世界初!レーザーコーティング照射条件の施工前予測が可能なシステムを開発

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レーザー加工の職人技を身近な技術に

2018/06/15 日本原子力研究開発機構 大阪大学

【発表のポイント】

  • レーザーコーティング加工ではコーティング粉末の供給量やレーザー光の出力の適切化が課題であり、経験または従来のシミュレーションコードから算出することは時間・費用の観点から困難である。
  • 原子力機構は、レーザーコーティング加工時に生じる固体金属の溶融・凝固過程に対して、汎用エンジニアリングワークステーションでも利用可能な計算科学シミュレーションコードSPLICEを世界に先駆けて開発した。
  • SPLICEを活用することで、コーティング膜厚、溶込み深さなどの要求仕様を満足するレーザー照射条件などの施工前評価が実測では数ヶ月要していたのに対して数週間に短縮した。
  • レーザーコーティング装置に組み込むことで装置の市場拡大が期待される。
  • 本成果での条件事前評価に係る考え方の一部は、平成30年度より開始する予定のレーザー溶断に係る研究開発「ふくいスマートデコミッショニング技術実証拠点」事業でも活用する計画である。

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 (理事長 児玉 敏雄) 高速炉・新型炉研究開発部門 敦賀総合研究開発センター レーザー・革新技術共同研究所の村松 壽晴 GL、原子力科学研究部門 物質科学研究センター 放射光エネルギー材料研究ディビジョンの菖蒲 敬久 研究主幹と国立大学法人大阪大学 (総長 西尾 章治郎) 接合科学研究所の塚本 雅裕 教授らの研究グループは、レーザーコーティング加工時に生じる固体金属の溶融・凝固過程を汎用エンジニアリングワークステーション1)により評価可能な計算科学シミュレーションコードSPLICE 2)を世界に先駆けて開発しました。レーザーコーティング加工は、基板上にコーティング粉末を噴射すると同時にレーザー光を照射し、高品質なコーティング膜を付与する技術です。本加工技術は金属基板に異なる金属膜を薄くコーティングすることで異なる機械的性質を付与できることが特徴です。しかしながら、要求仕様を満足するコーティング膜を付与するためには、コーティング粉末の供給量やレーザー光の出力などを、基板材料とコーティング粉末材料の組合せに応じて適切化することが求められます。今回開発したSPLICEはこのコーティング膜厚、溶込み深さなどの要求仕様を満足するレーザー照射条件などの施工前評価を実測では数ヶ月要していたのに対して数週間に短縮することができました。SPLICEの根幹を成す固体金属の溶融・凝固過程の評価性能は、SPring-83)からの高輝度放射光X線4)を用いたイメージング法などにより、その妥当性を確認しています。今回の成果により、今後市場展開が計画されているレーザーコーティング装置の産業界での市場拡大が期待されます。

本成果は、内閣府が進める戦略的イノベーション創造プログラム (SIP) / 革新的設計生産技術 (管理法人:NEDO) の研究テーマの一つ「高付加価値設計・製造を実現するレーザーコーティング技術の研究開発 (研究開発責任者:国立大学法人大阪大学 接合科学研究所 塚本 雅裕 教授)」において、平成26年度より進めている研究成果の一部です。

なお、本成果での条件事前評価に係る考え方の一部は、平成30年度より新たに開始する予定のレーザー溶断に係る研究開発「ふくいスマートデコミッショニング技術実証拠点」事業 5)でも活用する計画です。

【研究開発の背景と目的】

近年、様々な産業分野において、材料を接合する、穴を開けるなどの加工にレーザーが用いられています。レーザー加工は、加工領域が小さい、短時間、精密、遠隔操作が可能などのすぐれた特徴を有しています。一方で、レーザー加工では、これらの加工を実現するためにレーザー照射条件などを適切に設定するという課題があります。一般的には、この条件適切化は繰返しによる膨大な時間と作業を浪費して取得します。これこそが、多品種少量生産などを指向する産業分野へのレーザー加工技術の導入を阻害する一因ともなっています。今回研究開発の対象であるレーザーコーティングに関しても同様の課題が発生しています。

レーザーコーティングとは、基板上にコーティング粉末を噴射すると同時にレーザー光を照射し、高品質なコーティング膜を付与する技術です。レーザークラッティング(肉盛溶接)と似ていますが、レーザーコーティングは金属基板に異なる金属膜を薄くコーティングすることで異なる機械的性質を付与できることが大きな違い、特徴です。現在開発中であり、最終的には製品として市場販売を目指しています。市場販売する上で最も大きな課題は、このレーザーコーティング技術が誰でもすぐに取り扱えるようにすることです。そのためにはこの匠の技術を手助けする手段が必要となります。本研究では、この手助けする手段として計算科学的手法を考案しました。

【研究成果】

本研究では、計算精度を確保しつつも計算負荷を可能な限り低減し、汎用エンジニアリングワークステーションでも数値解析を可能にする事を第一に考えました。そのため、ミクロ挙動とマクロ挙動6)を多階層スケールモデル7)により接続し、気相・液相・固相を一流体モデルにより定式化した非圧縮性粘性流モデル8)を基礎式に採用しました。加えて、レーザー加工時に現れる核となる物理現象、例えばレーザー光-物質相互作用、半溶融帯を介した溶融金属-固体材料間の熱的機械的相互作用、溶融・凝固相変化過程などの複合物理過程を取扱うために必要な様々な物理モデルを導入しました(図1)。以上を考慮し、計算科学シミュレーションコードとしてSPLICEが開発されました。

図1 レーザーコーティング加工に影響を及ぼすレーザー照射条件などのパラメータ

一方、計算シミュレーションの検証には、実証実験との比較がもっとも一般的です。SPLICEに関しても3つの方法で検証を行いました。図2でも示しますが、レーザーコーティングしている様子の計算シミュレーションの検証は大型放射光施設SPring-8からの高輝度放射光X線を用いたイメージング測定により行いました。本測定では金属を透過させ10マイクロメートル程度の空間分解能、千分の1秒の時間分解能でレーザーコーティングしている様子が観察できます。この観察結果とSPLICEの計算シミュレーションを比較することで、コーティング、及び溶込みが生成される様子を確認しました。またコーティングの厚さや溶込み深さ、キャビティーの有無など定量的な評価は生成した試験片を切断し、顕微鏡等で観察した結果と比較することで行いました。以上より、SPLICEの妥当性を明らかにするとともに、より質の高い結果を得るための高度化も合わせて行ないました。

図2は、キッチンや調理器具などの金属素材に使われているオーステナイト系ステンレス鋼SUS304母材表面に、さらにさびにくい金属であるニッケル基合金ハステロイ金属粉(大きさ数十マイクロメートル)をコーティングした例です。SPLICEを使用すると単位面積当たりの母材への入熱量Eと金属粉供給量Wの変化に伴い図2(a)から(d)の様に予測することができます。この結果、適正施工が行われているのは、図2(d)であることがわかります。このようなシミュレーションを様々な条件で実施し、整理すると図2(e)が完成します。以上より適正条件を導き出すEとWが決定します。このような計算を行うことで、作成したいコーティングの厚さに対して、どの程度の溶込み深さが発生するのか、逆に許される溶込み深さに対してどの程度の厚さのコーティングができるのか、SPLICEにより施工前に予めこのような特性を評価することが、従来法では数ヶ月要していたのに対して、わずか数週間で導き出すことができます。

図2 SPLICEコードを用いたレーザーコーティング溶込み深さ評価の一例

【今後の展開】

今後市場展開が計画されているレーザーコーティング装置の産業界での利用促進を目指し、SPLICEコードの外部利用を積極的に進める予定です。また本成果での条件事前評価に係る考え方の一部は、平成30年度より新たに始まるレーザー溶断に係る研究開発「ふくいスマートデコミッショニング技術実証拠点」事業でも活用する計画です。

【用語解説】

1)汎用エンジニアリングワークステーション

数値演算機能やグラフィックス機能を強化した汎用計算機であり、科学技術計算やグラフィックデザインなどの分野で多く利用される。

2)SPLICEコード

レーザー溶断・溶接、レーザーコーティング現象の解明などを目的として開発した多次元コード。一流体モデルを用いて統一的に気・液・固の挙動が解析可能であり、溶接時の残留応力制御を目標としていることから、residual Stress control using Phenomenological modeling for Laser welding repair process In Computational Environment とし、SPLICEと命名。

3)大型放射光施設SPring-8

理化学研究所が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の大型放射光施設。SPring-8 の名前は Super Photon ring-8 GeV に由来する。SPring-8では、遠赤外から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。SPring-8は日本の先端科学・技術を支える高度先端科学施設として、日本国内外の大学・研究所・企業からの年間1万4,000人以上の研究者によって利用されている。

4)高輝度放射光X線

高エネルギーの電子等の荷電粒子が磁場中でローレンツ力により曲がるとき、電磁波を放射する現象をシンクロトロン放射といい、この電磁波を放射光X線、または単に放射光と呼ぶ。放射光X線は通常使用される実験室系X線に比べて、非常に明るい(=高輝度)性質を持っている。

5)「ふくいスマートデコミッショニング技術実証拠点」事業

科学分野での技術革新を促すため、研究開発機能を持つ施設・設備の整備を後押しする文部科学省による平成28年度公募事業として採択された拠点の一つ。具体的には、原子力発電所の廃止措置に係わる技術につぃて地元企業の成長を支援し、産学官が一つ屋根の下で地域経済の発展と廃止措置に係わる課題の解決に貢献することを目指した拠点で、廃止措置解体技術検証フィールド、レーザー加工高度化フィールドおよび廃止措置モックアップ試験フィールドから構成される。

6)ミクロ挙動、マクロ挙動

レーザー光を熱源とした加工では、空間的時間的に幅広く広がる各種スケール(ミクロ~マクロ)の挙動を取扱う必要がある。ミクロ挙動を厳密に扱うためには、膨大な計算負荷を伴うことになるため、これを低減するためにはミクロ挙動とマクロ挙動とを関連づけた取扱いが必要となる。

7)多階層スケールモデル

レーザー光を熱源とした加工の過程では、熱源からの入熱により、加熱・溶融・対流・凝固・固相変態が生じる。この一連のプロセスで生じるレーザー光と物質の相互作用、物質の溶融、気化、凝固など複雑な相変化などは、原子レベルから目視可能な液体の運動レベルまで様々なスケールの物理現象が複雑に絡まりあう物理過程であり、これを微視化および粗視化を通じて取扱うモデル。

8)非圧縮性粘性流モデル

圧力による流体の伸縮を考慮せず、粘性を持つ流体の流れを数値的に模擬するモデル。

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