液晶を使って乱れた流体を視覚的に調べる

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-対流による輸送の実験研究-平成30年1月10日
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所

 水が入った鍋をコンロの火にかけると、鍋の底の水だけが温められるのではなく、全体的に水の温度が上昇します。これは、水の中に自然と生じた「対流」という流れによって、鍋の下から上へ、上から下へと円を描くような水の流れができ、暖かい水と冷たい水がかき混ぜられて、熱が別の場所へと伝わっていくためです。このような熱の輸送現象はプラズマでも起こります。大型ヘリカル装置(LHD)のような磁場で閉じ込められた高温のプラズマでは、外壁などの低温なものの影響を受けて、時間が経つにつれて中心部のプラズマの温度が下がっていきます。これは、中心部の高温プラズマと周辺部の低温プラズマをかき混ぜるような対流が生じるためです。このようなプラズマ中の対流による輸送現象は重要な研究課題であり、理論・実験・数値計算によって詳細に調べられています。その一方で、水や空気など一般的な流体とプラズマとを比較し、共通点や相違点を理解することも学術研究として大切な研究です。今回は、流体(プラズマも一種の流体)の輸送現象を視覚的に調べることができる液晶(「液」体と固体結「晶」の中間の状態)を用いた実験を紹介します。
ディスプレイに使われている液晶に電圧をかけて徐々に電圧を上げていくと、あるところで液晶に対流(これは電気対流と呼ばれる)が発生します。この対流は、対流ロールと呼ばれるロールケーキのような形をした渦が、複数個、電極面に平行に並んでいる構造をしています。電圧を更に大きくしていくと、渦(つまり、対流ロール)がより小さな渦にちぎれることを繰り返し、小さな渦が無数に入り乱れた「乱流」と呼ばれる状態へと変化します。液晶を使って実験する利点は、1. この対流ロールから乱流に変化する様子を精密にコントロールすることができること、2. 流れのパターンを観測できること、3. 拡散係数を測れることの3点です。ここで、拡散係数とは、粒子がランダムに散らばる傾向の大きさを表す指標です。拡散係数が大きいということは、部分的に高温であった場合は、そこから低温の部分に熱が伝わっていくスピードが速く、すぐに全体的に一定の温度になることを意味します。
このような電気対流の利点を活かし、まず初めに、拡散係数を測る実験を行いました。その結果、緩やかな対流から激しい乱流へ変化するにつれて、粒子の拡散係数はどんどん大きくなること、この拡散係数が、乱流の強さを表す指標の一つであるレイリー数というパラメータとほぼ比例関係にあることを観測しました。この関係は、水を用いた実験で得られる関係と全く同じであり、液晶を用いた実験で、水のような一般的な流体と同じ実験ができることが確認できました。
次に、電気対流の輸送実験と磁場閉じ込めプラズマの比較を開始しました。まだ初期的な実験ですが、電気対流を用いて、磁場がプラズマ対流の構造に影響を与えることを示唆する結果を得ています。磁場閉じ込めプラズマとの比較のための実験は、電気対流を回転するステージ(ろくろ)に乗せて行います。回転するステージに乗った電気対流にはコリオリの力と呼ばれる力が働きます。皆さんも、地球の自転によるコリオリ力によって北半球での流れは右向きの力を受けるので、台風の風向きは反時計周りになることをお聞きになったことがあるのではないでしょうか。このコリオリ力が、磁場の中をプラズマの粒子が運動する時に働く力(ローレンツ力と呼ばれる)と同じような働きをします。これまでに行った電気対流の実験では、ステージを回転させると対流構造が回転軸方向に伸びる傾向が観測されています。磁場閉じ込めプラズマでは、ローレンツ力による作用が大きいため、この傾向を極端に強くした状態にあると考えることができます。そこで、今後は、更に詳細な実験を重ね、電気対流の回転によって、対流から乱流への変化や拡散係数がどのような影響を受けるかを明らかにするとともに、磁場中のプラズマの乱流との共通性・相違性の理解を深めたいと考えています。

以上

図1 (上段)液晶に電圧をかけた場合の対流ロール構造の概念図。水色で示した2枚の電極板の間に対流ロールが形成されます。(下段)実験で観測された液晶中の対流パターン(上段の図を上から観察しています)。Vcは対流が始まる電圧です。色は視線方向の速度の違いを表しており、黄から赤になる程、速度が大きいことを表しています。電圧が低いと左の図のように複数の対流ロール(曲がったロールケーキが、並んでいます)の存在が確認できますが、電圧が上がると対流の構造が細かくなり、流れの速度も上がります。一番右の図は、強い乱流の状態を示しています。


図2 電気対流を用いた実験で得られた拡散係数の乱流強度依存性。拡散係数は、乱流が強くなると大きくなります。

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