培養液を3℃加温するだけでレタスの収穫量アップ! ~植物工場におけるレタス栽培の革新的アプローチ~

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2024-04-16 東京大学

発表のポイント
  • 気温が光合成や植物の生育に大きな影響を与えることはよく知られていますが、養液栽培の培養液温度(根圏温度)が植物の代謝や生育に与える影響については不明瞭な点が多くあります。
  • 本研究では、培養液を3℃加温することによって、根からの養分の取り込みとアミノ酸代謝が促進され、養液栽培レタスの生育とカロテノイドやビタミンCなどの機能性成分が向上することが明らかになりました。
  • 本研究成果は、新産業である植物工場において、作物の生産性と機能性成分を増産させる新しい栽培法の開発に貢献することが期待されます。
発表概要

東京大学大学院農学生命科学研究科の林蒼太大学院生と矢守航准教授らは、人工光型植物工場の養液栽培において、培養液温度(根圏温度)が植物の代謝や生育に与える影響を調査しました。養液栽培とは、土を使わずに、肥料を水に溶かした液(培養液)によって作物を栽培する栽培法です(図1)。人工光型植物工場において、培養液は栽培ベッドとタンクの間を循環する“循環式”がほとんどです。本研究では、タンクの培養液を室温に対して3℃加温することによって、植物の生育促進のみならず、カロテノイドやビタミンCなどの機能性成分が向上することを明らかにしました(図1)。培養液を加温することで、葉のマグネシウムや鉄などのミネラルが増加していることから、培養液を加温することによって、根からの養分の取り込みが促進され、かつ、根では各種アミノ酸含量が増加しており根の代謝が活性化されることによって、養液栽培レタスの生育と機能性成分が向上したと考えられます。本研究成果は、新産業である植物工場において、作物の生産性と機能性成分を増産させる新しい栽培法の開発に貢献することが期待されます。


図1. 培養液を3℃加温するだけでレタスの収穫量と機能性成分が向上する

発表内容

近年、世界的な人口増加や気候変動に伴う食料不足・水資源枯渇・耕作地不足の深刻化、また、農業の担い手不足・食の安心安全性や機能性への関心増大を受け、都市型農業への期待が高まっています。太陽光を使わずに農作物の生育に必要な環境を人工的に制御し、病害虫から隔離した環境で無農薬栽培を可能にする人工光型植物工場(以降、植物工場)は、都市型農業として期待されています。植物工場では、栽培棚を多段に積む多段式栽培による空間効率の向上によって、露地栽培よりもはるかに高い単位面積当たりの収量を実現しています。また、天候に左右されず農作物を安定的に周年・計画生産することができます。さらに、環境を高度に制御することによって高付加価値をつけた作物栽培が可能です。
作物の生産性を高めるためには、植物の環境応答の仕組みを解明して、それを有効に活用する技術の開発が必要です。たとえば、栽培時に室温が植物の成長や光合成に及ぼす影響を調べた研究例は非常に多いです。一般的に、室温が低い場合や高い場合には、光合成や呼吸を含む様々な代謝反応に悪影響を及ぼすため、作物の生産性が低下することが知られています。一方で、培養液温度(根域温度)に対する植物応答を解析した研究例は極めて少なく、未だに不明瞭な点が多くあります。これまでの当研究室の研究成果として、培養液温度は水や養分の取り込み、光合成、同化物の分配など、根の様々な生理学的プロセスに影響を与えることを明らかにしてきました(Yamori et al., 2022, Plant Molecular Biology; Levine et al., 2023, Annals of Botany)。これらの研究を行う中で、培養液を室温より数℃高くすることで、植物の生育と品質が向上する可能性を見出しました。そこで、様々な室温で栽培したレタスにおいて、培養液を3℃加温することによる、植物成長や機能性成分への影響を調査することにしました。
実験材料として、レッドリーフレタス(Lactuca sativa L.,‘レッドファイヤー’,タキイ種苗)を使用しました。室温17℃、22℃、27℃、30℃の4条件下で、循環式の養液栽培システムにおいて、培養液を3℃加温する処理区と加温しない処理区を設けてレタスを栽培しました。培養液温度の3℃加温が植物の成長や代謝物に及ぼす影響を考える上で、網羅的に生理学的プロセスを解明することは重要です。そこで、本研究では、カロテノイドやビタミンCなどの機能性成分の定量の他に、植物におけるミネラル元素の取り込みを明らかにするためイオノーム解析を行い、また、代謝物の変化を網羅的に明らかにするためメタボローム解析を行いました。
4つの全ての室温条件において、培養液を3℃加温することによって、地上部乾物重と地下部乾物重が有意に増加することが分かりました(図2、以下参考図は最後に掲載)。培養液を3℃加温することによる地上部乾物重の増加率を調べたところ、室温17℃では23%増加、室温22℃では31%増加、室温27℃では18%増加、室温30℃では14%増加していることが分かりました(図2)。また、培養液の加温によって、クロロフィル、カロテノイド、アスコルビン酸(ビタミンC)などの機能性成分が向上することも明らかになりました(図3)。さらに、培養液を加温することで、根と葉の両方における可溶性タンパク量(図4)や各種ミネラル(図5A)も増加していました。特に、葉のマグネシウムや鉄などのミネラルが増加していることから、培養液を3℃加温することによって体に良いミネラル成分が増加しているのも特徴と言えます(図5A)。また、メタボローム解析の結果から、根ではグルタミン酸やアスパラギン酸などアミノ酸の合成の起点となるアミノ酸が増加していることから、培養液を3℃加温することが根においてアミノ酸の生成を促進している可能性が考えられます(図5B)。
これらの結果から、培養液を3℃加温することで、根からの養分の取り込みが促進され、かつ、根では各種アミノ酸含量が増加しており根の代謝が活性化されることによって、養液栽培レタスの生育と機能性成分が向上することが明らかになりました(図1)。本研究成果は、新産業である植物工場において、作物の生産性と機能性成分を増産させる新しい栽培法の開発に貢献することが期待されます。今後の研究において、最小の資源とエネルギーの投入で、最大の収量と品質を得るシステムを確立するとともに、環境負荷を最小限に抑える技術開発を進めていきたいと考えています。
本研究成果は2024年4月16日付でFrontiers in Plant Science誌に掲載されました。

参考図


図2.様々な室温と培養液温度で栽培したときのレタスの生育
レタスを室温17℃、22℃、27℃、30℃で栽培し、培養液温度を制御しない区(無加温)と3℃加温した区の植物写真 (A)、 地上部乾物重(B) 、そして、地下部乾物重(C)を示す。「*」はそれぞれの室温において、培養液温度の無加温区と3℃加温区で有意差があることを示す (P < 0.05)。


図3. 様々な室温と培養液温度で栽培したときのレタスの成分
レタスを室温17℃、22℃、27℃、30℃で栽培し、培養液温度を制御しない区(無加温)と3℃加温した区の植物のクロロフィル含有量 (A)、カロテノイド含有量 (B) 、そして、アスコルビン酸含有量 (C)を示す。「*」はそれぞれの室温において、培養液温度の無加温区と3℃加温区で有意差があることを示す (P < 0.05)。


図4. 室温22℃で栽培したレタスにおいて培養液温度を制御しない区(無加温)と3℃加温した区の植物の葉 (A)と根 (B)の可溶性タンパク含有量の違い
「*」はそれぞれの室温において、培養液温度の無加温区と3℃加温区で有意差があることを示す (P < 0.05)。


図5. 室温22℃で栽培したレタスにおいて培養液温度を制御しない区(無加温)と3℃加温した区の植物の葉と根における各元素量 (A)と各代謝物量 (B)の変化
培養液温度の無加温区と3℃加温区の比較において、各元素量と各代謝物量の変化で有意な増加を赤、減少を青で示す(Student’s t-test(有意水準5%))。代謝産物の変化については、代謝物名の左下は葉の代謝物の変化、右下は根の代謝物の変化を表す。

発表者

東京大学大学院農学生命科学研究科
林 蒼太 研究当時:修士課程
Christopher P. Levine Tominaga 博士課程
若林 侑 助教
河鰭 実之 教授
大森 良弘 准教授
矢守 航 准教授

プランツラボラトリー株式会社
臼井 真由美 研究当時:主任
湯川 敦之 代表取締役

理化学研究所環境資源科学研究センター
草野 都 客員主管研究員
兼:筑波大学 生命環境系 教授
小林 誠 テクニカルスタッフI
西澤 具子 テクニカルスタッフI

木更津工業高等専門学校
栗本 育三郎 研究当時:教授

発表雑誌
雑誌
Frontiers in Plant Science
題名
Raising root zone temperature improves plant productivity and metabolites in hydroponic lettuce production
著者
Sota Hayashi, Christopher P. Levine, Wakabayashi Yu, Mayumi Usui, Atsuyuki Yukawa, Yoshihiro Ohmori, Miyako Kusano, Makoto Kobayashi, Tomoko Nishizawa, Ikusaburo Kurimoto, Saneyuki Kawabata, Wataru Yamori*(*責任著者)
DOI
10.3389/fpls.2024.1352331
URL
https://www.frontiersin.org/journals/plant-science/articles/10.3389/fpls.2024.1352331/abstract
研究助成

本研究は、科研費「基盤研究(S)(課題番号:20H05687)」、「挑戦的研究(萌芽) (課題番号:20K21346)」「基盤研究(B)(課題番号:21H02171, 22H02469)」「基盤研究(C) (課題番号:19K05711)」の支援により実施されました。

問い合わせ先

(研究内容については発表者にお問合せください)
東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構
准教授 矢守 航(ヤモリ ワタル)

東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
事務部 総務課総務チーム 総務・広報情報担当(広報情報担当)

理化学研究所 広報室 報道担当

筑波大学
広報局(報道担当)

木更津工業高等専門学校
総務課総務係

プランツラボラトリー株式会社
セールス&マーケティング部

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