小型に集積可能なフォトダイオードで受光感度21.8A/Wを達成

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5Gネットワーク装置の小型化・低消費電力化に貢献

2019-03-04 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構,技術研究組合光電子融合基盤技術研究所,沖電気工業株式会社

NEDOと技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)、沖電気工業(株)(OKI)は、光信号を電気信号に変換する素子であるフォトダイオードの小型化と高感度化を両立させる技術の開発に成功し、シリコンフォトニクス技術により他の光素子と集積可能なフォトダイオードとして、1600nm波長帯の光に対して世界最高となる21.8A/Wの受光感度を達成しました。本技術は、第5世代移動通信(5G)ネットワークのスモールセル基地局装置に搭載される光通信ユニットの超小型化・低消費電力化に貢献します。

なお、PETRAとOKIは、本成果について、2019年3月3日から3月7日に米国カリフォルニア州・サンディエゴで開催される世界最大級の光通信関連の国際学会「OFC(Optical Fiber Communication Conference)2019」で発表します。

1.概要

超高速、同時多数接続、低遅延の通信サービスを提供する第5世代移動通信(5G)ネットワークでは、基地局エリアがスモールセルと呼ばれる小さなエリアに細分化され、従来の第4世代移動通信(4G)ネットワークに比べて面積当たり約100倍の数の基地局を設置することが必要になります。多数のスモールセルを結ぶネットワークには、パッシブ光ネットワーク(PON)※1の構成を用いてスモールセル基地局を既存の光アクセスネットワーク※2に収容する方式が設備コストの観点から有望と考えられます。また、5Gネットワークを世の中の隅々まで普及させるためには、設置場所を選ばない手のひらサイズの小型のスモールセル基地局装置が必要で、それに内蔵できる超小型の光トランシーバー※3の実現が待望されています。

こうした背景から、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)、沖電気工業株式会社(OKI)は、5Gネットワーク向け超小型光トランシーバーの技術開発プロジェクト※4を進めてきました。この度、光トランシーバーを構成する主要素子の一つであるフォトダイオード※5において、小型化と高感度化を両立させる技術の開発に成功し、シリコンフォトニクス技術※6により集積可能な構造のフォトダイオードとして、1600nm波長帯の光に対して世界最高となる受光感度※721.8A/Wを達成しました。今回開発したフォトダイオードは、アバランシェフォトダイオード(APD)※8の原理を利用したもので、小型化が可能なシリコンフォトニクス技術を用いたAPDとして実用に十分な受光感度を実現した世界初の事例となります。これにより、伝送距離の長延化、収容可能な基地局数の増加など、設備コスト低減につながる効果が期待されます。

今後、本開発素子を含め、光源や光変調器などの全ての光素子をシリコンチップ上に集積化することにより、超小型光トランシーバーを実現し、5Gネットワークのスモールセル基地局装置に搭載される光通信ユニットの超小型化・低消費電力化に貢献します。

なお、PETRAとOKIは、本成果について、2019年3月3日から3月7日に米国カリフォルニア州・サンディエゴで開催される世界最大級の光通信関連の国際学会「OFC(Optical Fiber Communication Conference)2019」で発表します。

2.今回の成果

一般に、APDでは、受光に伴って発生する電子の流れを、電界をかけた増倍領域において増幅することにより高い受光感度が得られます。これまで化合物半導体を用いたAPDでは、非常に高い受光感度が達成されていましたが、他の光素子との集積化は難しく、製造コストも高くなる課題がありました。一方、他の光素子との集積化が容易で、製造コストを安価にできるシリコンフォトニクス技術を用いたAPDでは、シリコン光導波路※9の上に増倍領域とゲルマニウムからなる光吸収領域を順次積み重ね、さらに光吸収領域の上に電極を設ける構造が報告されていましたが、十分な受光感度を得ることができませんでした。

今回開発したフォトダイオードでは、光アクセスネットワークで近年利用が始まった1600nm波長帯の光に対して高い受光感度を得るために、ゲルマニウム光吸収領域上に電極を持たない構造をとることにより、光吸収領域における光損失の低減を図りました。その結果、シリコンフォトニクスにより他の光素子と集積可能な構造のフォトダイオードとして、1600nm波長帯の光に対して世界最高となる受光感度21.8A/Wを実現して、5Gネットワークに十分適用可能な性能を達成しました。

また、増倍領域をシリコン光導波路の中に設ける独自のシンプルな構造を採用したことにより、大量生産技術が確立している安価なCMOSプロセス※10での製造が可能となりました。

小型に集積可能なフォトダイオードで受光感度21.8A/Wを達成

図 今回開発したフォトダイオードの上面写真、断面模式図(左)、従来構造の断面模式図(右)

3.今後の予定

今回開発したフォトダイオードを、光波長フィルター、光変調器、送信用光源など他の光素子とともに集積すると、数mm角の超小型光送受信集積チップとなります。今後は、5Gネットワークのスモールセル基地局装置に内蔵できるよう、この光送受信集積チップを実装した超小型光トランシーバーの開発を進めていきます。

また、本集積チップの小型である特長を生かして、分光機能を集積した光学分析チップの受光素子など、センサー応用への展開も進めていきます。

【注釈】

※1 パッシブ光ネットワーク(PON)
光アクセスネットワークにおいて、収容局と加入者を結ぶ光ファイバーを分岐して、時間多重により収容局と加入者を1対多数で結ぶネットワーク構成。収容局側設備と光ファイバー線路を複数の加入者で共用するため、ネットワークの設備コストを低く抑えることができる。
※2 光アクセスネットワーク
光通信ネットワークにおいて、加入者と通信事業者の収容局を結ぶネットワーク。
※3 光トランシーバー
電気信号と光信号を相互に変換する装置。
※4 プロジェクト
  • 事業名:超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発
  • 事業期間:2013年度~2021年度
※5 フォトダイオード
光の検出器として動作する半導体素子。光信号を電気信号に変換できる。
※6 シリコンフォトニクス技術
シリコンを材料とする光素子技術の総称。従来の光素子は、ヒ化ガリウム、リン化インジウムなどの化合物半導体、または石英などの誘電体を材料とすることが一般的であった。シリコンを材料とすることにより、光素子の小型化、光素子とシリコンLSIの集積化、生産性の向上などが期待される。
※7 受光感度
光信号を電気信号に変換する効率を表す指標。フォトダイオードの場合は、発生する電流を入射光強度で割った値をA/W(アンペア/ワット)の単位で表す。
※8 アバランシェフォトダイオード(APD)
フォトダイオードの一種。光を受けて発生する電流を電界の効果により内部で増幅することで、高い受光感度が得られる。
※9 光導波路
所望の経路に沿って光を伝搬させるための光の通り道。
※10 CMOSプロセス
半導体集積回路の製造で一般的に用いられる製造工程。大量生産により製造コストを極めて低く抑えることができる。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO IoT推進部 担当:中山、大橋

PETRA 光エレクトロ二クス実装研究推進部 担当:中田

OKI 経営企画本部 広報部 岡

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:佐藤、坂本、藤本

0403電子応用1600情報工学一般
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