日本列島の多様な菌から農業利用可能なものを選別

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植物150種と真菌8,080系統からなる巨大ネットワーク・データ

2018/06/26 京都大学 科学技術振興機構(JST)

京都大学 生態学研究センター 東樹 宏和 准教授らの研究グループは、北海道から沖縄で採集された植物150種とその地下共生菌で構成される大規模「共生ネットワーク」の構造を解明し、農業上の利用価値が高いと期待される菌のリストを作成しました。無数の微生物が含まれるデータを俯瞰して応用可能性の高いものを一挙に絞り込む本研究の戦略は、持続可能型農業における微生物の利用を加速させると期待されます。

本成果は、2018年6月23日に英国の国際学術誌「Microbiome」にオンライン掲載されました。

本研究は、内閣府の最先端・次世代研究開発支援プログラム(「「共生ネットワークのメタゲノム解析」を基礎とする安定な森林生態系の再生」、代表:東樹 宏和、期間:2011/03~2014/03)、科学研究費・若手研究A(「地下生態系の「ブラックボックス」解明による群集理論の再検証」、代表:東樹 宏和、期間:2014/04~2018/03)、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)(「頑健な植物共生システムの設計に向けた「コア共生微生物」探索技術の開発」、東樹 宏和、期間:2016/10~)の支援を受けて行われました。

<背景>

世界人口が依然として増加し続ける一方、地球温暖化や資源枯渇、農地の劣化、新規の病原生物や害虫系統の発生といった問題が食糧生産をますます不安定化しつつあります。持続可能な食糧生産の枠組みを構築することが地球規模で求められる中、植物に共生する多様な微生物の機能を有効活用しようとする研究が注目を集めつつあります。

大量DNA配列解読装置(次世代シーケンサー)注1)が10年ほど前に登場して以降、従来の想像をはるかに超える種数の微生物が植物に共生していることが明らかになってきました。これらの植物と共生する微生物は、宿主である植物に窒素やリンを供給するだけでなく、水分・熱ストレスに対する植物の耐性や病原生物に対する植物の抵抗性を高めることが分かってきています。しかし、多様な機能を持った無数の微生物で構成される微生物叢注2)(びせいぶつそう、マイクロバイオーム(microbiome)とも呼ばれる)を制御する技術は未発達であり、科学における挑戦的課題の1つとして位置づけられています。

これまで東樹准教授は、ネットワーク科学・理論生態学・植物学・微生物学を統合するアプローチで、微生物叢全体を制御する科学的枠組みの構築を進めてきました。さまざまな微生物から構成される微生物叢は複雑ですが、その中で微生物叢全体の形成を制御している可能性のある中核的な微生物を「コア共生微生物」と定義し、その候補の絞り込みを進めています(※1・※2・※3)。その一方で、微生物の多様性を「DNAバーコーディング注3)」と呼ばれる技術で一挙に解明する手法を精緻化し(※4)、植物とその根に共生する無数の微生物で構成されるネットワーク(共生ネットワーク)の構造を解明してきました(※5・※6)。

<研究手法・成果>

植物体内には、植物のゲノムDNAだけでなく、共生する微生物のDNAも含まれています。今回、北海道から沖縄までの8箇所の森林(図2)において採集された植物150種の根からDNAを抽出し、DNAバーコーディング技術を用い、8,080系統の真菌(きのこ・かびの仲間)を検出しました。その上で、植物と真菌の共生関係を表すネットワーク(図1)の構造を推定し、このネットワーク上での位置に基づいて8,080系統の真菌系統を評価しました。

このネットワークの中では、「中心性」と呼ばれる指標で高いスコアをとる真菌ほど、共生できる植物の種数が多く、また、広い地理的範囲に分布していると推定されます(図1)。特に高いスコアを取る真菌は、草本・木本植物を問わずさまざまな植物と共生し、さらに、幅広い地域の環境に適応できる可能性を秘めていると期待されます。この分析により、幅広い作物種に対して幅広い環境条件下で安定的に共生関係を結べる真菌を絞り込むことを目指しました。

8,080の真菌系統をランキング付けしたところ、上位に位置する真菌の中には、ケートチリウム目(Chaetothyriales)やビョウタケ目(Helotiales)などに属する「内生菌注4)」と呼ばれるものが多く含まれていました。こうした内生菌についてはいまだに研究が少ない一方、作物種に強い正の効果を及ぼすもの(成長促進、病害抑制、低pHストレス耐性など)が知られつつあります。これまであまり脚光を浴びてこなかった「地味」な真菌の中に、農業上の利用価値が高いものが眠っている可能性が示唆されます。

<波及効果、今後の予定>

今回の研究成果によって、「宿主植物の範囲の広さ」および「地理的分布範囲の広さ」という2つの基準で農業での応用上注目すべき真菌を「一次選抜」することができました。今回選抜された真菌の中には、世界中に近縁種が分布するものが多く、日本だけでなく世界各地における農業上の微生物利用に貢献することが期待されます。

しかし、今回の解析だけでは、実際に個々の真菌が微生物叢をどこまで制御できるのか、また、最終的に植物の成長にどう貢献するのか、知ることはできません。微生物叢内での役割を推定する解析(※1・※2・※3)や実際に植物に接種する実験を進めて、有望な微生物の絞り込みをさらに進めていく予定です。

2050年までに食糧生産を倍増する必要性が叫ばれる中、この問題の解決に向け、微生物叢の利用を複数の学問分野を統合させて試みる学際的研究は、期待される波及効果と現在の到達段階が大きく離れている、「伸びしろの大きな」分野です。肥料や農薬にかかるコストを抑え、環境への負の効果を低減する持続可能型農業を実現する上で、多様な微生物機能を最大限に有効活用する基礎技術が求められています。

本研究で絞り込まれた真菌の中には、農作物種の生産性を高めるだけでなく、自然生態系の再生においても重要な役割を果たすものが含まれている可能性があります。農業で利用可能な微生物資源を探索する上で、自然生態系は未利用資源の「宝庫」であり、すでに破壊されてしまった自然生態系を再生する「攻めの保全生物学」が今後重要になってくると考えられます。絶滅危惧植物の健全な成長を助ける微生物についても今後研究を進め、地球上の農業生態系と自然生態系の健全な両立のあり方を模索していきます。

<参考図>

図1 北海道から沖縄にかけての日本列島に生息する真菌8,080系統とその宿主植物種で創生されるネットワーク

図1 北海道から沖縄にかけての日本列島に生息する真菌8,080系統とその宿主植物種で創生されるネットワーク

植物種(緑色の●)とそれぞれの植物から検出された真菌(その他の色の●)が線で結ばれている。高頻度で関係が観察される植物と真菌ほど近くになるよう配置されている。このネットワーク内で中心に位置する真菌は、「共生できる植物種が多い」だけでなく、「地理的な分布範囲が広い」と見なすことができる。●の大きさは、「ネットワーク中心性」を示す。

図2 調査地点

図2 調査地点

北から、北海道(天塩・苫小牧)、秋田、長野、京都、鹿児島、沖縄(沖縄本島・西表島)。

<用語解説>
注1)大量DNA配列解読装置(次世代シーケンサー)
従来のDNA配列解読装置に比べ、得られるDNAの情報量が桁違いに多い装置。2000年代半ばに登場して以降、各社が新製品を次々に発表し、生命科学で得られる情報量が飛躍的に増加した。
注2)微生物叢
多数の微生物種で構成される集まり(生物群集)。近年、医学分野で特に注目を集める研究対象となってきている。腸内に形成される微生物叢によって、宿主であるヒトの健康状態がさまざまな影響を受けることが分かってきている。植物についても、無数の微生物が根や葉、および植物体表面で複雑な微生物叢を形成することが解明されつつある。
注3)DNAバーコーディング
研究で得られたDNA配列を既存のDNA配列データベースで照合し、どのような分類群の生物に由来するものなのか同定する技術。詳しくは、<関連する先行研究成果※4>を参照。
注4)内生菌
植物体内に共生する微生物として、従来、菌根菌(マツタケに代表される真菌類)や根粒菌(窒素固定細菌)が注目を集めてきたが、それ以外にも無数の微生物が植物に共生していることが明らかにされつつある。機能がまだよく分かっていないこうした多様な植物共生真菌・細菌類は、「内生菌」と総称されることがある。
<論文情報>

タイトル:“Network hubs in root-associated fungal metacommunities”
(植物根に共生する真菌で構成されるメタ群集のネットワーク・ハブ)

著者名:Hirokazu Toju (東樹 宏和), Akifumi S. Tanabe (田辺 晶史), Hirotoshi Sato (佐藤 博俊)

doi:10.1186/s40168-018-0497-1

<関連する先行研究成果>
<お問い合わせ先>
<研究内容に関すること>

東樹 宏和(トウジュ ヒロカズ)
京都大学 生態学研究センター 准教授

<JST事業に関すること>

川口 哲(カワグチ テツ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部

<報道担当>

京都大学 総務部 広報課 国際広報室

科学技術振興機構 広報課

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