豪雨時の洪水被害軽減に貢献する水田の利活用法

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水稲を減収させない湛水管理の目安と水位管理器具の開発

2020-08-05 農研機構

ポイント

水田を豪雨時の洪水対策に積極的に活用するために必要な水深および湛水期間の上限の目安と、その目安を手軽に達成できる田んぼダム1)用の水位管理器具を開発しました。開発した器具を水田排水口に設置するだけで、手間をかけずに水田の貯水効果を高めることができ、地域で取り組む豪雨対策の一つとして普及が期待されます。

概要

農研機構は、水田を豪雨時の洪水対策に積極的に活用するために必要な水深および湛水期間の上限の目安と、その目安を手軽に達成できる水位管理器具を開発しました。水田の貯水機能を下流の洪水緩和に活用する「田んぼダム」は、新潟県を皮切りに各地に広がりを見せています。耕作者の協力を得て水田を積極的に活用するには、栽培されている水稲に悪影響を及ぼさないことを理解して頂く必要があります。本成果では、これまで示されていなかった水稲の減収尺度2)を策定し、水稲の生育段階毎に被害を抑えられる湛水管理の目安を示しました。さらに、耕作者に管理の負担がかからず、安価で手軽に設置できる水位管理器具を開発しました。この水管理の目安と水位管理器具により、水田の貯水機能を活用した豪雨対策の普及促進が期待できます。

関連情報

予算:農林水産省委託プロジェクト研究「農業分野における気候変動適応技術の開発(豪雨に対応するためのほ場の排水・保水機能活用手法の開発)」

内閣府官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)「ほ場の保水機能を活用した洪水防止システム開発」

特許:特開2020-026684 農地の雨水貯水管理のための給排水管理装置

問い合わせ先

研究推進責任者 :農研機構農村工学研究部門 部門長 藤原 信好

研究担当者 :同 地域資源工学研究領域 皆川 裕樹

同 農地基盤工学研究領域 北川 巌

広報担当者 :同 渉外チーム長 猪井 喜代隆

詳細情報

開発の社会的背景

1.豪雨対策の必要性の高まり

現在でも各地で豪雨に伴う洪水被害が発生していますが、将来は気候変動等の影響によってさらに洪水のリスクが高まると予測されています。ダム等の施設整備も重要ですが、その対策には多大な時間と費用がかかります。一方、安価で迅速に実施できる豪雨対策の一つに、水田の貯留機能を活用した対策が挙げられます。

2.水田を活用した豪雨対策

水田は、周囲を畦で囲まれているため、雨水を一時的に貯留することができます。貯まった水はゆっくりと流出するため、下流の排水路の急激な水位上昇を抑える「洪水緩和機能」を発揮しますa)。この機能を人為的に高めて活用する「田んぼダム」の取り組みが新潟県を中心に広がっており、地域の防災・減災への貢献が期待されています。

研究の経緯

田んぼダムは、降雨時に田面からの流出を抑制する水位管理器具(調整板や落水枡等)を排水口に取り付けて、雨水の貯留機能を高めます。このための器具は、既に様々な形状のものが製造・販売されておりb)、その効果を評価するシミュレーション手法も開発されていますc)。このような取り組みをさらに拡大させるためには、多くの耕作者の理解と協力が不可欠です。

そこで本研究では、この取り組みを行う上で重要となる、水稲に減収等の被害が出ない湛水の管理条件を示すとともに、それをなるべく耕作者の手間をかけず安価に実現する水位管理器具を開発しました。

研究の内容・意義

1.水稲減収尺度に基づく水田の湛水管理の条件

水稲の冠水被害に関する現地調査事例はありますが、水深や継続期間など冠水状況が分からないため、冠水条件と被害との関係を示すのは困難でした。そこで本研究では、詳細な実証試験を重ねた結果から、様々な冠水条件と減収率の関係を表す水稲減収尺度(図1)を策定しました。それを基に、水稲の減収を抑える目安となる水深(上限は畦畔の高さ)と時期ごとの継続期間を示した、湛水管理の条件を示しました(図2)。これらの条件は許容範囲の上限となり、実際には、次に示す水位管理用の器具等を用いて通常の管理水位+10cm程度の水深(管理水位5cmと合計で15cm程度)まで貯留効果を強化することになります。また、周辺の排水状況が落ち着けば早めに落水させます。

2.水田の雨水貯留機能を強化する水位管理器具

上記の湛水管理を手間なく安価に実現する水位管理器具(調整板ダムキーパー、落水枡フィールドゲート)を開発しました。水田用の調整板ダムキーパー(図3a)の特徴は板にスリット状の切欠を入れた点です。この切欠の最下部を通常の管理水位の位置に設定すると、大雨時に水深が上昇すると水深に合わせて排水量が抑えられ、降雨後は管理水位までゆっくり排水することで、貯留効果が強化されます。そのため、雨が降る前に板の高さを変更する等の労力をかけずに、通常管理だけで効果を得られます。落水枡フィールドゲート(図3b)はコンクリート製の落水枡ですが、傾斜面式にすることで、通常の物よりも軽量で取り扱いが容易な点が特徴です。 これらの器具は特許「特開2020-026684 農地の雨水貯水管理のための給排水管理装置」を利用して、トーヨー産業株式会社からすでに販売されています。価格は規格や材質によっても変わるので、詳しくは下記の販売元へお問い合わせください。 ( 販売元HP:トーヨー産業株式会社 )

3.開発した器具による水田貯留効果の観測例d)

実際に、豪雨時の水田の様子を見ると(図4)、調整板を設置した水田では貯留効果を発揮して水位が上昇している様子がよくわかります。この時の水田の水深と排水量を観測した結果が図5です。調整板を設置した水田では、降雨期間が終わっても高い水深がしばらく継続しており、貯留効果が強化されています(この時の最大水深は管理水深+7cm程度で、対照区よりも高い水位で6~7時間継続)。さらに、調整板を設置した水田では、排水量が抑制され、ピークが約40%カットされていました。貯留された雨水は、その後ゆっくりと排水されていることがわかります(合計の排水量はほぼ同じ)。

今後の予定・期待

田んぼダムの取り組みは、農林水産省の「多面的機能支払交付金(資源向上支払)」の助成項目になっています。このような仕組みを上手く活用することで、取り組み拡大が期待されます。水田の水深を10cm高くできると、1haの水田で1000m3もの雨水を一時的に貯留することになります。よって、なるべく多くの方に協力していただいて、広い面積で取り組むと、下流の水路や排水機場の負担の軽減に繋がります。

一方で、水位が水田畦畔を超えて周囲一帯が浸水してしまう大規模豪雨(数十年に1回発生するような規模)時には、田んぼダムだけでは十分な防災効果を発揮できません。気候変動等の影響で豪雨の激甚化も予測される中、現状の排水施設の機能診断や能力の見直し等を行うことも重要です。将来的には、田んぼダムのような地域の取り組みと、排水施設の更新等のハード対策を組み合わせて、豪雨に対して最適な被害軽減対策を地域で検討することが理想といえます。

用語の解説
1)田んぼダム
水田は周囲を畦に囲まれていているため、ダムのように雨水を貯留することができますが、その貯留機能を人為的に高めた水田を「田んぼダム」と呼んでいます。田んぼダムは、水田の排水口に流量を抑制する器具(堰板等)を設置するだけで、容易に取り組むことができます。降った雨が水田に一時的に貯留され、ゆっくりと排水されるため、下流の排水路等の水位上昇を緩和し、周辺の洪水被害の軽減効果が期待されます。
2)水稲減収尺度
水稲の冠水試験と収量調査の結果から、冠水条件(水稲の生育段階、水深、継続期間)と減収率(無冠水の水稲と比較した収量の減少割合)の関係を示した尺度です。本研究では、現在の代表的な作付品種であるコシヒカリ、あきたこまち、ななつぼしで策定しています。どの品種も、出穂する前後の時期(穂ばらみ期~出穂期)に冠水すると大きな被害が出る一方で、このような脆弱な時期であっても穂が浸からない深さに水深を保つことで、大きく被害が軽減する可能性があります。
発表論文・引用文献

発表論文:

皆川裕樹、北川 巌、増本隆夫(2016):洪水時の流域管理に向けた水田域の水稲被害推定手法、農業農村工学会論文集、303、I_271-I_279.

皆川裕樹、池山和美、北川 巌、増本隆夫(2018):低平水田域における豪雨排水に関するリスクとその不確実性の評価法、農業農村工学会論文集、307、I_175-I_184.

平沢 俊、小林英徳、北川 巌(2020):省力的な田んぼダムの実証試験、農業農村工学会誌、88(3)、pp.40-41.

引用文献:

例えば、農林水産省パンフレット「農業・農村のいろいろな働き」

例えば、新潟県HP「新潟発 田んぼダム実施中」

宮津 進、吉川夏樹、阿部 聡、三沢眞一、安田浩保(2012):田んぼダムによる内水氾濫被害軽減効果の評価モデルの開発と適用、農業農村工学会論文集、282、pp.15-24.

樋口俊輔、持永 亮、竹下美保子、北川 巌(2019):水田の降雨貯留と水稲生育への影響、日本土壌肥料学会講演要旨集、65、p.143.

参考図

図1 品種別に策定した水稲減収尺度の事例

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