度変動発電素子の研究開発」(研究代表者:駒﨑 友亮)の支援を受けて行った。

研究の内容

今回開発した湿度変動電池は、潮解性無機塩水溶液の吸湿作用と塩分濃度差発電の技術を組み合わせることで湿度変動を用いた発電を可能にしている。これまでにも吸湿する際に電圧を発生する酸化グラフェンなどを利用した発電素子が研究されていたが、これらの素子は内部抵抗が数kΩ以上と高く、mAレベルの電流を取り出すことが難しかった。今回開発した湿度変動電池は、これまでとは異なる原理で動作する(図1)。湿度変動電池は大気に開放された開放槽と密閉された閉鎖槽からなり、2つの槽には水と潮解性を有するリチウム塩からなる電解液が封入されている。この電池が低湿度環境にさらされると、開放槽からは水分が蒸発して濃度が上昇する一方、閉鎖槽は密閉されているため濃度変化は生じない。これによって開放槽と閉鎖槽間で濃度差が生じ、電極間に電圧が発生する。高湿度環境にさらされた場合は、逆に開放槽内の水溶液が空気中の水分を吸収して濃度が減少する。これにより先程とは逆向きの濃度差が発生し、逆向きの電圧が発生する。この過程が繰り返されるのであれば、理論的には半永久的に湿度の変動から電気エネルギーを取り出すことができる。空気中の湿度は昼夜の温度変化などに伴って一日の中で数十%の変動があるため、これを利用すれば「置いておくだけでどこでも発電できる」技術が実現できる。本技術は、空気中のわずかな湿度変動を利用した新たな再生可能エネルギーと言える。

図1

図1 湿度変動電池の動作原理

今回、実際に湿度変動電池を作製し、温湿度が制御できる恒温恒湿槽内で2時間ごとに湿度30 %と90 %を繰り返したところ、湿度30 %のときには22~25 mV程度、湿度90 %のときには-17 mV程度の電圧が発生した(図2)。電圧が最大となっているときに負荷を接続して出力測定を行ったところ、最大で30 µW (3.3 µW/cm2)の出力が得られた。また、短絡電流は5 mA (0.56 mA/cm2)であり、1 mA以上の電流を1時間以上継続して出力することもできた。湿度を用いたこれまでの発電技術では、これほど大きな電流を長時間継続して出力できるものは報告されておらず、本素子は非常に高い電流供給能力を有していると言える。これは、本素子が溶液からなる素子であり、従来の素子に比べて内部抵抗が低いことに起因している。

図2

図2 湿度を変化させたときの湿度変動電池の電圧(左)と負荷を接続した際の出力(右)

また今回、省電力機器の動作デモとして10 µW以下で駆動が可能な低消費電力モーターを作製し、湿度変動電池で駆動させた。湿度を20~30 %に保った密閉容器に湿度変動電池を入れ、電圧が一定の値になったところでモーターと接続すると、溜まったエネルギーによりモーターを2時間半以上回転させることができた(動画参照)。

湿度変動電池による低消費電力モーターの駆動

このように、湿度変動電池は湿度変動から比較的大きなエネルギーを長時間安定して取り出すことができ、IoT機器などの電源としての応用が期待される。

今後の予定

さらなる出力向上や長期間使用時の耐久性など、実用化に向けた研究を行っていく。

用語の説明
◆環境発電
光、熱、振動、電波などの環境中に存在する微小なエネルギーを用いて発電を行う技術。エネルギーハーベスティングとも呼ばれる。得られる電力はわずかであるため消費電力の大きい機器を動かすことはできないが、配線や電池交換が不要になるという利点があり、センサやマイコンなどの電源として期待されている。
◆潮解性
化合物が空気中の水分を吸収して水溶液になる性質。潮解性を有する物質として水酸化ナトリウムや塩化カルシウムなどがよく知られている。
◆塩分濃度差発電
塩分濃度の異なる2種類の水溶液を用いる発電方法。塩分濃度差発電の代表的なものとして、河川水と海水を使った発電の研究が行われている。
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