「電子の豪雨」現象の原因を解明

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国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟とジオスペース探査衛星「あらせ」で の観測により、

2020-09-04 情報・システム研究機構国立極地研究所,早稲田大学,宇宙航空研究開発機構,国立高等専門学校機構茨城工業高等専門学校,東海国立大学機構名古屋大学,京都大学,金沢大学,電気通信大学

国立極地研究所、早稲田大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、茨城工業高等専門学校、名古屋大学、京都大学、金沢大学、電気通信大学などの研究者で構成される研究グループは、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載された複数の観測装置と、ジオスペース探査衛星「あらせ」※1(図1左)との同時観測データから、ISSで観測される「電子の豪雨」現象の原因がプラズマ波動であることを明らかにしました。本成果は、ISSでの宇宙飛行士の船外活動のための宇宙天気予報、さらには、人工衛星の保護のための放射線帯の宇宙天気予報の精度向上にもつながると期待されます。

ジオスペース探査衛星「あらせ」

国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟に取り付けられたSEDA-AP、MAXI、CALET

図1左:ジオスペース探査衛星「あらせ」©ERG science team

右: 国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟に取り付けられたSEDA-AP、MAXI、CALET ©JAXA/NASA

<研究の背景>

 高度400kmを周回するISSの「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォームには、高エネルギー電子・ガンマ線望遠鏡(CALET)※2、全天X線監視装置(MAXI)※3、宇宙環境計測ミッション装置(SEDA-AP)※4(図1右)などの放射線計測装置が搭載されており、高エネルギー電子をはじめとする放射線を観測しています。本研究グループはこれまで、これらの装置のデータを用い、数分間にわたってエネルギーの高い電子が降り注ぐ「電子の豪雨」現象(相対論的電子降下現象;Relativistic Electron Precipitation現象、以下、REP現象)を発見し(先行研究1)、さらに、船外活動を行う宇宙飛行士の被ばくにREP現象が及ぼす影響を見積もることに成功していました(先行研究2)。この突発的な放射線量の増加現象を事前に予測するための「宇宙天気予報」の精度向上が期待されるとともに、その発生機構の解明が求められてきました。

<研究の内容及び成果>

 これまで、REP現象の原因は、その発生の時間的分布から、イオンの作るプラズマ波動(EMIC波動)ではないかと推測されてきました。そこで本研究では、「あらせ」とISSが同じ磁力線上を通過した機会のうち、ISSでREP現象を観測した事例を選んで、ISSでの高エネルギー電子の測定結果と「あらせ」のプラズマ波動データの比較・解析を行いました。

 その結果、推測通り、EMIC波動が原因となって、ISSでのREP現象が発生していた事例が確認されました(図2上)。さらにそれだけではなく、電子の作るプラズマ波動(コーラス波動、静電ホイッスラー波動)も原因となって、EMIC波動によるものとは高エネルギー電子の時間変化の傾向が異なるREP現象(図2中、下)が発生していることも新たに明らかになりました。EMIC波動によるものでは準周期的、コーラス波動によるものでは不規則、静電ホイッスラー波動によるものでは「なめらか」という電子の観測数の時間変化における傾向の差異は、時間分解能を高めたCALETのデータと、MAXI、SEDA-APの連携観測から明らかになったものです。CALETとMAXIは元々、それぞれ一次宇宙線観測、天体物理学の観測を目的とした装置ですが、本研究では、本来の研究分野を大きく超えた連携観測によって、3種のプラズマ波動と、時間変動パターンの異なるREP現象の原因解明のための糸口を掴みました。

図2:「あらせ」のプラズマ波動観測データ(左)と、国際宇宙ステーションでの電子の集中豪雨(REP現象)の観測データ(右)。上から順に、EMIC波動によるREP現象、コーラス波動によるREP現象、静電ホイッスラー波動によるREP現象。

左図は、横軸は時間、縦軸は周波数、色は強度を示しており、波動の特徴的な周波数が時間とともにどう変わっているかを示している。右図は、横軸が時間、縦軸が1秒ごとに検出した高エネルギー(MeV)電子の個数を示しており、黒線は1.6 MeV以上、赤線は3.6 MeV以上のエネルギーを持つ電子を表している。

EMIC波動に対応する図では数十秒間で約10倍増加する長期トレンドがありながら、数秒ごとに倍近く変化する成分も確認できる。また、静電ホイッスラーに対応するなめらかなものは、50倍ぐらいの幅で、単調に増加して単調に減少している。

<今後の展開>

 近年、これらのプラズマ波動が、いつ、どこで、どういう規模で発生するかを予測するための研究が国際的な進展を見せています。特に、これらのプラズマ波動は、人工衛星の障害の原因になる放射線帯(ヴァン・アレン帯)の電子を大気まで一気に降り注がせるため(先行研究3)、放射線帯を予測するための先端的な研究が進められてきました。

 本研究により明らかになった「ISSでのREP現象の原因がプラズマ波動であること」は、比較的低い軌道(高度400km)を周回するISSでの宇宙飛行士を守るための宇宙天気予報と、静止軌道(高度36,000km)を周回する人工衛星を守るための宇宙天気予報が表裏一体であること、プラズマ波動を介して統一的に理解できることを示唆しています。また、REP現象について、更に多くの観測例を得て、シミュレーションなど様々な方法での研究を通じ、この物理的メカニズムの更なる解明が期待されます。

 本研究グループは今後、放射線帯での電子の消失や、ISSでの被ばく、脈動オーロラ(先行研究4、5)、大気へのインパクト(先行研究6)など、多くの現象についての整合的、定量的な予測を目指し、研究を進めます。

<観測データの公開について>

 JAXAでは、人工衛星や探査機、ISSで取得した観測データを世界中で広く利用していただくため、取得した観測データをアーカイブし、様々なデータベースを公開しています。

 本研究で利用したMAXI、CALET、SEDA-APは、それぞれ全く異なる観測目的を持ちながら、同じプラットフォームで観測をおこなった装置です。本研究グループと、科学データ・アーカイブDARTS(Data ARchives and Transmission System)は、各装置で同時に観測したデータを調べたときの相乗性に着目しました。各プロジェクトチームとDARTSは共同で、各分野の研究者が利用しやすいデータを作成・公開しており、そのことが本研究の実現にも大きな役割を果たしました。

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