多元合金ナノ粒子の新たな合成手法を開発

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不可能だった5種類を超える元素のハイブリッド化を実現

2018/09/24  東京工業大学,理化学研究所,科学技術振興機構(JST)

ポイント
  • 5種類以上の金属を含んだナノ粒子を合成する手法を開発
  • 多様な金属元素の種類や比率などを制御
  • 新しい物質群の発見や次世代機能性材料の創出に期待

東京工業大学 科学技術創成研究院の塚本 孝政 特任助教、山元 公寿 教授、神戸 徹也 助教、今岡 享稔 准教授、および理化学研究所の中尾 愛子 専任研究員らの研究グループは、極微小なナノ粒子中に多種の金属元素をさまざまな比率・組み合わせで配合できる「アトムハイブリッド法注1)」を開発し、これを利用した5種類あるいは6種類の金属を配合した多元合金ナノ粒子注2)の合成に初めて成功した。

従来の手法では、多元合金ナノ粒子の合成に困難があり、均一な合金化は最大でも3種類までしか達成されていなかった。「アトムハイブリッド法」により合成される物質は、多様な金属元素種に加え、ナノ粒子のサイズと混合比率も考慮すれば非常に多くの組み合わせが考えられ、新しい物質群の創成や新しい分野の開拓につながる。またこの手法を利用することで、将来的には今まで発見されてこなかった新たな機能材料の創出が期待できる。

2018年9月24日発行の英科学雑誌「Nature Communications」オンライン版に掲載される。

この研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO) 「山元アトムハイブリッドプロジェクト(山元 公寿 研究総括)」で実施された。

<背景と経緯>

多種類の金属元素を混ぜ合わせた多元合金ナノ粒子は、その多様な機能性から研究が盛んに行われている。さまざまな金属元素を自在に混ぜ合わせることができれば、高機能材料の開発や新物質の発見につながる。しかし、混合する金属の種類が多いと、ナノ粒子中で異なる金属同士が分離してしまうため、これまで最大でも3種類の金属までしか均一に混合できていなかった。

通常のナノ粒子よりもさらに小さな、粒径1ナノメートル(nm)に達する極微小粒子においては金属同士の分離が起こらず、3種類を超える合金化が可能と考えられている。しかしながら、従来の手法では、1ナノメートルの極微小領域で粒子のサイズや混合比率を精密に制御して合金ナノ粒子を合成する技術は確立されていなかった。

<研究成果>

研究グループは今回、粒径1ナノメートル程度の極微小なナノ粒子に、5種類以上の金属をさまざまな比率や組み合わせで自在に合金化できる「アトムハイブリッド法」を開発した。この手法は、樹状型の規則構造を持つデンドリマー注3)を鋳型として利用するもので、デンドリマー構造中に多種多様な金属イオンを取り込み、その金属イオンを化学的に還元することで多元合金ナノ粒子を合成する。今回、5種類および6種類の金属を配合した合金ナノ粒子の合成に初めて成功した。「アトムハイブリッド法」を適用することで、粒子のサイズや合金の混合比率を精密に制御して合金ナノ粒子を合成することができる(図1)。一方で、デンドリマーを用いない一般的な手法では、粒子サイズや混合比率を制御することが困難で、金属同士が混ざらずに分離してしまう現象が見られた(図2)。

<今後の展開>

本研究で開発した「アトムハイブリッド法」により、これまで困難とされてきたサイズと比率を制御した多元合金ナノ粒子の合成に成功した。この手法を使うと通常では混ざらない金属元素を混ぜることもできる。

現在、周期表に並ぶ元素は118種。粒子中の元素の組み合わせや比率も考慮すれば無限大の組み合わせが存在する。この手法により、今まで検討されてこなかった未知の物質群の発見・新分野の開拓が実現する。また、将来的には、この未知の物質群の中から新たな機能材料の創出が期待できる。

<参考図>

図1 新たに開発されたアトムハイブリッド法

図1 新たに開発されたアトムハイブリッド法

1ナノメートル程度のナノ粒子の中に、5種類の金属元素が混合していることが分かる。

図2 鋳型であるデンドリマーを用いない一般的な合金ナノ粒子の合成法の場合

図2 鋳型であるデンドリマーを用いない一般的な合金ナノ粒子の合成法の場合

10ナノメートルを超えるサイズに粒子が肥大化し、粒子内では金属同士が分離していることが分かる。

<用語解説>
注1)アトムハイブリッド法
デンドリマーをナノサイズの鋳型として利用し、1ナノメートル程度の多元合金ナノ粒子を合成する手法。デンドリマーの構造中には多種多様な金属イオンを、さまざまな組み合わせで取り込ませることができる。この取り込んだ金属イオンを化学的に還元することで目的の多元合金ナノ粒子を得る。
注2)多元合金ナノ粒子
多種の金属元素が混合した金属ナノ粒子で、触媒をはじめとした特異な機能を有している。従来は最大でも3種類の金属までしか均一に混合できず、また、粒子のサイズ・合金の混合比率を制御することも困難であった。今回、5種類の金属(ガリウム・インジウム・金・ビスマス・スズの混合や、鉄・パラジウム・ロジウム・アンチモン・銅の混合)や6種類の金属(ガリウム・インジウム・金・ビスマス・スズ・白金の混合)を、1ナノメートル程度の粒子中に、比率を精密に制御して混合することに成功した。
注3)デンドリマー
コアと呼ばれる中心構造と、デンドロンと呼ばれるコアから樹状に延びる側鎖構造から構成される特殊な高分子。本研究では、金属イオンを取り込むことが可能なイミンと呼ばれるユニットを、コアとデンドロンの構造中に多数組み込んだ、独自設計のデンドリマーを採用している。今回、最大で8種類の金属イオン(鉄・ガリウム・インジウム・金・アンチモン・ビスマス・スズ・白金)を同時に取り込むことに成功した。
<論文情報>

タイトル:“Atom-hybridization for synthesis of polymetallic clusters”
(多元合金クラスターの合成を可能とするアトムハイブリッド法)

著者:Takamasa Tsukamoto, Tetsuya Kambe, Aiko Nakao, Takane Imaoka, Kimihisa Yamamoto

DOI:10.1038/s41467-018-06422-8

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

山元 公寿(ヤマモト キミヒサ)
東京工業大学 科学技術創成研究院 教授

<JST事業に関すること>

古川 雅士(フルカワ マサシ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部

<報道対応>

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

科学技術振興機構 広報課

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