温暖化に伴う、ブドウ着色不良の発生拡大を予測~温暖化適応策の計画的な導入に貢献~

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2019-06-17 農研機構

ポイント

「巨峰」などブドウの黒色品種は、果実の着色が高温で阻害され、商品価値が著しく低下します。わが国のブドウ産地では、地球温暖化に伴い着色不良1)の発生が増加し、大きな問題となっています。そこで、将来、地球温暖化が進んだ場合の着色不良発生地域を予測2)し、詳細なマップで示しました。さらに、施設栽培3)や温暖化対応品種4)などの適応策の導入によって発生地域を縮小できることもマップで示しました。本成果は、ブドウ産地における生産者の栽培計画や「地域気候変動適応計画」の検討・策定に活用できます。

概要

温暖化に伴う、ブドウ着色不良の発生拡大を予測~温暖化適応策の計画的な導入に貢献~

ブドウ「巨峰」の着色の様子
(左:着色不良、右:正常な着色)

黒色ブドウ品種は、果実の着色が夏季の高温で阻害され、商品価値が著しく低下します。わが国のブドウ産地では、地球温暖化に伴い、主力品種の「巨峰」等に「赤熟れあかうれ」と呼ばれる着色不良の発生が増加しており(写真)、大きな問題となっています。このような着色不良の発生は、今後、温暖化の進行に伴い、さらに増加すると考えられます。
そこで農研機構は、将来(2031~2050年)地球温暖化が進んだ場合における着色不良の発生地域を予測し、個々の産地レベルでの発生状況を確認できる詳細なマップとして示しました。さらに、真夏の酷暑から着色期をずらすことで着色不良を軽減できる施設栽培や、高温でも着色しやすい新品種などの「適応策」導入により着色不良発生地域が減少することもマップで示しました。これらのマップは農研機構ウェブサイトより入手できます。
本成果は、生産者による温暖化に対応した栽培計画の立案や、昨年度成立した「気候変動適応法」に基づく「地域気候変動適応計画」をブドウ産地の自治体が検討・策定する際に活用できます。

ブドウ着色不良発生頻度予測の詳細マップ
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/131034.html

関連情報

予算:農林水産省委託プロジェクト研究「農林業に係る気候変動の影響評価」 、農研機構生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」

問い合わせ先など

研究推進責任者 :農研機構果樹茶業研究部門 研究部門長 高梨 祐明

研究担当者 :同 生産・流通研究領域 杉浦 俊彦

広報担当者 :同 広報プランナー 大崎 秀樹

 

詳細情報

社会的な背景と経緯

黒色ブドウ品種は、果実の着色が夏季の高温で阻害され、商品価値が著しく低下します。わが国のブドウ産地では、地球温暖化に伴い、主力品種5)の「巨峰」「ピオーネ」等に赤熟れと呼ばれる着色不良の発生が増加しており、大きな問題となっています。このような着色不良の発生は、今後、温暖化の進行に伴い、さらに増加すると予測されています。
着色不良を回避する対策(適応策)として、高温でも着色しやすい新品種などの導入が考えられます。また、施設栽培により開花期を早めれば、着色期が梅雨明け後の盛夏と重なることを避けられるため、適応策として活用できる可能性があります。
昨年12月に施行された「気候変動適応法」では、地方自治体に対し、地域の実情に応じた「地域気候変動適応計画」の策定を努力義務として求めています。とくに果樹は一度、樹を植えると数十年間は植え替えが難しいため、長期的な生産計画の下で栽培することは極めて重要です。また、具体的な適応計画の策定を進める際には、指標となる着色不良の発生予測や、適応策導入による効果の推定を定量的に行うことが必要です。
そこで農研機構は、将来における、着色不良の発生地域を予測しました。通常の場合に加え、適応策を導入した場合の発生地域についてもマップで示しました。

研究の内容・意義

1.全国のブドウ「巨峰」の果皮色と気温の関係を解析し(図1)、その結果を基に、近い将来(2031~2050年)の着色不良の発生地域を予測しました。また、その値を「巨峰」が栽培されている本州から九州について、マップとして図示しました(図2B)。1981~2000年(図2A)と比較すると、着色不良発生地域が大きく拡大することが分かります。市町村レベルで着色不良発生頻度を確認することが可能な高解像度マップを、農研機構ウェブサイトより入手できるようにしました
(http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/131034.html)

2.2031~2050年における、適応策を導入した場合の着色不良の発生地域を示すマップも併せて開発しました。巨峰を無加温ハウスで施設栽培した場合(図2C)および、露地栽培において、高温でも着色しやすい新品種「グロースクローネ」を導入した場合(図2D)について示しています。これらの適応策を導入した場合は、導入しない場合(図2B)と比べ、各地域の着色不良発生がどの程度軽減できるか確認できます。

3.より長期的な検討ができるよう、温暖化が一層進むとされる21世紀末(2081~2100年)における、露地栽培の巨峰の着色不良の発生地域を予測しました。2031~2050年では温室効果ガス排出シナリオによる差はほとんどありませんが、21世紀末になると排出シナリオによる差は極めて大きくなりました(図3)。長期的にみた場合、着色不良発生頻度の変化傾向は、温室効果ガスの排出状況に大きく左右されるといえます。

今後の予定・期待

本成果は、生産者が温暖化対策を計画する際にはもちろん、ブドウ産地の自治体が「気候変動適応法」に基づく「地域気候変動適応計画」を検討・策定する際に活用できます。近い将来(2031~2050年)に露地栽培の「巨峰」において、着色不良の発生頻度が50%以上となる地域は、地域の実情に合わせて、施設栽培や新品種などの導入や、あるいはブドウ以外の樹種への転換などの適応策を積極的に検討する必要があり、20%以上となる地域でも導入の検討を開始する必要があると考えられます。 本成果では生食用のブドウについて取り上げましたが、着色不良の問題は醸造用ブドウにおいても同様で、特に果皮着色が重要な赤ワイン用品種において温暖化の影響評価を早期に実施する必要があります。また、リンゴやカンキツなど他の果樹でも温暖化の影響は顕著になりつつあることから、農研機構では温暖化の影響評価や適応策の開発を積極的に進めています。

用語の解説
1)着色不良
ブドウの果皮を黒くする色素(アントシアニン)は高温で合成が阻害されるため、色素の不足により色づきが悪くなります。高温が原因の着色不良は食味には影響ありませんが、外観が劣るため、商品価値が低下します。また、日照不足や着果過多、未熟などが原因で果実の糖度が低下した場合も着色不良が発生するため、こうした食味の悪いものと区別しにくいことも市場評価を下げる要因となっています。
なお、本研究では目視による比色で果皮色を測定するためのカラーチャート(日園連より市販)の値が7(小数点第1位以下四捨五入)以下となる場合を着色不良と定義しています。
2)着色不良発生地域を予測
本研究では約1×1kmの区域で全国を分割し(1kmメッシュ)、メッシュ単位で着色不良の発生頻度をシミュレーションしています。1981~2000年については各メッシュの毎日の平均気温の推定値(清野、1993)を基に、20年間のうち着色不良が何年発生するかを算定して、発生頻度としています。
将来の各メッシュの日平均気温は、5種(MIROC5、MRI-CGCM3、GFDL-CM3、HadGEM2-ES、CSIRO-Mk3-6-0)の気候モデルから推定された値(Ishigookaら、2017)の平均値を用いています。この気温の将来値で想定している温室効果ガス排出シナリオは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書で採用された代表的濃度経路(RCP)シナリオのうちRCP2.6(低位安定化シナリオ)、RCP4.5(中位安定化シナリオ)、RCP8.5(高位参照シナリオ)の3種です。
日本の陸域の全メッシュの気温を平均すると1981~2000年と比べて2031~2050年は1.5°C(RCP2.6)、1.7°C(RCP4.5)、1.9°C(RCP8.5)、また2081~2100年では1.9°C(RCP2.6)、2.8°C(RCP4.5)、5.0°C(RCP8.5)の気温上昇を見込んでいます。
3)施設栽培
ブドウ栽培では降雨が病害や裂果の原因になるため、様々なタイプの施設栽培が広く行われています。施設栽培では、春先の気温が、加温・保温効果によって高くなるため、露地栽培より開花日が早くなります。
開花日は施設内に暖房装置を設置した加温ハウスが最も早く、暖房装置のない施設では密閉度に応じて、無加温ハウス、雨除け、トンネル(簡易被覆)の順で満開日が早まり、うち無加温ハウスでは、露地に比べて満開日が2~3週間早くなります。満開日が早まれば着色期もその分前倒しとなるため、着色期が酷暑期と重なるのを避けやすくなります。
4)温暖化対応品種
ブドウ栽培では着色不良発生が最も重要な温暖化による悪影響です。これに対応するため、農研機構からは「グロースクローネ」(2017年に品種登録の出願公表)、福岡県農林業総合試験場からは「涼香」(2015年に出願公表、2017年に品種登録)など着色良好な新しい大粒系黒色品種が開発されています。これらの品種では果皮色は「巨峰」よりもカラーチャート値で1程度高くなることから、着色不良の軽減が期待できます。
5)主力品種
「巨峰」、「ピオーネ」はどちらも大粒系黒色品種で、栽培面積は日本の生食用ブドウの栽培面積のそれぞれ30%、16%(平成28年産特産果樹生産動態等調査)を占め、品種別では1位と2位となっています。
発表論文
  • Sugiura, T., M. Shiraishi, S. Konno and A. Sato. Prediction of skin coloration of grape berries from air temperature. 2018. The Horticulture Journal. 87, 18-25. https://doi.org/10.2503/hortj.OKD-061
  • Sugiura, T., M. Shiraishi, S. Konno and A. Sato. Assessment of deterioration in skin color of table grape berries due to climate change and effects of two adaptation measures. 2019. Journal of Agricultural Meteorology. 75, 67-75. https://doi.org/10.2480/agrmet.D-18-00032
参考図

図1 「巨峰」の果皮色と満開後50~92日の平均気温

図2 露地栽培の「巨峰」における着色不良の発生予測と適応策の効果
露地栽培の「巨峰」は1981~2000年(A)と比較し、2031~2050年(B)において着色不良の発生頻度は大幅に増加することが予測されます。しかし適応策として無加温ハウス(C)や着色しやすい品種「グロースクローネ」(D)を導入することで被害は軽減可能となります。温室効果ガス排出シナリオRCP4.5に基づいた予測。

図3 21世紀末における露地「巨峰」の着色不良発生頻度と温室効果ガス排出シナリオ。
温室効果ガスの排出が少ないシナリオ(RCP2.6)では2031~2050年(図2B)と大差がないのに対し、より多くの排出を見込むRCP4.5、RCP8.5では着色不良が大幅に増加することが予測されます。

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