西日本向けの多収・低アミロース水稲新品種「さとのつき」

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2019-10-08   農研機構


農研機構は、多収で、米のアミロース含有率が低い水稲新品種「さとのつき」を育成しました。「ヒノヒカリ」と比較して、2割程度多収で、米のアミロース含有率は11%程度です。「ヒノヒカリ」より成熟期が4日ほど遅く、耐倒伏性が強く、縞しま葉は枯がれ病1)にも強い特徴があります。多収性を活かし、業務用としての利用が期待されます。

概要

低アミロース米は、冷めても硬くなりにくい特徴があることから、チルド米飯やブレンド用など、業務用としての利用が期待されています。そこで農研機構は、業務用に適した、多収の低アミロース品種「さとのつき」を育成しました。

「さとのつき」は、西日本の主力品種「ヒノヒカリ」より2割程度、西日本向けの低アミロース米品種の「姫ごのみ」より1割程度多収です。また「さとのつき」精米のアミロース含有率は約11%で、一般の食用品種より7%ほど低く、炊飯米の粘りが強く、柔らかい特徴があります。

「さとのつき」は、「ヒノヒカリ」と比較すると、育成地(広島県福山市)では出穂期はほぼ同じで、成熟期は4日ほど遅く、”やや晩生”です。また耐倒伏性が強く、縞葉枯病には抵抗性を示します。栽培適地は、西日本を中心とした地域です。
多収性を活かし、業務用としての利用が期待されます。

関連情報

予算:革新的技術開発・緊急展開事業(うち先導プロジェクト)「業務用米等の生産コスト低減に向けた超多収系統の開発」、運営費交付金
品種登録出願番号:第33834号(平成31年4月4日出願、令和元年10月1日出願公表)

お問い合わせ

研究推進責任者
農研機構西日本農業研究センター 所長 水町 功子

研究担当者
同 水田作研究領域 水稲育種グループ 重宗 明子

広報担当者
同 企画部 産学連携室 広報チーム長 菅本 清春

詳細情報

新品種育成の背景・経緯

近年、主食用米の約4割が中食・外食等の業務用向けに販売されており、業務用実需者のニーズに応じた多収・良食味品種への要望が高まっています。低アミロース米は、冷めても硬くなりにくい特徴があることから、チルド米飯やブレンド用など、業務用としての利用が期待されています。

農業研究センター(現 農研機構次世代作物開発研究センター)で1995年に育成されたアミロース含有率が10%程度の「ミルキークイーン」は、東北から九州まで広く栽培されています。また、農研機構では「ミルキークイーン」の熟期を改変した「ミルキーサマー」、「ミルキーオータム」や、耐倒伏性や耐病性を改良した「姫ごのみ」等も育成しています。しかしながら、業務用実需者等からは、より多収の低アミロース品種の育成が求められていました。

そこでこのたび、”やや晩生”で耐倒伏性が強く、縞葉枯病に抵抗性があり、業務用に適した多収の低アミロース品種「さとのつき」を育成しました。

新品種「さとのつき」の特徴

1.ミルキークイーン由来の低アミロース系統である「中系d2837」と、耐倒伏性の強い中間母本系統「関東PL12」の雑種第1代と、良質・良食味の「中国178号」を交配して育成した品種です。

2.西日本で多く栽培されている「ヒノヒカリ」や、低アミロース品種の「姫ごのみ」と比較すると、育成地(広島県福山市)では出穂期はほぼ同じで、成熟期は4日ほど遅くなります。「ヒノヒカリ」と比較すると、稈長は5cmほど短く、穂長はやや長く、穂数は少なく、草型は”偏穂重型”です(表1)。

3.育成地における収量は、659kg/10aで、「ヒノヒカリ」と比較すると2割程度、低アミロース品種の「姫ごのみ」と比較すると1割程度多収です。玄米千粒重は「ヒノヒカリ」、「姫ごのみ」よりやや重く、22g程度です。玄米品質は「ヒノヒカリ」並で、「姫ごのみ」よりやや劣ります。玄米は、「姫ごのみ」と同様、やや白濁します(写真1)。精米のアミロース含有率は、「ヒノヒカリ」より7%ほど低く、11%程度です(表2)。

4.炊飯米は、外観が優れ、粘りが強く、柔らかい特徴があります(図1)。また、混米により、食味を向上させる効果があります(図2)。

5.耐倒伏性は強く、縞葉枯病には抵抗性を有します。また、トリケトン系4-HPPD阻害型除草剤2)には非感受性を示します(表3)。

6.栽培適地は、西日本を中心とした地域です。

栽培上の留意点

1.穂発芽性が”中”で、「ヒノヒカリ」より穂発芽しやすいので、適期収穫に努めてください。

2.いもち病の真性抵抗性3)遺伝子”Pib“を有するため、侵害菌が存在せず罹病しない地域もありますが、変異菌の発生により罹病化する可能性が高いので、防除を徹底してください。

3.多肥条件下では紋枯病が発生しやすいため、常発地では防除を徹底して下さい。また、一般の食用品種よりセジロウンカに弱い傾向がありますので、注意してください。

品種の名前の由来

里を明るく照らす月のような品種になるよう願いをこめて、「さとのつき」と命名しました。

今後の予定・期待

低アミロース米の特徴により、混米による食味向上効果があることなどから、中食や外食向けの業務用としての利用が見込まれており、中国地方での試作が始まっています。

原種苗入手先に関するお問い合わせ先

農研機構西日本農業研究センター 企画部産学連携室 産学連携チーム

用語の解説

1) 縞葉枯病:
ヒメトビウンカによって媒介されるイネのウイルス病で、感染したイネは、茎数の減少や穂の出すくみが起こるため、減収します。ヒメトビウンカは、ムギ畑やイネ科雑草地で越冬するほか、海外からの飛来も確認されており、2008年には西日本の各地で縞葉枯病が多発しました。
日本陸稲品種や外国水稲品種には、縞葉枯病に抵抗性を持つ品種が多く存在しており、西日本農業研究センターの前身の中国農業試験場では、1964年にパキスタン原産品種の「Modan」から抵抗性を導入した我が国最初の縞葉枯病抵抗性の中間母本「St No.1」を育成しています。「St No.1」を利用して、「あさひの夢」、「恋の予感」、「恋初めし」など、縞葉枯病抵抗性品種が多数育成されています。

2) トリケトン系4-HPPD阻害型除草剤:
ベンゾビシクロン、テフリルトリオン、メソトリオンの3つの除草剤成分で、現在では3割以上の除草剤に含まれる、重要な成分となっています。「とよめき」、「やまだわら」など、業務用として栽培されている多収品種にはこれらの薬剤に感受性を示し、投与すると枯死するものが存在することが確認されています。

3) 真性抵抗性:
真性抵抗性は、特定の種類の病原菌に対して、特異的に強い抵抗性を示し、病斑をつくらないのに対し、ほ場抵抗性は病原菌の種類に対する特異性はなく、病斑をつくるものの、病気の進展を遅らせるなどの抵抗性を示します。
真性抵抗性を有する品種を栽培し続けると、その真性抵抗性を侵害する変異菌が発生し、罹病化することが知られています。「さとのつき」をはじめ、「とよめき」、「やまだわら」などの業務用向き多収品種も、いもち病真性抵抗性遺伝子”Pib“を有しているため、罹病化に注意が必要です。

参考図

1202農芸化学
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