全固体電池実現のネックを解明

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界面抵抗低減の指針を確立し実用化の道拓く

2018/11/23  東京工業大学,日本工業大学,産業技術総合研究所

要点

  • 固体電解質と電極が形成する界面において規則的な原子配列が低抵抗界面形成の鍵であることを発見
  • 表面X線回折(用語1)により界面の構造を精密に解析
  • 全固体電池の開発指針を与え、実用化に向けた重要な一歩

概要

東京工業大学 物質理工学院の一杉太郎教授、日本工業大学の白木將教授、産業技術総合研究所物質計測標準研究部門の白澤徹郎主任研究員らの研究グループは、全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現し、その鍵が電極表面の規則的な原子配列であることを発見しました。この成果は全固体電池の開発に指針を与え、実用化に向けた重要な一歩となります。

全固体電池の開発が急速に進んでいます。固体電解質ならびに電極の材料開発が活発に行われていますが、特に、固体電解質と電極が形成する界面でのリチウムイオンの低い伝導性(高い界面抵抗)が実用化への大きな問題となっています。リチウムイオン伝導性が高い固体電解質と電極材料が開発されても、それら2つの固体材料が接触する界面での抵抗が高ければ、高速充放電可能な良い電池は開発できません。したがって、界面抵抗を低減することが非常に重要です。しかし、界面抵抗が高くなる原因は未解明であり、低減のための明確な指針はありませんでした。

本研究では薄膜作製と真空の技術を活用して、正極材料コバルト酸リチウム(LiCoO2)と固体電解質リン酸リチウム(Li3PO4)との界面を作製し、非破壊で測定できる表面X線回折を用いて界面構造を精密に調べました。その結果、高い抵抗を示す界面では結晶の周期性が乱れているのに対して、低い抵抗を示す界面は原子が規則的に配列していることを明らかにしました。

研究成果は11月22日(米国時間)に米国化学会の学術誌「ACS Applied Materials and Interfaces」オンライン版に掲載されます。

背景

リチウムイオン電池は、高いエネルギー密度(用語2)とサイクル特性IgA(用語3)を備えた二次電池として広く利用されています。しかし、LiCoO2を電極に用いた現在のリチウムイオン電池の理論容量(357 Wh/kg=重量エネルギー密度)は、次世代電気自動車が500 km走行するのに必要とされる容量(500 Wh/kg)には及ばないため、より高性能な革新的二次電池の開発が期待されています。

その候補が全固体電池です。電池は大きく正極、負極、電解質の3つで構成されます。リチウムイオン電池の電解質には可燃性の液体(電解液)が使用されているため、電気自動車用の大型蓄電池を想定し、より安全性の高い固体電解質を利用した全固体電池の早期実用化が期待されています。

しかし、全固体電池は固体電解質と電極が形成する界面の抵抗(界面抵抗)が高くなるという問題がありました。界面抵抗が高いと、大電流での使用時にエネルギー損失が大きく、高速な充放電が困難となります。そこで、全固体電池における高い界面抵抗の原因を明らかにし、界面抵抗低減の指針を得ることが緊急の課題でした。

研究の成果

研究グループは薄膜作製と真空の技術を活用し、LiCoO2エピタキシャル薄膜(用語4)を用いた理想的な全固体電池を作製しました(図1)。そして、固体電解質と正極の界面におけるイオン伝導性を評価した結果、界面の作製条件によって界面抵抗が変化し、良好な界面では抵抗が5.5 Ωcm2という極めて低い値となることを見出しました。この値は、全固体電池の従来報告の1/40の値であり、液体電解質を用いた場合の値の1/6です。このような低い抵抗の界面は、高速充電を実現することにつながります。

全固体電池実現のネックを解明

図1. 本研究で作製した全固体電池の概略図(a)と写真(b)。集電体として金(Au)を、正極としてLiCoO2を、固体電解質としてLi3PO4を、そして、負極としてLiを用いた。基板にはAl2O3単結晶基板を使用した。

得られた低抵抗界面の状態を探るため、放射光を用いた表面X線回折により固体電解質と正極との界面の構造を精密に調べました(図2)。その結果、低抵抗界面(5.5 Ωcm2)は、界面近傍においても薄膜内部と同様に原子が規則的に配列した結晶性を有することが分かりました。その一方で、高抵抗界面(180 Ωcm2)では、本来、原子が規則的に配列していたにも関わらず、界面形成時に電極表面の原子配列が乱れていたことが分かりました。

本研究で作製したLiCoO2エピタキシャル薄膜の結晶方位では、リチウムイオンは薄膜に平行な面内方向にのみ移動することができ、薄膜に対して垂直に形成される結晶粒界が薄膜内部へのリチウムイオンの通り道になります(図3)。高抵抗界面では、電極表面における原子配列の乱れにより、電極表面でのリチウムイオンの拡散ならびに結晶粒界への拡散が抑制されていることを示唆しています。

図2

図2. 表面X線回折により求めた電極と電解質の界面の電子密度。電子密度のピークが明瞭であることは原子配列が規則的であることを示している。界面からの深さ0Åが固体電解質/電極界面である。低抵抗界面(赤色)では界面近傍でも原子が周期配列しているが、高抵抗界面(青色)では界面近傍の原子配列が乱れていることが分かる。

図3

図3. 低い抵抗の界面(a)と高い抵抗の界面(b)でのリチウムイオンの振る舞いの違い。Liイオン(Li+)が固体電解質中を拡散してLiCoO2に入る様子を模式的にあらわしている。LiイオンはLiCoO2のCoO2層に到達し、その後、横に拡散して結晶粒界を通り、結晶内部に入る。今回の結果は、固体電解質に接するCoO2層の原子配列の乱れがLiイオンの拡散を抑制し、結果的に界面抵抗が上昇したと理解できる。

今後の展開

今回の成果により、全固体電池を実用化するための道筋が見えてきました。固体電解質と電極の形成プロセスを最適化することにより、極めて低い界面抵抗を得ることができました。低い界面抵抗を実現する鍵は、緻密な構造制御によって界面形成時に生じる構造の乱れを抑制し、界面での規則的原子配列を維持することです。

今回の研究で得られた知見が全固体電池の作製プロセスの改良に活用され、高性能全固体電池の開発につながることが期待されます。

なお本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)リチウムイオン電池応用・実用化先端技術開発事業、トヨタ自動車株式会社、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製」、文部科学省私立大学研究ブランディング事業「次世代動力源としての全固体電池技術の開発と応用」、JST戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ) 「エネルギー高効率利用と相界面」、科学研究費補助金(26105008、25390072、26106502、26108702、26246022、26610092、16H03864)の支援を受けて行われました。

論文情報

掲載誌:ACS Applied Materials and Interfaces
論文タイトル:Atomically Well-Ordered Structure at Solid Electrolyte and Electrode Interface Reduces the Interfacial Resistance
著者:Susumu Shiraki, Tetsuroh Shirasawa, Tohru Suzuki, Hideyuki Kawasoko, Ryota Shimizu, and Taro Hitosugi
DOI:10.1021/acsami.8b08926

用語解説

(1)表面X線回折
表面や界面にX線を照射して散乱されるX線の強度分布を測定することにより、表面や界面における原子配列を決定する方法。試料を非破壊で測定できることが特長。
(2)エネルギー密度
電池から取り出すことのできるエネルギー量の値。単位体積や単位質量などで規格化される。
(3)サイクル特性
充電と放電を繰り返したときの電池に蓄積できる電気容量の変化。容量の劣化度合が小さいほど、サイクル特性が良いと表現する。
(4)エピタキシャル薄膜
基板となる結晶の上に成長させた薄膜で、下地の基板と薄膜の結晶方位が揃っているもの。良好な界面の作製によく用いられる。
0403電子応用
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