水蒸気バブルで液体を自在に動かすことに成功しました

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2019-03-29 京都大学

 名村今日子 工学研究科助教らの研究グループは、水蒸気の小さな気泡(マイクロバブル)を使って少量の液体を一方向にポンピングすることで、急激な流れを発生させることに成功しました。

 少量の液体を自在に動かす技術の開発は、化学・医療分析技術から電子部品の冷却技術まで幅広い分野において急務となっています。

 本研究グループは、水をレーザー光と金ナノ粒子を使って局所的に加熱することで、急激な流れを伴う水蒸気のマイクロバブルを発生させました。さらに、レーザー光の形を変えることで、マイクロバブルの周りに発生する流れの向きを制御することに成功しました。

 本研究成果により、流路の壁の近くに、これまで生成が困難であった一方向の流れを発生させることができるようになりました。流れの向きや強さを任意に選ぶことができるため、この技術は少量の液体を自在に動かすマイクロポンプとして有用だと考えられます。

 本研究成果は、2019年3月18日に、国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

詳しい研究内容について

水蒸気バブルで液体を意のままに操ることに成功
―泡で動かす強力マイクロバブルポンプ―

概要
 京都大学大学院工学研究科 名村今日子 助教らの研究グループは、水蒸気の小さな気泡(マイクロバブル) を使って少量の液体を一方向にポンピングすることで、急激な流れを発生させることに成功しました。
 少量の液体を自在に動かす技術の開発は、化学 医療分析技術から電子部品の冷却技術まで幅広い分野にお いて急務となっています。名村助教らの研究グループは、水をレーザー光と金ナノ粒子を使って局所的に加熱 することで、急激な流れを伴う水蒸気のマイクロバブルを発生させました。さらに、レーザー光の形を変える ことで、マイクロバブルの周りに発生する流れの向きを制御することに成功しました。その結果、流路の壁の 近くに、これまで生成が困難であった一方向の流れを発生させることができるようになりました。流れの向き や強さを任意に選ぶことができるため、この技術は少量の液体を自在に動かすマイクロポンプとして有用です。
 本研究成果は、2019 年 3 月 18 日に国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

1.背景
 
近年、少量の液体を使った研究が様々な分野において盛んに行われています。たとえば、少量の液体を使っ て化学反応や分析を行うことができれば、血液検査などにかかる時間の短縮や、検査に必要な検体の少量化に つながります。また、少量の液体を使って小さな電子部品を効率よく冷やすことができれば、スマートフォン などの中の部品の発熱による故障を避けるだけでなく、部品をさらに小型化することができると期待されます。 これらの研究において共通して重要なのは、マイクロメートル (μm マイクロは 100 万分の 1)スケールの 小さな容器に詰められた液体をどうやって自在に操るかという点です。小さな容器の中では、液体は壁面から の力を受けて動きにくい状態にあります。容器ごと振っても中の液体はなかなか動きません。そこで少量の液 体を動かす力として最近注目されているのが、マランゴニ力です。マランゴニ力というのは液体表面の表面張 力の不均一性によって働く力で、100 年以上前からその存在が知られています。例えば気体と液体の界面 (表 面)に働く表面張力は温度によって変化します。気液表面上に温度の分布がある場合、表面張力が弱い部分か ら強い部分に向かってマランゴニ力が働きます。この力は気液表面の近くの流体を動かし、マランゴニ対流と 呼ばれる流れを発生させます。
 最近、著者らは強力なマランゴニ対流を発生させる方法を報告しました。脱気 (液体中の気体を取り除くこ と)した水をレーザー光と金ナノ粒子を使って局所的に加熱すると、主に水蒸気でできたバブルが発生し、そ の周辺に秒速 1 メートル程度の非常に速い流れができることがわかったのです(K. Namura et al., Sci. Rep. 7 (2017))。この流れは少量の液体の攪拌などへの応用が期待できます。また、もし水蒸気バブルの周りの温度 分布を制御して発生する流れの向きを自由に変えることができれば、細い流路の中で液体を自在に動かすポン プとして利用できます。しかしこれまで、小さな水蒸気バブルの周りの温度を分布を制御することは困難でし た。そこで本研究では、バブルを作るための加熱スポットの形を変えることで、バブルの周りの流れの向きを 自在に操ることに挑戦しました。

2.研究手法・成果
 まず、真空超音波脱気という方法で水中に溶けている気体を取り除きました。次に、ガラス基板上に金ナノ 粒子薄膜を作製しました。この薄膜は 10 ナノメートル(nm ナノは 10 億分の 1)程度の非常に薄い層で光 を効率よく吸収し、熱に変換することができます。そのため、薄膜にレーザー光を集光するとその部分が局所 的に発熱します。また、薄膜に照射する光のスポットの形を変化させることで、熱源の形を変えることができ ます。この熱源を使って脱気した水を局所的に温め、バブルを発生させました。 図1(a)-(c)に薄膜に照射した光の強度分布を、図 1(d)-(f)にその時に発生する水蒸気バブルと対流の様子を 示しています。黒い粒は流れを可視化するために加えられた直径 2 μm のポリスチレン球です。流れの様子 をわかりやすくするために 1 秒間の間に撮影された 200 枚の顕微鏡像を重ねてあります。
 まず、薄膜にレーザースポットを1点だけ作りました (図1(a))。すると、レーザースポット上に直径が 10 μm 程度の水蒸気でできたバブルが生成しました (図1(d))。この水蒸気バブルは周囲の水を薄膜の表面に沿 って引き込み、そして薄膜表面に垂直な方向に向かって加速します。バブルが作るこの流れは非常に急激で、 バブルから数百μm 離れたところでも秒速数ミリメートル程度の速さの流れが発生します。バブルの周りにで きる流れの向きや強さはバブルの周りにできる温度分布によって決まります。図1(d)の場合、バブルには薄 膜表面に垂直な方向に温度差が生じます。そのため、バブルはその温度差を打ち消そうとして、薄膜表面に垂 直な方向に向かって周りの水を動かすのです。つまり、このバブルの周りの温度分布を変えてやれば、バブル の周りの流れの向きも変えられるはずです。そこで、レーザースポット上に生成したバブルの隣に、もう一点 サブレーザースポットを追加しました (図1(b)(c))。すると、サブレーザースポットの強度 (Psub)に応じて 流れの向きが傾いていくことがわかりました (図1(e)(f))。これは、サブレーザースポットのおかげで薄膜表 面に平行な方向の温度差がバブル表面に生まれ、その方向にも水が動かされるようになったためと考えられま す。
  流れの方向の変化をより定量的に評価するために、水に対してどの方向にどのくらいの力がかかっていたか を見積もりました。バブルの表面に働いている力を積分すると、ある大きさと向きを持った、1点に働く力と して表すことができます。このような点に力がかかっている状態を 「点力」と呼びます。この点力の周りに発 生する流れを計算すると、実験結果と非常によく一致することがわかりました (図2(a)(b))。また計算結果か ら、サブレーザースポット強度が大きくなると、基板に対して垂直な向きの力が減少し、平行な向きの力が増 大することがわかりました(図 2(c))。そして、基板表面に平行な方向には最大 0.01 μN(*)程度の力をか けられることがわかりました。この力はマイクロ流路の中で得られる力としては非常に強く、新たな流体駆動 ポンプとして有望です。さらに、サブレーザースポットの位置によって、流れの向きを基板表面に平行な面内 で 360 度自由に変えることができ、液体の自在な操作の実現が期待できます。 *N(ニュートン)は力の単位。質量 1kg の物体に作用して 1m/s2の加速度を生じさせる力。

3.波及効果、今後の予定
 本研究で著者らは、流路壁に平行な向きの非常に急激な流れを安定して発生することに成功しました。この 手法は、マイクロメートルスケールの流路が張り巡らされたチップ上の任意位置で流体を駆動する技術として 期待できます。今後バブルの生成位置や加熱方法をさらに最適化することで、より複雑な流れの生成もできる ことでしょう。さらに、本研究ではバブルや流れの発生に必要な熱源の形をフレキシブルに変えるため、金ナ ノ粒子薄膜の光熱変換特性を利用しました。しかし、熱源の形が最適化された後は、光熱変換以外の加熱方法 を使ってバブルや流れを発生させることも可能なはずです。例えば、金属細線ヒーターなどを使うことで、流れの発生を電気的に制御することもできるようになると考えられます。そうすると、この技術はプログラム可 能なマイクロ流体デバイスの要素技術としても期待できるのです。今後は、微量血液検査技術や電子部品の冷 却技術などへの本技術の応用を模索していく予定です。


 図 1. (a)-(c)薄膜に照射した光の強度分布と(d)-(f)水蒸気マイクロバブルの周りに発生する流れ。

4.研究プロジェクトについて
 本研究は、独立行政法人日本学術振興会の若手研究 A(17H04904) 基盤研究 A(17H01050)、公益財団法人 住 友財団の基礎科学研究助成(No. 161284)、およびクリタ 水 環境科学振興財団の国内研究助成(No. 16E019)の支 援を受けて行われました。

<研究者のコメント>
 
バブル 気泡はとても身近な存在ですが、その性質には 未解明な部分が多く残されています。本研究の成果では、 気泡があたかもスクリューがついた機械部品のように振 舞います。将来的に気泡などの新しい部品が現代の機械 の概念を超えた存在を作り上げることを期待します。

<論文タイトルと著者>
タイトル: Direction control of quasi-stokeslet induced by thermoplasmonic heating of a water vapor microbubble (水蒸気マイクロバブルの熱プラ ズモニック加熱によって生成した擬似点力の 方向制御) 著 者: Kyoko Namura, Souki Imafuku, Samir Kumar, Kaoru Nakajima, Masaaki sakakura, and Motofumi Suzuki
掲 載 誌: Scientific Reports 
D O I :10.1038/s41598-019-41255-5

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