フェムト秒レーザー光の高次高調波によって薄膜の微細加工に成功!

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極端紫外光の回折限界集光が拓く微細加工の最前線

2020-05-15 量子科学技術研究開発機構

発表のポイント

  • 近赤外域のフェムト秒レーザー光の高次高調波として極端紫外光を発生させ、その極端紫外光を回折限界にまで集光し、サブマイクロメートルスケールで微細加工を実現。
  • 極端紫外域の高次高調波光によって加工が実現されるための照射強度の閾値を、PMMA薄膜および金属ナノ粒子レジスト薄膜について決定。
  • 極端紫外域の高次高調波光による加工部位を顕微ラマン分光によって評価し、極端紫外光によるPMMA薄膜の加工に伴い薄膜内の化学結合が切断されることを発見

発表概要

国立大学法人東京大学(総長:五神 真)大学院理学系研究科化学専攻の山内 薫教授、岩崎純史教授、本山央人助教、大学院工学系研究科附属光量子科学研究センターの坂上和之主幹研究員、同精密工学専攻の三村秀和准教授、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長:平野俊夫)量子ビーム科学部門関西光科学研究所の石野雅彦主幹研究員、国立大学法人宇都宮大学(学長:石田朋靖)工学部の東口武史教授、国立研究開発法人産業技術総合研究所(理事長:石村和彦)先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ(兼務:分析計測標準研究部門)黒田隆之助ラボチーム長らの研究グループは、近赤外域のフェムト秒レーザー光の高次高調波(注1)として極端紫外光(注2)を発生させ、その極端紫外光を回折限界にまで集光して試料に照射することによって、サブマイクロメートルスケールでの微細加工を実現しました。

レーザー加工においては加工を如何に微細にできるかが最も大きな課題です。光の波長が短い程、回折限界のサイズが小さくなるため微細加工に適しています。近赤外域のフェムト秒レーザーを希ガスなどの媒質に集光すれば高次高調波として極端紫外域の超短パルス光を発生させることができます。そのため、極端紫外域の高次高調波は微細加工のための有力な光源として注目されてきました。

ところが、極端紫外域光の集光には屈折率を利用する透過型レンズを使うことができないため反射光学素子を用いなければならない上、波長が短いために反射光学素子の面精度を極めて高くしなければ回折限界での集光を達成することが出来ないという問題があり、これまでは、極端紫外域の高次高調波による微細加工は困難であると考えられてきました。

我々はこの問題点を、独自に開発した高い開口数を持つ高精度な回転楕円ミラー(注3)によって克服し、回折限界にまで集光した極端紫外域の高次高調波によって薄膜サンプルの微細加工に成功しました。

具体的には、近赤外域フェムト秒レーザーパルスをアルゴンガスに集光し、極端紫外域(波長約32 nm)の高次高調波を発生させ、回転楕円ミラーによってサブマイクロメートル径に集光し、アクリル樹脂(PMMA、注4)薄膜および金属ナノ粒子レジスト薄膜(注5)の加工を行いました。さらに、加工部位を顕微ラマン分光(注6)によって評価し、加工に伴いPMMA薄膜中の化学結合が切断されるという薄膜内の微視的な結晶構造の変化を明らかにしました。

本研究により、極端紫外域の高次高調波光を高精度な反射光学素子を用いて集光すれば、サブマイクロメートル領域の微細加工が可能であることが明らかになりました。この成果は、レーザーによる微細加工の可能性を大きく広げるものであり、今後の微細加工プロセスへの応用が期待されます。

なお、本成果は2020年5月14日(米国時間)に米国科学誌「オプティクス・レター」にて公開されます。

本研究は、文部科学省“光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)”(「次世代アト秒レーザー光源と先端計測技術の開発(研究代表者:東京大学 山内 薫教授(部門長))JPMXS0118068681」、「光量子科学によるものづくり CPS 化拠点(研究代表者:東京大学石川顕一教授(部門長)JPMXS0118067246」、「先端ビームによる微細構造物形成過程解明のためのオペランド計測(研究代表者:京都大学 橋田昌樹准教授)JPMXS0118070187」);国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託事業「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」;日本学術振興会 (JSPS) 科研費特別推進研究 (15H05696);文部科学省最先端研究基盤事業「コヒーレント光科学研究基盤の整備」;科学技術振興機構(JST)「革新的イノベーション創出プログラムCOI STREAM」の助成を受けたものです。

発表内容

研究背景

近年、レーザーによる材料加工は、モノづくりの主要な加工手段として現代社会を支える上でなくてはならない存在となっています。加工に使用する光の波長が短い程、より精密な加工が実現できるため、極端紫外光(波長10 – 100 nm)は可視光(波長400 – 700 nm)よりも微細加工に適しています。さらに、物質の多くは極端紫外域において高い吸光度を持っているため、極端紫外域の光は強度が弱くても物質に照射した際に、その光エネルギーがより効率良く物質に与えられます。また、パルスレーザーを用いたレーザー加工においては、パルスの時間幅が短い程、加工にともなう余分な熱が発生しないため高精度な加工に適しています。

本研究で用いた近赤外域のフェムト秒レーザー光の高次高調波は、極端紫外光であり、かつ、フェムト秒領域のパルス光であるという、加工光源としての利点を併せ持つものと考えられてきました。しかし、極端紫外域では、光を集光するためのレンズなどの透過型の屈折光学素子が存在しない上、反射型の光学素子(集光ミラー)を十分に高い面精度で製作することが困難であったため、近赤外域のフェムト秒レーザー光の高次高調波の加工への応用は極めて限られていました。

そこで、我々の研究グループでは、高精度な集光ミラーを独自に開発し、近赤外域のフェムト秒レーザー光の高次高調波を回折限界にまで集光することによって、極端紫外領域のレーザー加工を実現することを目指しました。

研究内容

我々は近赤外フェムト秒レーザーパルスをアルゴンガスに集光することによって極端紫外波長域の高次高調波光(27.2 – 34.3 nm)を発生させました。その高次高調波光を、独自に開発した高い開口数を持つ高精度な回転楕円ミラーを用いて回折限界近くの1.48μm×0.79μm(半値全幅)にまで集光し、アクリル樹脂(PMMA)薄膜および金属ナノ粒子レジスト薄膜に照射し(図1)、サブマイクロメートルサイズの微細加工を実現しました。図2は、高次高調波照射後に原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope: AFM、注7)を用いて測定した照射穴の形状とその断面プロファイルを示しており、0.67μm×0.44μm(半値全幅)の微細穴加工が達成されています。また、照射強度の関数としてPMMA薄膜(図3(a))および金属ナノ粒子レジスト薄膜(図3(b))の加工穴の深さをプロットすることによって、高次高調波の照射強度がアブレーションを引き起こすのに十分に高いことを明らかにしました。さらに、200ショット照射時に加工が実現されるための照射強度の閾値を、PMMA薄膜について0.42 mJ/cm2、金属ナノ粒子レジスト薄膜について0.17 mJ/cm2と求めました。PMMA薄膜については、1ショットの照射によって加工が実現されるための照射強度の閾値が14.0 mJ/cm2であることを、ショット数を変えて行った実験結果の解析によって求めました。

また、高次高調波光をPMMA薄膜に照射してできた加工痕を顕微ラマン分光法で観察し、加工に伴ってPMMA薄膜内のポリマー主鎖が切断されるという結晶構造の微視的変化が起こることを明らかにしました。

社会的な意義および今後の予定

本研究成果は、近赤外域のフェムト秒レーザー光の高次高調波として発生させた極端紫外光をサブマイクロメートルに集光することによって、集光径と同程度の加工が実現可能であることを示したものであり、高次高調波光源の精密加工への利用を切り拓く第一歩と位置付けられます。今回、我々がサブマイクロメートルレベルの精密加工を実現したことは、材料表面に自在に微細構造を構築することができることを示したものであり、この成果を踏まえ、今後、微細加工プロセスに高次高調波光源が活用されるものと期待されます。

発表雑誌

雑誌名:「Optics Letters

論文タイトル:Surface processing of PMMA and metal nano-particle resist by sub-micrometer focusing of coherent extreme ultraviolet high-order harmonics pulses

著者:Kazuyuki SAKAUE,* Hiroto MOTOYAMA, Ryosuke HAYASHI, Atsushi IWASAKI, Hidekazu MIMURA, Kaoru YAMANOUCHI,* Tatsunori SHIBUYA, Masahiko ISHINO, Thanh-Hung DINH, Hiroshi OGAWA, Takeshi HIGASHIGUCHI, Masaharu NISHIKINO, AND Ryunosuke KURODA

DOI番号:https://doi.org/10.1364/OL.392695

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