空間を飛び回るミリメートルサイズのLED光源を実現

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~手で触れる空中ディスプレイ向けの発光画素への応用に期待~
平成30年1月9日 東京大学 慶應義塾大学 科学技術振興機構(JST)

ポイント

  • 超音波集束ビームを用いて空中浮遊・移動する直径4ミリメートルの極小LED光源を開発しました。
  • 無線給電を使用した電池の不要化と、LED点灯に必要な無線給電用受信回路の専用IC化の2点を工夫したことで小型・軽量化を実現し、超音波による微弱な力でも浮き上がらせることに成功しました。
  • 極小LED光源の空間中の移動と点灯・消灯はコンピューターから無線で制御でき、将来は手で触れる空中ディスプレイ向けの発光画素への応用が期待されます。

東京大学の高宮 真 准教授、川原 圭博 准教授、星 貴之 客員研究員と慶應義塾大学の筧 康明 准教授らの研究グループは、手で触れる空中ディスプレイ向けに3次元空間を飛び回るLED注1)内蔵のミリメートルサイズの発光体を作製することに成功し、蛍のように光ることからゲンジボタルの学名より「Luciola(ルシオラ)注2)」と名付けました。

これまでの超音波集束ビーム注3)を使用した小型浮遊物体は、騒音なく高精度に浮遊・移動できるものの、電子回路を持たず、直径数ミリメートル以下の発泡スチロール球のようなごく軽いものに限られていました。

そこで今回、無線給電注4)による電池の不要化と、LED点灯に必要な無線給電用の受信回路の専用IC注5)化の2点を工夫することで小型・軽量化を実現し、直径4ミリメートルの半球形状で重さ16ミリグラムの空中移動する発光体の作製に成功しました。世界初の「空中移動する小型電子回路内蔵発光体」の特徴を生かし、手で触れる空中ディスプレイ向けの発光画素への応用が期待されます。

なお、本研究の詳細は、論文誌「Proceedings of the ACM on Interactive, Mobile, Wearable and Ubiquitous Technologies (IMWUT)」にて日本時間1月9日(火)(米国東部標準時:1月8日(月)に、オンライン公開されました。

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業

研究プロジェクト ERATO 川原万有情報網プロジェクト
研究総括 川原 圭博(東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授)
研究期間 平成27年10月~平成33年3月

上記研究プロジェクトでは、センサーネットワークやIoT機器がより自律的で能動的な人工物として作用し、自然物と共生して新しい価値を生むための万有情報網の構築を目指します。センサーやロボットを低コストで迅速に作ることを可能とするファブリケーション技術の研究開発のほか、IoT機器のサステイナブルな動作の実現のためのエネルギーハーベスティング(環境発電)や無線給電技術の開発に取り組みます。

<発表内容>

空中に3次元映像を投影する空中ディスプレイは、ディスプレイの究極の姿として近年さまざまな方式の研究開発が進められています。これまでは鏡を利用した光学方式が主流で、3次元映像を手で触れない点が、視聴者がリアルな体験をする上での課題でした。

そこで3次元空間中を自由に移動でき、自ら発光し、そして手で触れるという3つの要件を備えたミリメートルサイズの極小発光素子を開発し、蛍のように光ることからゲンジボタルの学名より「Luciola(ルシオラ)」と名付けました。

ルシオラを実現するためには、物体の空中浮遊・移動技術と、浮遊したLEDへのエネルギー供給技術の2つが必要になります。今回、物体の空中浮遊・移動技術として超音波集束ビームを用い、エネルギー供給技術として無線給電を用いました。

人間の耳には聞こえない40キロヘルツの超音波スピーカーを17個×17個の2次元格子状に並べた17センチメートル四方の超音波アレーを2台、20センチメートル距離を離して対向して設置し、各超音波スピーカーを駆動する電気信号の位相を制御することにより2台の超音波アレーの間の空間の1点に超音波ビームの焦点を集めます(図1(a))。この超音波ビームの焦点に物体を差し入れると、物体が空中浮遊します。さらに、超音波スピーカーの位相を制御して超音波ビームの焦点を動かすと、物体をミリメートル単位の高精度で空中を移動させることができます。

超音波で浮遊させる物体は、小型かつ軽量である必要があるため、従来は直径数ミリメートル以下で、発泡スチロール球のようにごく軽く、電子回路を持たない物体に制限されていました。浮遊物体を発光させるために電池を搭載すると、大きく、重たくなってしまうため、超音波で物体を浮遊させることができないという課題がありました。

今回、無線給電による電池の不要化とLED点灯に必要な電子回路の専用IC化の2点の工夫により小型・軽量化を実現し、直径4ミリメートルの半球形状で、重さ16ミリグラムの空中移動する発光体の作製に成功しました(図1(b))。この「空中移動する小型電子回路内蔵発光体」の実現は、世界初の成果です。

エネルギー供給は、発光体の近くに設置した直径31ミリメートルの給電用コイルから、発光体に内蔵されたフレキシブルプリント基板注6)上に形成した受電用コイルに対して、12.3メガヘルツの磁界共振結合型の無線給電により行いました(図1(b)(c))。無線給電では送受電コイルの位置関係で値が大きく変動する交流電圧を、LED点灯に必要な約3ボルトの直流電圧へと整流・電圧調整する必要があります。これを市販の汎用ICを組み合わせて実現した場合、回路が大型化し、超音波で物体が浮遊しないという問題がありましたが、今回新規に開発した1ミリメートル四方のICチップに全ての電源回路を集約することで、小型・軽量化に成功しました(図1(c))。

ルシオラの特長を生かし、手で触れる空中ディスプレイの実現に向けた発光画素のデモとして、空中移動と無線給電をオンオフするタイミングを合わせて制御することにより、空中の位置に応じてLEDを点灯・消灯し、3次元空間内に文字や図形を表示したり(図2)、読者の視線の動きに合わせて本の上の空中を移動するマイクロ読書灯を可能にしました(図3)。

今後は、空中ディスプレイの表現力をより高めるために、発光物体の個数を増やすことによる発光画素の多点化に取り組む予定です。さらに、空中移動する小型電子物体に対してセンサー、アクチュエーター注7)、無線通信機能などを追加することにより、空中移動可能な小型のセンサーノード注8)としてIoT分野へ展開する研究に取り組んでいきます。

<参考図>

図1

図1

  • (a)「ルシオラ」を実現するための全体セットアップ。超音波アレーで超音波集束ビームを生成して物体を空中浮遊・移動させる。
  • (b)無線給電により空中で点灯するルシオラ。
  • (c)ルシオラに内蔵されたLED、無線給電の受電用コイル、専用ICチップ。

図2

図2

手で触れる空中ディスプレイに向けた発光画素へのルシオラの適用例。空中に英語の”L”の文字を描画した。写真の露光時間20秒。

図3

図3

発光しながら本の上の空中を移動するマイクロ読書灯へのルシオラの適用例。

<用語解説>

注1) LED
発光ダイオード。Light Emitting Diodeの略語。電圧を加えると発光する半導体素子。照明などに用いられる。
注2) Luciola(ルシオラ)
学名としてのゲンジボタル属を指す呼称。
注3) 超音波集束ビーム
超音波ビームを細く絞ったもの。
注4) 無線給電
電源からの専用ケーブルなどを使わずに無線で電力を伝送・供給する技術。
注5) IC
集積回路。Integrated Circuitの略語。1枚のシリコン半導体基板の上に、トランジスタ、抵抗、コンデンサーなどの機能を持つ素子を多数作り、電子回路を構成した電子部品。
注6) フレキシブルプリント基板
電子部品を固定して配線するために用いられる薄くて柔らかい基板。
注7) アクチュエーター
エネルギーを入力すると物理的運動を生じる装置。例えば、モーター等。
注8) センサーノード
センサーネットワークを構成する小型の機器。電池やセンサー装置、無線通信チップ、アンテナ、装置の制御やデータの記録・処理のためのIC基板などで構成される。

<論文情報>

タイトル Luciola: A Millimeter-Scale Light-Emitting Particle Moving in Mid-Air Based On Acoustic Levitation and Wireless Powering
著者 Yuki Uno, Hao Qiu, Toru Sai, Shunta Iguchi, Yota Mizutani, Takayuki Hoshi, Yoshihiro Kawahara, Yasuaki Kakehi, Makoto Takamiya (責任著者)
doi 10.1145/3161182
URL https://dl.acm.org/citation.cfm?id=3161182

日本時間 1月9日(火)(米国東部標準時:1月8日(月)に、オンライン公開されました。

なお、実験動画を下記URLにて公開します。
https://youtu.be/w3GnzpdsWUs

また、写真素材は下記URLにて公開します。
https://drive.google.com/drive/folders/18q1ngi9G5qxn443qiiOvVZc0FHeGAKfk?usp=sharing

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

對尾 健二(ツシオ ケンジ)
東京大学 大学院情報理工学系研究科
学術支援専門職員
ERATO 川原万有情報網プロジェクト 研究推進主任

<JST事業に関すること>

大山 健志(オオヤマ タケシ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部

<報道担当>

東京大学 大学院情報理工学系研究科 広報室
慶應義塾大学 湘南藤沢事務室 学術研究支援担当
科学技術振興機構 広報課

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