134 億光年先の最も遠い銀河を同定~ 最遠方銀河から酸素と炭素を検出~

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2020-12-14 国立天文台

東京大学の柏川伸成教授らの研究グループは、銀河 GN-z11 から3本の紫外線輝線を検出し、この銀河が 134 億年かなたにある銀河であることを確定しました。この銀河は、これまでハッブル宇宙望遠鏡の観測によって、非常に遠方にある銀河ではないかと言われていましたが、正確な距離は測定されていませんでした。この銀河が赤方偏移 10.957 であることが今回の観測結果で初めてわかり、人類が目にした最遠方の銀河であることが確定されました。
宇宙で最初に生まれた銀河はいつどのように生まれたのだろう?この謎に対する答えを求めて、人類はこれまで宇宙の果てにいる最も遠い銀河を探し続けてきました。これまでも次々に最遠方記録が塗り替えられ (注1)、わたしたちの知る宇宙のフロンティアはどんどん広がってきました。そんな中、最近では GN-z11 という銀河が研究者の間で注目を浴びていました。この銀河はハッブル宇宙望遠鏡によって発見され、遠方銀河に特徴的なスペクトルの段差らしきもの (注2) が見つかったことから、おそらく約 134 億光年先の銀河だろうと推測されていましたが、地球からの正確な距離は測定されていませんでした。
今回、研究グループはアメリカのケック望遠鏡 に装備された最新鋭の近赤外線分光器 MOSFIRE (モスファイア、注3) を用いてこの GN-z11 を観測し、炭素イオンと酸素イオンが放つ光を検出することに成功しました (図1)。これらの輝線から得られた赤方偏移は 10.957 で、この銀河が 134 億光年かなたにある銀河であることが判明しました。これはこれまで観測された銀河の中で最も遠い距離となります。

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134 億光年先の最も遠い銀河を同定 ― 最遠方銀河から酸素と炭素を検出 ― 図

図1:最遠方銀河 GN-z11。 (上) ハッブル宇宙望遠鏡で取得された GN-z11 の画像。WFC3 に F160W フィルターを装着し観測されました。矢印の先にあるのが宇宙で最も遠い銀河 GN-z11。 (下) 銀河 GN-z11 からの近赤外線スペクトル。2本の炭素輝線 (緑色) は、銀河を出た時は波長 1907 オングストローム、1909 オングストロームの紫外光でしたが、赤方偏移されて波長 2.28 マイクロメートルの赤外線として観測されました。このほかに波長2マイクロメートルの酸素輝線も観測されました。いずれも2階電離イオンです。 (クレジット:東京大学)


検出された炭素と酸素の光は現在の銀河には見られない特殊な物理状況を示唆しており (注4)、たった 7000 万年という年齢と、太陽の 10 億倍という質量 (星の成分) が推測されることから、この若い銀河が生まれてから急速に成長したと考えられます。「正直、観測前にはこれが本当に遠方銀河なのか半信半疑でしたが、観測結果を見たときに確信に変わりました。宇宙はいつも驚きと感動を与えてくれます」と柏川教授は話します。
今回の発見で、人類の知る宇宙の果てはまた広がりました。しかしこれで終わりではありません。「炭素と酸素が GN-z11 に見つかったということは、この銀河が、金属を含まない、宇宙で最初に生まれた銀河ではない、ということを示しています。来年には JWST という高性能の宇宙望遠鏡が打ち上げられる予定で、宇宙最遠方のフロンティアは飛躍的に広がることが期待されています」と、柏川教授は、将来の研究への期待を語っています。
本観測は、「すばる―ケック観測時間交換」という枠組みで行なわれました。
本研究成果は、Nature Astronomy (2020年12月14日付) に掲載されました (Linhua Jiang, Nobunari Kashikawa, Shu Wang, Gregory Walth, Luis C. Ho, Zheng Cai, Eiichi Egami, Xiaohui Fan, Kei Ito, Yongming Liang, Daniel Schaerer, and Daniel P. Stark, “Evidence for GN-z11 as a luminous galaxy at redshift 10.957“)。

(注1) これまでに最遠方を記録した銀河の例としては、以下をご覧ください。
最遠方銀河で見る夜明け前の宇宙の姿 (すばる望遠鏡 2012年6月3日リリース)
129.1 億光年の彼方、宇宙の「夜明け」にきらめく銀河を発見(すばる望遠鏡 2011年12月15日リリース)
「最も遠い銀河の世界記録を更新」-宇宙史の暗黒時代をとらえ始めたすばる望遠鏡(すばる望遠鏡 2006年9月13日リリース)
すばる、最も遠い銀河を発見(すばる望遠鏡 2003年3月19日リリース)

(注2) 「ライマンブレイク」と呼ばれるスペクトルの特徴です。本当にスペクトル上の段差なのか判別が難しいのと、正確に波長が測定できないため、天体までの距離決定精度が劣ります。

(注3) Multi-Object Spectrometer For Infra-Red Explorationの略。

(注4) 観測された炭素の強度と炭素と酸素の強度比の関係は、一般的な光電離モデルでは説明できず、炭素の量が異常に多いか、AGN (活動銀河核) が強く照射しているか、あるいはその両方が関与していると考えられます。

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