ペプチドでシルク素材を高強度化

ad
ad
石油由来の高強度材料の代替としての応用に期待

2018年2月26日 理化学研究所

要旨

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター酵素研究チームの土屋康佑上級研究員、沼田圭司チームリーダーらの共同研究チームは、特殊構造を持つポリペプチド「テレケリック型ポリアラニン」をシルクフィルムに添加することで、フィルムの強度および靭性(タフネス)[1]を向上させることに成功しました。

カイコやクモ由来のシルクはさまざまな形状に成形加工することができ、生分解性や低細胞毒性を示すことから、医療用材料として実用化されています。軽量かつ強靭という特性も併せ持ち、特にクモ糸シルクは鋼鉄に匹敵する高強度を示すことから、高い機械的強度が求められる構造材料への応用も期待されています。しかし、これらの優れた力学特性を決定づける天然シルクの結晶構造は、紡糸過程で複雑かつ精巧に形成されるため、そのメカニズムはほとんど明らかになっていません。このため、人工シルクを材料として加工する際に、結晶構造を制御して優れた物性を発現させることは困難でした。

今回、共同研究チームは、テレケリック構造[2]を持つポリアラニンを化学酵素重合[3]により合成しました。このテレケリック型ポリアラニンを添加剤としてクモ由来シルクタンパク質へ混ぜてシルクフィルムを作製すると、フィルムの引張強度およびタフネスが向上することを見いだしました。原子間力顕微鏡(AFM)[4]を用いた観察により、テレケリック型ポリアラニンが通常の線状ポリアラニンに比べて高い自己組織化能[5]を持ち、ナノファイバー状の結晶形態を示すことが分かりました。さらに、作製したシルクフィルムを広角X線回折法(WAXD)[6]で構造解析した結果、テレケリック構造とシルクの結晶領域と相同性の高いポリアラニン配列の組み合わせにより、フィルム中にβシート結晶構造[7]を効果的に形成することが明らかになりました。

本手法は、ペプチド添加剤でシルク材料をコンポジット化するという簡便な手法で材料の力学的特性を制御することを可能とします。また、フィルムだけではなくさまざまな形状のシルク材料に適用できます。得られるコンポジット材料は全てバイオ由来の物質で構成されることから、既存の石油由来の高強度材料の代替としての応用することで、地球環境保護への貢献が期待できます。

本研究は、英国の科学雑誌『Scientific Reports』オンライン版(2月26日付け)に掲載されます。

本研究は、革新的研究開発推進プログラム「超高機能構造タンパク質による素材産業革命」(プログラム・マネージャー:鈴木隆領、研究課題責任者:沼田圭司)の支援を受けて実施されました。

※共同研究チーム

理化学研究所 環境資源科学研究センター バイオマス工学研究部門
酵素研究チーム
チームリーダー 沼田 圭司 (ぬまた けいじ)
上級研究員 土屋 康佑 (つちや こうすけ)

高輝度光科学研究センター
研究員 増永 啓康 (ますなが ひろやす)

背景

カイコやクモが作り出すシルクは、生分解性や低細胞毒性という特性に加えて、軽量かつ強靭な生体由来の素材です。さまざまな形状へ成形加工する技術が確立されており、従来の繊維としての利用に限らず既に医療用材料として実用化されています。さらには、再生医療材料や高強度構造材料など幅広い分野への応用が期待されています。特にクモ糸シルクは鋼鉄に匹敵する強度とよく伸びる性質を併せ持つことから、従来の材料にはない高い靭性(タフネス)を示す材料として注目を集めています。

一方、これらの優れたシルク材料の特性は材料中に形成された結晶構造に大きく依存します。すなわち、加工の段階で適切な結晶構造が材料中に形成されないと十分な物性を得ることができません。このため、用途に合わせて形状を成形加工する際には、目的とする物性を達成するために材料中に形成される結晶構造を制御することが必要となります。

研究手法と成果

共同研究チームはまず、ポリペプチドを合成する手法である化学酵素重合によって、特殊な構造を持つテレケリック型ポリアラニンを合成しました。今回は、アミノ酸配列としてクモ糸シルクのβシート結晶領域を形成するポリアラニンを選択しています(図1、模式図の赤色矢印で示す部分)。合成したテレケリック型ポリアラニンの結晶形成能について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて評価しました。その結果、同程度の分子量を持つ一般的な線状のポリアラニンと比較すると、数~数十マイクロメートル(μm、1μmは1,000分の1mm)の長さを持つ、アスペクト比[8]の高いナノファイバーを形成することが分かりました(図1)。これは、特異的なテレケリック構造により、この化合物が高い自己組織化能を持つことを示しています。

次に、この特異な自己組織化能を持つテレケリック型ポリアラニンを添加剤に用いて、クモ由来のシルクタンパク質である、ニワオニグモのクモ糸タンパク質(ADF3)の部分配列を持つ組換えタンパク質を母材としたシルクコンポジットフィルムを作製しました。得られたフィルムの機械的強度を評価した結果、ポリアラニンの添加量に応じて引張強度が増加しました。また、添加量が1%程度のときに伸びも同時に向上し、結果としてシルクのみのフィルムに比べて高いタフネスを達成することに成功しました(図2a)。線状のポリアラニンを添加剤として用いた場合も、引張強度の増加がみられたものの伸びは低下したことから、テレケリック構造が高タフネス化に有効であることが示されました。

また、広角X線回折法(WAXD)を用いた構造解析により、シルクコンポジットフィルム中に形成されている結晶構造を解析しました。その結果、テレケリック型ポリアラニンを添加するにつれて、シルクが本来持つβシート結晶に加えて、新たにポリアラニン由来のβシート結晶が増大していることが分かりました(図2b)。このことから、テレケリック型ポリアラニンは自己組織化能の高さに加えて、クモ糸タンパク質のβシート結晶を形成するポリアラニン配列と高い相同性を持つため、フィルム中において効果的にβシート結晶を形成することができたと考えられます。

今後の期待

本研究で確立したポリペプチド添加剤によりシルク材料をコンポジット化する手法は、さまざまな形状のシルク材料に用いることができます。添加するポリペプチドのアミノ酸組成や形状を工夫することで、シルク材料の物性を自在に制御することも可能です。本手法を糸や成形樹脂などのさまざまな材料へ応用することで、既存の医療分野などに限定されない幅広い応用展開が期待できます。また、得られたコンポジットフィルムは全てバイオ由来物質で構成されるため、既存の石油由来材料の代替とすることで、地球環境保護への貢献も期待できます。

原論文情報
  • Kousuke Tsuchiya, Takaoki Ishii, Hiroyasu Masunaga, Keiji Numata, “Spider dragline silk composite films doped with linear and telechelic polyalanine: Effect of polyalanine on the structure and mechanical properties”, Scientific Reports, doi: 10.1038/s41598-018-21970-1
発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター バイオマス工学研究部門 酵素研究チーム
チームリーダー 沼田 圭司 (ぬまた けいじ)
上級研究員 土屋 康佑 (つちや こうすけ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当

タイトルとURLをコピーしました