限定性・偏向性のあるデータから新材料を推薦するシステムを開発

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証拠理論を用いたシステムを開発し、新規合金薄膜材料合成で実証

2021-07-21 産業技術総合研究所

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概要

国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学・先端科学技術研究科 知識マネジメント領域のDAM Hieu-Chi(ダム ヒョウ チ)教授、HUYNH Van-Nam教授、NGUYEN Duong-Nguyen助教、HA Minh-Quyet大学院生、国立研究開発法人物質・材料研究機構の長田貴弘博士、知京豊裕博士、木野日織博士、国立研究開発法人産業技術総合研究所・機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センターの三宅隆研究チーム長、HPCシステムズ株式会社のNGUYEN Viet-Cuong博士、およびCompiegne工科大学(フランス)のDENOEUX Thierry教授らの共同チームは、証拠理論を用いたデータ駆動型アプローチによる新材料推薦システムを開発し、ハイエントロピー合金(多数の元素からなる複雑な組成をもった合金)の研究開発への適用および実験検証により、薄膜で新たな単相合金薄膜材料の合成に成功しました。

研究背景と内容

現在、材料研究の短期化とコスト削減は急務です。従来の実験と計算に加えて、データから価値を引き出す新たなデータ駆動型材料開発手法が注目されています。材料の組成データは、合金を形成可能な成分の組み合わせ数が膨大であることに比べて、理論計算や実験での評価数が少ないという問題があります。実験条件や計算手法の違いで、一貫性がある解釈の難しい結果を含み、報告されたデータは成功例に偏っているという特徴を持ちます。このような限定性や偏向性のため、データ科学アプローチを用いた材料研究開発では、現存するデータに導かれた結果の精度や不確かさを定量的に評価することが非常に困難です。この点は、多くの場合に外挿プロセスが必要な新材料探索の実験では、コストがかかる実験の実施数を減らし、効率的に作製条件や組成組み合わせを決めることへの障害となっています。

本研究では、関連性が明確ではないデータ群から、材料組成が関係し説明可能で合理性があるデータの関連性を抽出し、新たに有効なデータ群を構築することで、新材料の提案と合成を実現しました。材料開発に利用可能なデータ群を劇的に拡張し、材料開発を加速することができます。本研究では証拠理論(Dempster-Shafer理論)を用いて、複数のデータ源から潜在的な材料の組成に関する合理的な証拠、すなわち、未知の組成が存在する可能性を示す手がかりを収集し、その証拠に基づいて新規材料の組成を提案するデータ駆動型材料開発システムを開発しました。証拠理論は、ベイズ統計を一般化した理論でデータの不確かさを評価することができます。この理論を用いることで、合金を生成可能な組み合わせ全体の一部のデータや不完全なデータをもとに、新規材料の組成の推定が可能になりました。本研究では、新規ハイエントロピー合金の探索問題を対象としました。従来のデータ駆動型材料開発手法で用いられる材料記述子(材料の特徴を数値配列に置き換えたもの)を用いることなく、特定の元素の組み合わせに対する合金相の生成可能性に関するデータから、証拠をモデル化・収集・結合して、生成可能な新規ハイエントロピー合金を推薦する手法を提案しました。

最初に、すでに知られている合金をもとに、構成元素の一部を置き換えた新規の合金が生成できるかどうか、その可能性を定量的に評価します。この過程において、本手法は、構成元素数の少ない合金のデータから、元素数の多い合金を推薦する性能を持っています。具体的には、2~4種類の元素からなる合金の実験データと複数の理論計算による計算データを用いて、生成可能な5種類の元素からなる合金を証拠理論により推薦し、理論計算データを用いて検証しました。その結果、既存の機械学習を用いた推薦方法と比べ、提案手法は試行回数を100分の1以下に低減できることが確認できました。さらに、本手法で最も信頼度と推奨度が高かった鉄-コバルト-マンガン(FeCoMn)を含むハイエントロピー合金について、実証実験を実施しました。

実証実験では、ハイスループット材料開発技術の一つであるコンビナトリアル手法を用いました。FeCoMnR(Rは第4元素)とFeCoMnの2種類の原料をスパッタリング法により連続的に混ぜ合わせ、ひとつの基板上にRの組成が少しずつ異なる薄膜を作製することで、組成と結晶構造の関係を系統的にデータベースとして取得しました。これを組成と構造安定性の関係を効率的に検証し、提案手法で提案された材料候補群から、これまで知られていなかった体心立方構造鉄-コバルト-マンガン-ニッケル(FeCoMnNi)薄膜の合成に初めて成功しました。

本研究成果は、計算科学・実験科学・データ科学の融合を一歩進めたもので、汎用性が高く、さまざまな先端機能性材料の研究開発へ幅広く応用されることが期待できます。本研究は、イギリスの科学雑誌『Nature Computational Science』の掲載に先立ち、オンライン版(7月19日付け:日本時間7月20日)に掲載されました。

また本研究は、科学技術振興機構(JST) JST未来社会創造事業 探索加速型「共通基盤」領域研究開発課題「Materials Foundryのための材料開発システム構築とデータライブラリ作成(研究開発代表者 : 知京 豊裕)」(No. JPMJMI18G5)の成果を活用して行われました。

論文情報

雑誌名:Nature Computational Science
題名:Evidence-based recommender system for high-entropy alloys
著者名:Minh-Quyet Ha, Nguyen-Duong Nguyen, Viet-Cuong Nguyen, Takahiro Nagata, Toyohiro Chikyow, Hiori Kino, Takashi Miyake, Thierry Denœux, Van-Nam Huynh, Hieu-Chi Dam
掲載日:2021年7月19日(英国時間)にオンライン版に掲載
DOI:10.1038/s43588-021-00097-w

用語説明
◆ハイエントロピー合金
多元系で等原子量もしくはほぼ等原子量の組成を有する単相の固溶体合金。
◆スパッタリング法
薄膜材料を作製する手法の一つ。薄膜を堆積する基材に対面設置されたターゲット(薄膜にしたい物質で形成されたペレット)にプラズマ状態のArガスを衝突させ、その衝撃ではじき飛ばされたターゲット成分を基板上付着させて薄膜を作る方法 。
◆コンビナトリアル手法
1回の実験で複数の材料組成の組み合わせを持つ試料を作製、評価を行う高速材料合成・評価手法の一つ。本研究成果での作製法は、2種の材料をスパッタリング法で交互に基材に堆積する過程で金属マスクを用いることで2種の材料の合成比率を変える手法。
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