カンキツウイルスを高感度で検出するウイルス診断キットの試作に成功

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感染樹の早期発見により感染拡大防止に期待

2020-04-17 愛媛大学,富山大学

このたび、愛媛大学プロテオサイエンスセンター野澤彰講師、澤崎達也教授、富山大学学術研究部医学系小澤龍彦助教、岸裕幸教授、愛媛県農林水産研究所果樹研究センター清水伸一室長(研究当時)、青野光男主任研究員らの研究グループは、カンキツ類の品質低下や収穫量減少につながるウイルス病の原因の一つであるカンキツモザイクウイルス(CiMV)等を高感度で検出するウイルス診断キットの試作に成功しました。
これは、CiMV を高感度で認識するウサギモノクローナル抗体の取得とその抗体を利用した CiMV 検出系の確立に成功したことによるもので、この診断キットの実用化により、カンキツ栽培の現場において感染樹を早期発見し、感染の拡大を防止することが期待できます。
この研究成果に関する論文は、2020 年 4 月 16 日付けで PLOS ONE 誌に掲載されました。

1.背景
カンキツの栽培現場で問題になっている病害の一つにカンキツウイルス病があります。これはウイルスの感染により引き起こされ、発病樹では樹勢が低下し果実の糖度が低下するなどの症状が現れるものですが、現在、感染樹からウイルスを除去する方法が存在しないことから、感染被害の拡大を阻止するためには、感染樹の早期発見が重要になります。
そこで、カンキツウイルスの感染を発見する方法として、ウイルスに対する特異抗体を利用したウイルス診断キットを用いる方法があります。しかし、現在、市販されている診断キットでは、愛媛県で問題になっているカンキツモザイクウイルス(CiMV Az-1 系統)の検出が難しいという大きな課題がありました。

2.研究成果
本研究では,カンキツウイルスの中でも愛媛県の柑橘農家で感染が問題になっているカンキツモザイクウイルス(CiMV Az-1 系統)を検出可能な特異抗体の取得を目的に実験を開始しました。CiMV のコートプロテインの配列を基にしたペプチドを抗原としてウサギに免疫し、富山大学で開発された ISAAC 法を利用することで33種の候補抗体遺伝子を取得できました。これらの遺伝子の中から CiMV コートプロテインを認識する抗体をコードしているものを、AlphaScreen 法を利用することで検討し、最終的に 3 種の異なる抗体遺伝子を取得できました。また、解離速度定数と結合速度定数を求める実験結果から、これらの抗体は抗原に対する非常に高い親和性を有することが確認されました。さらに、これらの抗体は ELISA 法とドットブロット解析において、感染葉中の CiMV やその近縁ウイルスを検出できることが確認されました。

3. 波及効果
CiMV とその近縁ウイルスを高感度で検出可能なモノクローナル抗体が取得できたことから、これらを利用することでカンキツウイルス診断キットの開発が可能になります。実際に、論文投稿後の研究で、簡易キットの作製と CiMV の検出に成功しています。本研究で単離されたモノクローナル抗体は、愛媛県で報告例の多いカンキツモザイクウイルス CiMV の Az-1 系統を高感度で認識
できることから、愛媛県の農業現場での利用が期待されます。


A. 健全樹とウイルス感染樹


B. ドットブロット法によるウイルスの検出健全葉およびウイルス感染葉からタンパク質を抽出しメンブレンにスポットした。ビオチン化した抗体 No.20 を1次抗体、ホースラディッシュペルオキシダーゼを付加した抗ビオチン抗体を2次抗体として用いウイルスの検出を試みた。ウイルス感染葉からのサンプルでは 1/100 に希釈したものからでもシグナルが検出された。下図はシグナルを定量しグラフにしたものである。3回の実験の平均値と標準偏差を示す。ドットブロット法での実験結果から、本研究で取得した抗体が CiMV とその近縁ウイルスを高感度で検出できることが示された。


図 1. 本研究で取得された抗カンキツウイルス抗体

4.研究体制と支援について
本研究は、愛媛大学プロテオサイエンスセンター、富山大学学術研究部医学系、愛媛県農林水産研究所果樹試験センターとの共同研究としておこなわれました。
また、研究の実施にあたっては、科学技術振興機構(JST)西日本豪雨復興支援(研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP) 機能検証フェーズタイプ)、日本医療研究開発機構(AMED)創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)「コムギ無細胞系による構造解析に適した複合体タンパク質生産・調製技術と低分子抗体作製技術の創出」の支援を受けました。

5.論文タイトルと著者
タイトル: Production of a rabbit monoclonal antibody for highly sensitive detection of citrus mosaic virus and related viruses
( 和 訳 ) カンキツモザイクウイルスとその近縁ウイルスを高感度で検出可能なウサギモノクローナル抗体の作製

著 者:三好 省吾(愛媛大学), 徳永 聡(愛媛大学), 小澤 龍彦(富山大学), 竹田 浩之(愛媛大学),青野 光男(愛媛県), 三好 孝典(愛媛県), 岸 裕幸(富山大学), 村口 篤
(富山大学), 清水 伸一(愛媛県), 野澤 彰(愛媛大学), 澤崎 達也(愛媛大学)

掲 載 誌 : PLOS ONE
Journal link: https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0229196
掲 載 日:2020 年 4 月 16 日(木)3:00(日本時間)

本件に関する問合せ先

愛媛大学プロテオサイエンスセンター 講師 野澤 彰
富山大学学術研究部医学系助教 小澤 龍彦
富山大学学術研究部医学系教授 岸 裕幸
愛媛県農林水産研究所果樹研究センター主任研究員 青野 光男

用語説明

1) カンキツウイルス病
ウイルスの感染により柑橘類に引き起こされる病気。カンキツウイルス病の発病樹では、葉が小型化・変形し、樹勢が低下する。また、果実の小玉化・糖度の低下などにより品質が低下し、収量も減少する。愛媛県では、愛媛果試第 28 号(紅まどんな)に感染する CiMV によるカンキツモザイク病が問題になっている。

2) CiMV (Citrus Mosaic Virus)
カンキツモザイク病の病原ウイルス。接木や土壌伝染により感染する。現在、感染樹からウイルスを取り除く方法が存在しないため、カンキツウイルス病が発生した場合、感染拡大を防ぐには感染樹の伐採抜根が必要となる。

3) 紅まどんな
愛媛県果樹試験場で開発された愛媛県オリジナルの高級柑橘。品種名は愛媛果試第 28 号。糖度基準をクリアしたもののみが「紅まどんな」として出荷される。CiMV の感染により糖度が低下する被害が報告されている。

4) モノクローナル抗体
単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られる抗体。様々な抗体産生細胞に由来するポリクローナル抗体と異なり、均一な抗体分子の集団である。通常は、抗体産生細胞と骨髄腫細胞を融合させてクローン化したハイブリドーマ細胞を作成して生産される。

5) ISAAC 法
富山大学の村口・岸・小澤らの研究グループが 2009 年に開発した方法で、リンパ球チップを用いて単一のヒトや動物の抗体産生細胞から、僅か 1 週間程度でモノクローナル抗体を作成することができる。ISSAC 法を利用することで、従来では困難だったウサギ由来モノクローナル抗体の迅速な作製が、可能になった。

6) コムギ無細胞タンパク質合成系
愛媛大学の遠藤弥重太特別栄誉教授らによって開発されたコムギ胚芽抽出液を用いた in vitro タンパク質合成システム。タンパク質合成阻害物質を除去したコムギ胚芽抽出液に、アミノ酸などの基質と目的 mRNA を加えるだけで、微生物から高等生物、さらに人工タンパク質に至るまで安定して高効率にタンパク質を合成する技術。

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