人工光合成化学プロセス技術研究組合
NEDOと人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)は、東京大学、TOTO(株)、三菱ケミカル(株)とともに、人工光合成システムの社会実装に向けて大面積化・低コスト化を実現する新しい光触媒パネル反応器の開発に成功しました。
開発した反応器は、基板上に光触媒を塗布し形成したシートを用いて、わずか水深1mmで水を安定的に分解可能です。既存の反応器に比べて反応器内の水の量を大幅に低減でき、軽量で安価な材料で製造が可能です。さらに、1m2サイズの大型の光触媒パネル反応器を試作し、自然太陽光下でも水を水素と酸素に分解できることが確認できました。これらは、光触媒パネル反応器を実用化に近づける設計の基本原理を示した画期的な成果です。
なお、今回の研究成果は、1月17日(水)(アメリカ東部標準時間)に米国科学誌「Joule」のオンライン速報版で公開されました。
1.概要
NEDOは、「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発(人工光合成プロジェクト)」※1において、太陽エネルギーを利用して光触媒によって水から得られるクリーンな水素と二酸化炭素を原料とした基幹化学品(C2~C4オレフィン※2)製造プロセスの基盤技術開発に取り組んでいます。このプロジェクトは、図1に示す3つの研究開発テーマで構成され、二酸化炭素排出量の削減に貢献可能な革新的技術開発の一つとして、中長期的に推進すべき研究に位置付けられています。
3つの研究開発テーマのうち、光触媒開発については、2021年度末に最終目標の太陽エネルギー変換効率10%を達成すべく、研究開発を進めています。その数値目標達成とともに重要なこととしては、光触媒反応システムの大面積化・低コスト化があります。大面積化・低コスト化は、太陽光を用いた光触媒による水分解反応システムの実現に不可欠であることから、研究開発の段階から検討すべき項目です。
今般、NEDOと人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)※3は、国立大学法人東京大学、TOTO株式会社、三菱ケミカル株式会社とともに、人工光合成システムの社会実装に向けて大面積化・低コスト化を実現する光触媒パネル反応器※4の開発に成功しました。
開発した反応器は、基板上に光触媒を塗布し形成したシートを用いて、わずか1mmの水深でも、実用化する上で十分な速さで水を分解して水素と酸素を放出できることを初めて確認しました。水深を浅くできたことで、既存の反応器より反応器内の水の量を大幅に低減でき、軽量で安価な材料で製造可能な構造なため、大面積化が実現できる可能性があることが分かりました。さらに、1m2サイズの大型の光触媒パネル反応器を試作し、自然の太陽光照射下の実験で水を水素と酸素に分解できることも確認できました。
今回の成果は、光触媒を用いた人工光合成システムを社会実装する上で重要な大面積化・低コスト化を実現する光触媒パネル反応器の設計に関する新たな基本原理を示した画期的な成果です。
なお、今回の研究成果は、2018年1月17日(水)(アメリカ東部標準時間)に米国科学誌「Joule」のオンライン速報版で公開されました。
詳細については、以下のWebサイトをご参照ください。
2.今回の成果
現在、粉末の光触媒を懸濁させた水溶液を用いる方式や粉末の光触媒を固定した光触媒シート、あるいは光半導体デバイスを用いた方式など、種々の水分解の方式が実験室レベルで検討されています。その際の水分解の反応器としては、光触媒シートを十分な水に浸漬した小型のフラスコ型反応器を用いて水を撹拌するものや、太陽電池による電圧で水分解をアシストし、さらにポンプ等で溶液を強制的に対流させたりするものが検討されています。反応器を実用化に向けてそのまま大面積化をしようとした場合、大容量の水を保持可能で十分な強度を有する反応器の設計が必要となり、ガラスや高強度な機能性樹脂などが不可欠となります。しかし、これらの材料を用いて大面積のものを安価に設計することは難しく、大面積化を妨げる要因の一つとなっています。そのため、水分解の光触媒パネル反応器の設計を本質的に見直す必要がありました。
今回、水分解反応活性を有するチタン酸ストロンチウム光触媒の粉末をガラス基板上に塗布して固定した光触媒シートを用いて、水深が浅く、強制的な対流も必要としない、新しい水分解用の光触媒パネル反応器を設計、開発しました(図2)。反応器には、50mm角のチタン酸ストロンチウム光触媒シートが格納され、その上面の紫外光が当たる面は透明な石英の窓となっています。その間から、数ミリメートルの水深で水が供給される仕組みです。ここで用いたチタン酸ストロンチウム光触媒は、太陽光のうち紫外光しか水分解には利用できませんが、1種類の光触媒で水分解が可能であるという優れた特長を有します。そのため、塗布により基板上に形成するだけで、光触媒パネルとして機能します。
小型光触媒パネル反応器に、実験的に紫外光を照射した場合に生成される水素と酸素のうち、水素の量を図3(a)に示しました。水深が5mmの場合と1mmの場合で大きな差は見られず、水深がわずか1mmであっても光触媒シートの水分解活性が2時間以上維持され、物質の拡散の律速などに起因する損失が生じないことが分かりました。
また、水深が1mmの場合に、紫外光の強度を上げて、水分解速度が実用化時の目標である太陽エネルギー変換効率10%に相当する状態の検討を行いました(図3(b))。太陽エネルギー変換効率10%の場合の水素生成量である3.7ml(1cm2で、1時間あたり)を支障なく生成できることが分かりました。さらに図4には、水深が1mmの場合に、窓材を(a)親水化処理した場合と(b)疎水化処理した場合の水素と酸素の気泡の発生する様子を示しました。窓材を親水化処理した場合には、細かい気泡となって連続的に流れていくことで、気泡の滞留を効果的に防止できることを見いだしました。
次に、塗布により基板上に形成した33cm角のチタン酸ストロンチウム光触媒シート9枚をパネル反応器に格納した1m2スケールの大型光触媒パネル反応器の試作も行いました。その構造を図5に、実物の外観の写真を図6に示しました。ここでは、水深を4mmとしています。水深4mmの水の重量は、1m2あたり4kgであり、従来の大容量の水を用いるものと比較して、軽量化されています。この大型のパネル反応器を用いて、0.4%の太陽エネルギー変換効率で自然太陽光により水を水素と酸素に分解することも確認しています。
今回開発した光触媒パネル反応器は、化学物質や電圧印加による外部エネルギーを投入せず、光触媒と自然太陽光のみで、1m2のサイズでも太陽光による水分解が可能であることを初めて実証しました。本成果により、将来的にはさらに大面積でかつ軽量であり、廉価なプラスチック材料を用いて大幅に低コスト化した光触媒パネル反応器を製作できるようになる可能性があります。
3.今後の予定
光触媒パネル反応器の低コスト化、大面積化の技術開発は、光触媒を用いる人工光合成システムを社会実装するために必須です。今回開発したごく浅い水深を用いるという技術は、光触媒パネル反応器の大面積化に関する新たな基本原理を示した画期的な技術と言えます。今後、2021年度末の目標である太陽エネルギー変換効率10%の達成を目指すとともに、実用化の鍵となる技術として、さらなる光触媒パネルの大面積化の開発や、ガス分離技術との一体化手法の開発を進めていきます。
【用語解説】
- ※1 二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発(人工光合成プロジェクト)
- ここでいう人工光合成とは、太陽エネルギーを用いて、相対的にエネルギーレベルの低い水や二酸化炭素等を、相対的にエネルギーレベルの高い水素や有機化合物等に変換する技術で、本プロジェクトでは、2012~2021年度の研究期間で、人工光合成に係る基盤技術開発に取り組んでいる。2012~2013年度は経済産業省、2014年度からはNEDOのプロジェクトとして実施中。
- ※2 C2~C4オレフィン
- 二重結合を1つ含む炭化水素化合物で、炭素数2から4のもの。C2はエチレン、C3はプロピレン、C4はブテンと呼ばれ、プラスチック原料等となる基幹化学品として用いられる。
- ※3 人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)
- 参画機関:国際石油開発帝石(株)、TOTO(株)、(一財)ファインセラミックスセンター
富士フイルム(株)、三井化学(株)、三菱ケミカル(株)(五十音順) - ※4 光触媒パネル反応器
- ここでは、光触媒を固定した基板を格納して水を水素と酸素に分解させる、平板状の反応器をさす。
4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 環境部 担当:服部
人工光合成化学プロセス技術研究組合 担当:西見
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:髙津佐、坂本、藤本