衝突中の銀河における超巨大ブラックホールとガスの波乱の生涯

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2020-01-16 国立天文台  

アルマ望遠鏡は、成長中の2つの超大質量ブラックホールを取り巻くガスを、これまでにない精度でとらえました。

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アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で観測された銀河NGC 6240。アルマ望遠鏡の画像(右上)では、分子ガスは青色、2つのブラックホールは赤い点で示されています。左はアルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡の画像を合成したもの、右下は合成画像の中心部クローズアップです。アルマ望遠鏡の観測により、合体銀河のブラックホールを取り巻く分子ガスについて、最も詳細な画像が得られました。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), E. Treister; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello; NASA/ESA Hubble


へびつかい座の方向に地球から4億光年離れた場所では、2つの銀河が互いに衝突し、NGC 6240 と呼ばれる銀河を形成しています。この特異な形をした銀河は、地球から比較的近い距離にあるため、これまで何度も観測されてきました。しかし、合体銀河NGC 6240は、複雑で混沌としています。2つの銀河の衝突は、現在も進行中です。2つの銀河のそれぞれの中心にあった超大質量ブラックホールは、この衝突によって1つのより大きなブラックホールになることでしょう。

この合体銀河NGC 6240で何が起こっているのかを理解するため、天文学者たちはブラックホールを取り巻く塵やガスについて詳しく調査したいと考えています。しかし、これまでの観測は、調査を行うのに十分な精度を持ち合わせていませんでした。アルマ望遠鏡による最新の観測は、画像の解像度を10倍も向上させました。そして、ブラックホールの影響下にある冷たいガスの構造を初めて明らかにしました。

「この銀河を理解するための鍵は、分子ガスです。」と、チリのポンティフィシア・カトリック大学のエゼキエル・トライスター氏は言います。「分子ガスは、星を作るのに必要な燃料ですが、超大質量ブラックホールにも供給されています。分子ガスは、超大質量ブラックホールを成長させているのです。」

分子ガスのほとんどは、2つのブラックホールの間の領域にあります。これまでの低解像度での観測では、このガスが回転円盤である可能性が示されていました。「我々は、その証拠は見つけられませんでした。」とトライスター氏は言います。「その代わり、2つのブラックホールの間の領域で、細い糸や泡のような形になったガスの混沌とした流れを見つけました。このガスの一部は、毎秒500キロメートルの速度で外に向かって放出されています。この外に向かうガス流の原因はまだわかっていません。」

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合体銀河NGC 6240の想像図。青で描かれたガスの左上と右下に、2つの超大質量ブラックホールが描かれています。 Credit: NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello


分子ガスを詳しく観測するもう1つの理由は、ブラックホールの質量を決定するのに役立つからです。オハイオ州トレド大学のアン・メドリング氏は、つぎのように述べています。「ブラックホールを取り巻く星の運動から導き出した以前の理論モデルでは、このブラックホールが我々の予想よりもはるかに大きく、太陽の質量の約10億倍もあることを示していました。一方、アルマ望遠鏡による最新画像は、どれだけのガスがブラックホールの影響範囲内に閉じ込められているかを初めて明らかにしたのです。今回の観測から求められたガスの質量は非常に大きいことがわかりました。」

以前の研究ではガスの総質量がわからなかったので、ブラックホール本体と周囲にあるガスの合計質量をブラックホールの質量として見積もっていましたが、今回の観測ではガスの量を精密に見積もることができました。「そのため、我々が見積もったブラックホールの質量は以前の見積もりよりずっと小さくなり、太陽質量の数億倍程度になりました。これをもとにすると、このブラックホールに対して過去に得られた多くの質量測定値は、5〜90%ほど低くなる可能性があると我々は考えています。」

分子ガスはまた、天文学者が予想していたよりもさらにブラックホールに近い場所にあることがわかりました。「分子ガスは、非常に極端な環境にあります。」とメドリング氏は述べています。「これらのガスは、最終的にブラックホールに落ちるか、高速で放出されると考えられます。」

天文学者たちは、別のチームがこの銀河で最近発見したと主張している3番目のブラックホールの証拠を見つけることはできませんでした。「我々は、第3の核に相当するような分子ガスを見ていません。」と、トライスター氏は言います。「ブラックホールではなく、局所的な星団である可能性がありますが、それについて確実に何か言うには、もっと研究する必要があります。」

アルマ望遠鏡の高い感度と解像度(視力)は、合体銀河内のガスの役割や超大質量ブラックホールを理解するために重要です。アメリカ国立電波天文台のロレート・バルコス・ムニョス氏は、つぎのように述べています。「この銀河は非常に複雑です。このような詳しい電波画像なしには、銀河内部で何が起こっているのかを知ることは決してできません。今回の観測によって、この銀河の3次元構造をよりよく把握できるようになりました。これは、合体が進む最終段階で、銀河がどのように進化するかを理解するための機会を我々に与えてくれます。数億年後、この銀河は完全に異なった姿で見えることでしょう。」

この研究は、ハワイ州ホノルルで開催された第235回アメリカ天文学会で発表され、以下の2つの論文で発表されました。

1) The Molecular Gas in the NGC 6240 Merging Galaxy System at the Highest Spatial Resolution,” by E. Treister et al., accepted for publication in The Astrophysical Journal. Preprint.

2) “How to Fuel an AGN: Mapping Circumnuclear Gas in NGC 6240 with ALMA,” by A. M. Medling et al., The Astrophysical Journal Letters.
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ab4db7

この記事は、アメリカ国立電波天文台によって発表されたプレスリリースをもとに作成しました。

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