2020-04-07 理化学研究所
理化学研究所(理研)は、文部科学省と連携し、理研が開発主体となって開発・整備を推進しているスーパーコンピュータ「富岳(ふがく)」[1]を、開発・整備の途上であるものの、国難ともいえる新型コロナウイルスの対策に貢献する成果をいち早く創出するために、可能な限り計算資源を関連研究開発に供出することとしました。
具体的には、理研からの協力を踏まえて文部科学省が決定する研究開発の実施課題に対して、「富岳」の計算資源を開発・整備に支障がない範囲で優先して供出するとともに、実施される研究開発に対して技術的サポートを行います。
スーパーコンピュータ「富岳」(開発・整備中)
背景・目的
現在世界中で拡大の一途にある新型コロナウイルスは、甚大な被害をもたらしており、我が国の持つあらゆるリソースを用いて国難ともいえるこの被害を軽減する方策を緊急的に検討する必要があります。
「富岳」は世界最先端の高性能スパコンとして2019年12月から搬入を開始し、2021年度の共用開始を目指し開発・整備が進められていますが、2020年度から、一部のノードで試行的利用が開始される予定です。他方、2020年2月28日の文部科学省HPCI計画推進委員会にて、共用開始以降の「富岳」の利用につき、Society5.0[2]の実現を先導する研究基盤として科学的・社会的課題の解決に直結する成果を早期から創出することの重要性がコンセンサスとなっています。これを受け、理研としては、「富岳」が科学の面のみならずSociety5.0の実現に貢献するイノベーションの面でも大いなる成果創出を志向することとしており、その観点から、共用開始前であっても、文部科学省と連携し、被害軽減への貢献が期待でき、かつ、速やかに着手できる研究開発に対して「富岳」利用を提供するとともに、技術的サポートを行うこととしたものです。
具体的内容
(1)研究開発の実施課題は以下のものを対象としており、理研等の提案を踏まえて文部科学省が随時決定します。
①新型コロナウイルスの性質を明らかにする課題
②新型コロナウイルスの治療薬となりえる物質を探索する課題
③新型コロナウイルス診断法や治療法を向上させうる課題
④新型コロナウイルスの感染拡大及びその社会経済的影響を明らかにする課題
⑤その他、新型コロナウイルスの対策に資することが想定される課題
(2)今般、以下の研究開発に「富岳」利用を提供します。(詳細は、添付資料)をご参照ください)
①新型コロナウイルス治療薬候補同定(課題代表者:理化学研究所/京都大学 奥野 恭史)
②新型コロナウイルス表面のタンパク質動的構造予測(課題代表者:理化学研究所 杉田 有治)
③パンデミック現象および対策のシミュレーション解析(課題代表者:理化学研究所 伊藤 伸泰)
④新型コロナウイルス関連タンパク質に対するフラグメント分子軌道計算(課題代表者:立教大学 望月 祐志)
添付資料
(3)なお、「富岳」の試行的利用に当たっては、開発・整備に支障がない範囲を見極めながら実施されるものであり、ベストエフォートの考え方を基本としています。
(4)これらの実施課題で得られた成果は、課題実施者、関係機関等と連携しつつ、国内外に広く公開することとします。
(5)今後、研究開発の実施課題が順次追加されていくことがあり得るとともに、状況の変化に応じて本枠組みが見直されることもあり得ます。
理研 計算科学研究センター 松岡聡センター長のコメント
世界最先端・最高アプリケーション性能を目指して開発されてきた我が国のフラッグシップスパコン「富岳」の最も重要なミッションの一つは、国民の安全安心を強大な計算の力で守ることです。
今回の新型コロナウイルスによる国難に対し、診断・治療から感染拡大防止などにおける科学をベースとした対応に稼働準備中の「富岳」の能力を大幅に前倒して速やかに提供し、一日も早いパンデミックの終結に貢献します。
補足説明
1.スーパーコンピュータ「富岳(ふがく)」
スーパーコンピュータ「京」の後継機。2020年代に、社会的・科学的課題の解決で日本の成長に貢献し、世界をリードする成果を生み出すことを目的とした、電力性能、計算性能、ユーザーの利便性・使い勝手の良さ、画期的な成果創出、ビッグデータやAIの加速機能の総合力において世界最高レベルのスーパーコンピュータとして2021年度の共用開始を目指している。
「富岳」は”富士山”の異名で、富士山の高さがスーパーコンピュータ「富岳」の性能の高さを表し、また富士山の裾野の広がりがスーパーコンピュータ「富岳」のユーザーの拡がりを意味する。また”富士山”は海外での知名度も高く、名称として相応しいこと、さらにはスーパーコンピュータの名称は山にちなんだ名称の潮流があることなどから理研が選考した。
2.Society5.0
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱された。IoT(Internet of Things)、ロボット、AI(人工知能)、ビッグデータといった社会の在り方に影響を及ぼす新たな技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、経済発展と社会的課題の解決を両立していく新たな社会の実現を目指すこととしている。
問い合わせ先
課題代表者
①新型コロナウイルス治療薬候補同定
理化学研究所 科技ハブ産連本部 医科学イノベーションハブ推進プログラム
副プログラムディレクター 奥野 恭史(おくの やすし)
②新型コロナウイルス表面のタンパク質動的構造予測
理化学研究所 計算科学研究センター 粒子系生物物理研究チーム
チームリーダー 杉田 有治(すぎた ゆうじ)
③パンデミック現象および対策のシミュレーション解析
理化学研究所 計算科学研究センター 離散事象シミュレーション研究チーム
チームリーダー 伊藤 伸泰(いとう のぶやす)
④新型コロナウイルス関連タンパク質に対するフラグメント分子軌道計算
立教大学 理学部化学科
教授 望月 祐志(もちづき ゆうじ)
機関窓口
理化学研究所 神戸事業所 計算科学研究推進室
広報グループ 岡田 昭彦
理化学研究所 広報室 報道担当