2018-03-12 国立天文台
私たちが住む「天の川銀河 (注1)」は、1千億個もの恒星のほかにガスや塵 (ちり) の集まりで形づくられています。夜空に帯状の雲のように見える天の川 の正体は、天の川銀河を構成する無数の星々が放つ微かな光が重なりあったも のです。天の川の中には星がほとんど見えない暗い場所が所々にありますが、これは「暗黒星雲」と呼ばれ、ガスや塵 (ちり) の集まりがその向こう側にある星の光を遮り、可視光線では真っ暗に見えることから名付けられました。可
視光線では真っ暗に見える暗黒星雲ですが、電波望遠鏡を向けるとその星雲中のガスや塵が放つ電波を観測することができます。
国立天文台の研究者を中心とする研究チームは、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45メートル電波望遠鏡と新たに搭載された受信機 (FOREST) を用いて天の川のマッピング観測を行い、詳細な天の川の電波地図作りを進めてきました。このプロジェクトは「FUGIN (注2) (風神)」と名付けられ、国立天文台をはじめ、筑波大学、名古屋大学、上越教育大学、鹿児島大学などの多くの研究所・大学の研究者で構成される研究チームによって、2014年から2017年にかけ
て進められました。
完成した天の川の電波地図は、これまでにない広範囲でかつ詳細なもので、天の川銀河の主要部を網羅する満月520個相当の範囲になります。この電波地図のデータからは、天の川銀河全体にわたる大きな構造から個々の星の誕生に直結する分子雲コアといった細かな構造まで、さまざまなスケールで星間物質の構造を調べることができます。今回の観測データを用いた初期成果では、これまでの観測データでは判別できなかった巨大なフィラメント状の分子雲の存
在や、星形成領域付近における多数のひも状のフィラメント構造の存在などが明らかになりました。これは、分子雲の収縮と星の誕生の関係を解明する鍵になると考えられます。
この天の川の電波地図は2018年6月に公開される予定で、今後の天の川銀河研究の基礎データとなることが期待されています。さらに、アルマ望遠鏡を使った詳細な電波観測や、赤外線などの多波長観測にも活用されるでしょう。このデータから生み出される新たな研究成果に期待が高まります。
注1:銀河系とも呼ぶ
注2:「FOREST Unbiased Galactic plane Imaging survey with the Nobeyama
45 m telescope」の略
概要
夜空の条件のよい場所なら私たちの目で観察できる天の川ですが、 写真を撮ってみると星があまりない場所がいくつかあることがわかります。 これは、私たちの天の川銀河にあるガスや塵(ちり)によって、 その向こう側の星の光が隠されているからです。 この見えない天の川の大規模探査を野辺山45m電波望遠鏡で実施しました。
国立天文台野辺山宇宙電波観測所梅本智文助教を中心とした、 筑波大、名古屋大、上越教育大、鹿児島大など多くの大学の研究者にて構成された観測チームは、 野辺山45m電波望遠鏡を使って、人類史上最も広大で詳細な天の川の電波地図作りを2014-2017年にかけて実施してきました。 その結果、これまでの地図に比べておよそ3倍※の詳しさで、 満月520個分に相当する大きさの地図を作成することに成功しました。 作成されたこの地図からは、天の川銀河全体という大きなスケールから個々の星の誕生に直結する 分子雲コアなどの構造までの星間物質の構造を調べることができます。 特に、これまでの地図では判別できなかった多数のフィラメント構造が存在することが明らかになりました。 これは、星の誕生に関する重要な鍵になると考えられています。
- FUGINプロジェクトで得られた電波強度マップ:
上段上:FUGINにて得られた銀経10-50度における天の川3色電波画像。
それぞれ、赤:12CO、緑:13CO、青:C18Oの分子からの電波強度を示している。
上段下:上段上と同じ領域のSpitzer衛星による赤外線画像。赤:24μm、緑:8μm、青:5.8μmの赤外線の強度を示す。
下段上:FUGINにて得られた銀経12-22度の3色電波画像。配色は上段上と同様。多数のフィラメント構造が分かる。
下段左下:W51付近の拡大図。配色は上段上と同様。
下段右下:M17付近の拡大図。配色は上段上と同様。
この電波地図は、今後の観測研究の土台となる基礎データとして使用されます。 このデータからさらに多くの新発見が生み出されると期待されます。
[研究の背景]
私たちの目で見える天の川はたくさんの星の集まりですが、天の川にあって星が見えなくなっている部分は暗黒星雲と言われ、 ガスや塵などで向こう側にある星が隠されているところです。星の光を隠しているガスは可視光などでは見えませんが、 電波では観測することが可能です。ただ、天の川の探査は、大きな望遠鏡にとってはその視野の狭さから、 小さな望遠鏡にとっては分解能の低さから、銀河スケールの大規模な構造から星の誕生に関わる分子雲コアの小規模な構造までを 同時にとらえることが難しく、星の材料となる分子ガスの進化の様子、特に、どのようにして、また、 どのようなところで星が誕生するのかを理解する上での難点となっていました。
[観測の手法]
FUGIN (FOREST unbiased Galactic plane imaging survey with the Nobeyama 45 m telescope) プロジェクトは、 従来の10倍もの観測効率をもつ新たに搭載されたFOREST受信機を使い、45m電波望遠鏡の視力を生かして、 大規模かつ最も詳細な天の川の電波地図を作るプロジェクトです。このプロジェクトは、 次世代の研究の土台となるデータを残そうという野辺山観測所レガシープロジェクトのひとつとして採択され、 2014年から2017年まで1100時間にも渡って観測を実施しました。 観測領域は、銀緯±1°以下、銀経10〜50°、198〜236 °の約83%にあたる130平方度の範囲です。 角分解能は約20秒角、分子の速度分解能は1.3km/s であり、角分解能について従来の天の川観測と比較すると、 およそ3倍の精度※となっています。12CO, 13CO, C18Oの3つの一酸化炭素同位体分子を同時に観測し、 観測した分子ガスの分布や運動の様子だけでなく、温度や密度といった性質なども一挙に調査することがすることができます。
- FUGINプロジェクトの観測領域:
野辺山宇宙電波観測所での星景写真とFUGIN観測領域(銀経10-50度)。撮影:岡部統一
[初期成果と今後]
初期成果として銀経12-22度の範囲のデータの解析から、これまでには認識されていなかった巨大な分子フィラメントが同定されました。 また、M17やW51などの星形成領域付近においてもひも状のフィラメント構造が多数存在することがわかってきました。 これらの構造は、分子雲がどのようにして収縮していくのかといった星の誕生への鍵が隠されている可能性があります。
このプロジェクトで得られた電波地図は2018年6月に公開される予定です。これからの天の川における基礎データとなり、 アルマ望遠鏡などでの電波観測だけでなく、赤外線観測などの多波長の観測にも大いに役立つことが期待されます。
※ 望遠鏡の性能によって決まるビームサイズの比較による
この研究の初期成果は、『日本天文学会欧文研究報告(Publication of the Astronomical Society of Japan )』 にて 2017年10月に掲載されました。(Umemoto et al. “FOREST unbiased Galactic plane imaging survey with the Nobeyama 45 m telescope (FUGIN). I. Project overview and initial results”)
研究メンバー:
梅本智文 (国立天文台野辺山宇宙電波観測所・助教)
南谷哲宏 (国立天文台野辺山宇宙電波観測所・助教)
久野成夫 (筑波大学・教授)
藤田真司 (名古屋大学・研究員)
松尾光洋 (国立天文台野辺山宇宙電波観測所・研究支援員)
西村淳 (名古屋大学・研究員)
鳥居和史 (国立天文台野辺山宇宙電波観測所・特任助教)
濤崎智佳 (上越教育大学・教授)
河野樹人 (名古屋大学・大学院生)
栗木美香 (筑波大学・大学院生)
津田裕也 (明星大学・大学院生)
ほか、FUGINメンバー
- FUGINチームメンバーと所属機関