2021-04-21 農研機構
ポイント
農研機構と雪印種苗(株)が共同で育成した中生新品種オーチャードグラス「えさじまん」の種子の販売が2021年4月から開始されました。本品種は北海道および北東北での栽培に適し、既存品種に比べて糖含量が高く、栄養収量の多い品種です。サイレージ発酵品質も良好で、家畜への給与により産乳量の増加が確認されました。酪農経営における自給粗飼料生産の高品質化と低コスト化に貢献することが期待されます。
概要
オーチャードグラスは北海道から九州の高地までの広い地域で栽培されている主要なイネ科牧草ですが、刈遅れなどにより飼料品質が低下する場合があり、品質の改良が求められていました。
農研機構は、飼料品質のうち糖(WSC1))に着目して、2000年度からオーチャードグラスの飼料品質の改良に着手。2008年度から雪印種苗(株)と共同で候補系統の収量性と飼料品質による選抜を実施し、既存品種より糖含量が高く、越冬性および収量性が高く安定している中生品種「えさじまん」を育成しました。
「えさじまん」は2015年に品種登録出願を行い、2017年に品種登録されました。また、2015年「北海道優良品種」に認定されています。
雪印種苗(株)による種子増殖期間を経て、今春本格的に種子の販売を開始しました。
関連情報
予算 : 農林水産省委託プロジェクト研究「食用米との識別性を有する多収飼料用米、TDN収量が高い飼料作物品種の開発」および「栄養収量の高い国産飼料の低コスト生産・利用技術の開発」ならびに運営費交付金
品種登録番号 : 「第25796号」(2017年3月15日登録)
その他
本資料は農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、筑波研究学園都市記者会、道政記者クラブ、札幌市政記者クラブに配付しています。
※農研機構(のうけんきこう)は、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構のコミュニケーションネーム(通称)です。新聞、TV等の報道でも当機構の名称としては「農研機構」のご使用をお願い申し上げます。
問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構北海道農業研究センター 所長 安東 郁男
研究担当者 :
同 寒地酪農研究領域 上級研究員 眞田 康治
広報担当者 :
同 広報チーム長 佐藤 豪
詳細情報
「えさじまん」育成の背景と経緯
我が国の畜産は輸入飼料への依存度が高く、不安定な国際飼料価格の影響を受けやすいことから、畜産物の安定供給のために飼料自給率を向上させる必要があります。自給飼料の高品質化を目的に、基幹牧草であるオーチャードグラスについて、雪印種苗(株)と共同でサイレージ適性と北海道~東北の厳しい気象条件への適応性の高い「えさじまん」を育成しました。
「えさじまん」の特徴
北海道と東北で栽培実績がある、中生のオーチャードグラス「ハルジマン」と比べて、以下の特徴を持っています。
- 糖(WSC)含量は、場所および年間を通して「ハルジマン」より約3ポイント高い(表1)。
- 推定TDN2)含量は、「ハルジマン」より約2ポイント高く、TDN収量2)は「ハルジマン」比109%と多収(表1)。繊維成分(NDF)含量は、「ハルジマン」より低い。
- サイレージ発酵品質は、Vスコア3)が「ハルジマン」より高い(表1)。
- 「えさじまん」の1番草サイレージを主体とするTMR4)を搾乳牛に給与した場合、「ハルジマン」給与に比べて、産乳量が4%多い(表1)。
品種の名前の由来
品質が優れる飼料(家畜の餌)であることを意味します。
今後の予定・期待
オーチャードグラスは、特に北海道において植生改善と気象リスク分散のために、今後栽培面積が増加すると予測されます。販売後10年間で、北海道と東北を合わせて7,500haの普及が見込まれます。今後は、早生から晩生および極晩生まで糖含量を高めた品種を育成し、各農家の作付体系に合わせて品種を選択できるようにする予定です。
種子入手先
以下からご購入が可能です。まずは下記にお問い合わせください。
雪印種苗株式会社
問い合わせ先
農研機構北海道農業研究センター 研究推進部 研究推進室 知的財産チーム
用語の解説
- 1)WSC (水溶性炭水化物)
- Water soluble carbohydrateの略。グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、スクロース(ショ糖)と貯蔵性炭水化物(寒地型イネ科牧草ではフルクタン)の合計。植物の液胞中に存在します。
- 2)TDN (可消化養分総量)
- Total digestible nutrientsの略。飼料の栄養価の指標で、飼料中の可消化養分から算出されます。TDN収量は、単位面積当たりの可消化養分の収量(栄養収量)。
- 3)Vスコア
- サイレージの発酵品質の良否を示す指標で、乳酸など有機酸やアンモニア態窒素の含量から算出。100点満点で、80点以上が「良」、79~60点が「可」、59点以下が「不良」。
- 4)TMR (混合飼料)
- Total mixed rationの略。粗飼料、濃厚飼料、ビタミン等の添加物などをバランス良く組み合わせた完全混合飼料です。
参考図
表1 オーチャードグラス「えさじまん」の特性
写真1 オーチャードグラス「えさじまん」の草型
(2013年6月12日撮影、農研機構北農研)