露地栽培で従来の白肉品種より9日ほど早く収穫できる
2019-10-16 農研機構
ポイント
農研機構は、極早生で食味良好な白肉のモモ新品種「ひめまるこ」を育成しました。露地栽培での白肉モモの収穫期を従来品種より9日程度早められると期待されます。「ひめまるこ」の苗木は令和2年秋から販売される予定です。
概要
モモの露地栽培において、一定規模の栽培が行われている品種の中で最も収穫期が早いのは、極早生の白肉品種「ちよひめ」1)、「はなよめ」2)で、満開後70日頃(関東では6月中旬頃)から収穫できます。モモの生産、消費を増やすには流通期間の拡大が有効と考えられ、より収穫期の早い品種が求められています。
農研機構は今回、「ちよひめ」より早く収穫できる極早生の白肉品種「ひめまるこ」を育成しました。
「ひめまるこ」は「ちよひめ」より9日程度早く収穫できます。果実は170g程度と「ちよひめ」よりやや小ぶりです。糖度は15%と「ちよひめ」より1%程度高く、酸味は少なく極早生品種としては食味良好です。
「ひめまるこ」は、モモの露地栽培における収穫期を早める白肉品種として、特に、「ちよひめ」や「はなよめ」の栽培の多い地域での普及が期待されます。「ひめまるこ」の苗木は、日本果樹種苗協会と許諾契約を締結した果樹苗木業者から、令和2年秋より販売される予定です。
関連情報
予算:運営費交付金 (平成14~30年度)
品種登録出願番号:「33921号」(令和元年8月7日出願公表)
問い合わせ先など
研究推進責任者 :農研機構果樹茶業研究部門 研究部門長 高梨 祐明
研究担当者 :同 品種育成研究領域 八重垣 英明
広報担当者 :同 企画管理部企画連携室 広報プランナー 大﨑 秀樹
詳細情報
新品種開発の社会的背景と経緯
現在のモモ市場は、露地栽培された極早生の白肉品種「ちよひめ」と「はなよめ」の収穫が始まる6月中旬になると急に出荷量が増える傾向にあります。6月上旬までは生産コストのかかる施設栽培が中心で出荷量も少なく、卸売価格は高くなります(表1)。モモの生産、消費を拡大するには流通期間を拡大することが有効であるため、「ちよひめ」よりも収穫期の早い品種が必要です。近年、農研機構では「ちよひめ」より2週間程度早く収穫できる黄肉品種「ひめこなつ」3)を育成しましたが、白肉品種の栽培がほとんどを占める現状では「ひめこなつ」と同時期に収穫できる優良な白肉品種が必要です。
そこで農研機構は、「ちよひめ」より早く収穫できる極早生の白肉新品種「ひめまるこ」を育成しました。
新品種「ひめまるこ」の特徴
1.紅国見」4)に「ひめこなつ」を交雑させて「ひめまるこ」を育成しました(写真1)
2.「ひめまるこ」の成熟期は育成地(茨城県つくば市)では6月上旬頃で、「ちよひめ」より9日程度早く収穫できます(表2)。
3.「ひめまるこ」の果実の大きさは170g程度で「ちよひめ」より小玉ですが「ひめこなつ」より大きくなります。糖度は15%程度と「ひめこなつ」や「ちよひめ」より高く、酸度はpH4.9程度と少なく、極早生品種としては食味良好です(表3)。果肉は白色です(写真2)。
4.「ひめまるこ」は花粉を有し、結実良好です(表2)。
5.「ひめまるこ」の果皮には果点5)の発生により果面の荒れが認められますが、裂果6)の発生は少なく着色も良好であるので無袋栽培が可能です(写真1、2)。
6.核は粘核7)で、「ひめこなつ」と同様に核割れ8)が多く発生します。
品種の名前の由来
やや小さい、かわいらしいモモであることから。
今後の予定・期待
「ひめまるこ」はモモの露地栽培における収穫期を早める白肉品種として普及が期待されます。特に「ちよひめ」や「はなよめ」の栽培の多い地域での普及が期待されます。
「ひめまるこ」の苗木は令和2年秋より販売される予定です。
原種苗入手先に関するお問い合わせ先
農研機構果樹茶業研究部門 企画管理部企画連携室交流チーム
利用許諾契約に関するお問い合わせ先
農研機構本部 知的財産部 知的財産課 種苗チーム
用語の解説
- 1)「ちよひめ」
- 農研機構が育成した白肉モモ品種で満開後75日程度、茨城県つくば市では6月中下旬に収穫できます。平成28年産特産果樹生産動態等調査では山梨県を中心に全国で65ha栽培されています。1983年品種登録。
- 2)「はなよめ」
- 「ちよひめ」と同時期に収穫できる白肉モモ品種。果実の大きさや糖度は「ちよひめ」と同程度。平成28年産特産果樹生産動態等調査では山梨県、熊本県を中心に全国で93ha栽培されています。1988年品種登録。
- 3)「ひめこなつ」
- 農研機構が育成した黄肉モモ品種で満開後60日程度、茨城県つくば市では6月上旬に収穫できます。平成28年産特産果樹生産動態等調査に記載されるほどの実績はありませんが、露地栽培で最初に収穫できる品種として各地で栽培が開始されています。2009年品種登録。
- 4)「紅国見」
- 満開後95日程度で収穫できる早生品種。糖度は13%程度。平成28年産特産果樹生産動態等調査では全国で6ha栽培されています。1992年品種登録。
- 5)果点
- 成熟期に果皮の表面に発生する黄色い小さな点。発生が多いと裂果に至ることがあるため、発生の多い品種では果実袋をかけることが勧められています。
- 6)裂果
- 果皮に発生する割れ。発生すると商品価値が損なわれます。発生の程度には品種間で差があり、多い品種では果実袋をかける必要があります。
- 7)粘核
- 果実の中心にある核と果肉が離れにくい性質。主要品種のほとんどが粘核です。
- 8)核割れ
- 果実の生育途中で核が硬化する前に割れる生理現象。生理落果の原因となります。一般的に早生品種で発生が多く見られます。