α線を放出する粒子の大きさをリアルタイムに計測~超高位置分解能α線イメージング検出器を開発~

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2021-08-03 日本原子力研究開発機構,東北大学未来科学技術共同研究センター

【発表のポイント】

  • 原子力施設において、α線を放出する粒子の大きさの測定は作業者の内部被ばく評価に必要ですが、これまで作業現場でリアルタイムに測定できませんでした。また、従来の手法ではα線とその他の線種の放射線との識別ができないことが課題でした。
  • 原子力機構は東北大学、三菱電機と共同で、医療分野で開発が進められている技術を応用し、16μmの位置分解能で一つ一つのα線のみをリアルタイムに可視化できる原子力用超高位置分解能α線イメージング検出器を、世界に先駆けて開発しました。
  • これにより、作業現場でのα線を放出する粒子の大きさの迅速な評価が可能になり、原子力発電所の廃止措置や核燃料施設の安全性の向上につながると考えます。
  • 今後は、本装置を様々な試料に適用することで精度の向上を図ります。さらに、福島第一原子力発電所の実試料の測定に適用し、作業現場の内部被ばく線量評価や放射線安全に貢献していきたいと考えています。
  • 本件は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業-課題解決型廃炉研究プログラム-」で実施されました。

α線を放出する粒子の大きさをリアルタイムに計測~超高位置分解能α線イメージング検出器を開発~

図1 超高位置分解能α線イメージング検出器とプルトニウム粒子のα線の可視化
高感度CCDカメラと光学顕微鏡を組み合わせ16μmの位置分解能で一つ一つのα線を重なることなくリアルタイムに可視化できる超高位置分解能α線イメージング検出器を開発しました。本検出器により、個々のα粒子からの計数計測が可能となり、迅速なα線を放出する粒子の大きさの測定が可能となります。

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 (理事長 児玉敏雄、以下、「原子力機構」) 福島研究開発部門 福島研究開発拠点 廃炉環境国際共同研究センター 遠隔技術ディビジョン の森下祐樹研究員は、国立大学法人東北大学(総長 大野英男、以下、「東北大学」)未来科学技術共同研究センターの黒澤俊介准教授、山路晃広助教(両者とも 東北大学 金属材料研究所兼務)および三菱電機株式会社(以下、「三菱電機」) 先端技術総合研究所 センサ情報処理システム技術部光電磁センサグループ 林真照 グループマネージャー、東哲史主席 研究員、笹野理 研究員、牧田泰介研究員と共同で、世界初の、原子力用超高位置分解能α線イメージング検出器の開発を行いました。

原子力施設などにおいて、どの程度の大きさのα線を放出する粒子が作業場所に存在しているかを知ることは作業者の内部被ばく評価に必要です。これまでイメージングプレート1)などが用いられてきましたが、これらの検出器ではリアルタイムの測定ができませんでした。また、イメージングプレートはα線以外の放射線にも感度を有するため、α線とその他の線種の放射線との識別が必要でした。

原子力機構は東北大学、三菱電機と共同で、医療分野等で開発が進められているα線イメージング検出器を基に、超高位置分解能α線イメージング検出器を開発しました。本装置では、α線のみを検出するために、極めて薄いシンチレータ2)と電子増倍CCDカメラ、光学顕微鏡を組み合わせました。実際にプルトニウム(Pu)3)試料に適用したところ一つ一つのα線をリアルタイムに可視化することに成功しました。また、α線の位置分解能4)として、16μmが得られ、従来のイメージングプレート(25μm)を上回る性能が確認できました(図2)。

本装置では一つ一つのα線位置が可視化できるため、そのα線の数から個々のプルトニウム粒子の計数率を直接的に評価し、 粒子の大きさ(等価粒子径5))を求める手法も考案しました。これにより、作業現場でリアルタイムにプルトニウム粒子の粒径分布6)の評価に応用することが可能になると考えます。

今後は、本装置を様々な試料に適用することで精度の向上を図り、東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の実試料の測定に適用し、作業現場の内部被ばく線量評価や放射線安全に貢献していきたいと考えています。

図2 α線の位置分解能の測定結果。各白い点はα線のスポット(左)と矢印のα線のスポットの光の強度プロファイルから評価された位置分解能(右)

【研究の背景と目的】

プルトニウム同位体のほとんどは、α核種であり、軽水炉や高速炉で混合酸化物(MOX)燃料として使用されます。プルトニウム同位体は、直径数μmの酸化物粒子(PuO2粒子)を形成します。PuO2粒子が作業現場の作業者に吸入されると内部被ばくがもたらされることになり、その内部被ばく線量は、空気力学的放射能中央径(以下、「AMAD」)7)として定義される粒径分布に依存します。このため、作業者の内部被ばく線量をより正確に評価するためには、PuO2粒子のAMADの値が必要となります。

従来、CR-39などの固体飛跡検出器8)により、α線の飛跡を数えることによってPuO2粒子の粒径が評価されてきました。CR-39は、固体に記録された飛跡を検出するため水酸化ナトリウム溶液に数時間浸されます。その後、α線の飛跡の数が測定されます。このような何時間もかかる後処理を必要とするため、CR-39は作業現場でのリアルタイム測定には適していませんでした。

イメージングプレートも従来PuO2粒子の粒径分布測定のために用いられてきました。ただし、こちらも放射線の強度に応じて数分から数時間ほど放射線を照射した後に読み取り装置で計測する必要があるため、作業現場でのリアルタイムな測定ができませんでした。また、照射後に蓄積された信号(発光量)が徐々に低下するため、その補正が必要でした。さらに、α線感度だけでなく、X線、 γ線、 β線、中性子線などあらゆる放射線に感度を有するため、α線とその他の線種の放射線との識別が課題でした。

一方、高位置分解能のα線イメージング検出器は、医療分野においてα線内用療法9)などの臨床応用のために開発されてきました。最近、高感度のCCDカメラとZnS(Ag)シンチレータ10)を組み合わせたα線イメージング検出器が開発されています[1]。しかし、α線とその他の線種の放射線が混在する原子力施設において、PuO2粒子の測定および粒径分布測定のため、これらのイメージング検出器がそのまま使われた例はありませんでした。そこで、これらの先行研究を参考にし、PuO2粒子の測定のために、新しくα線にのみ感度を有する超高位置分解能α線イメージング検出器を世界に先駆けて開発しました。実際のPuO2粒子の測定を行うとともに、測定した結果から粒径分布へと換算するための手法も考案しました。

【開発内容と成果】

今回開発した超高位置分解能α線イメージング検出器は、ZnS(Ag)シンチレータ(EJ-440、Eljen Technology製)、光学顕微鏡(BX53MRF-S、オリンパス社製)および電子増倍CCDカメラ(ImagEM X2、浜松ホトニクス社製)(以下、「EMCCDカメラ」)で構成しました(図3)。

高い位置分解能を得るために複数のカメラを比較試験し、最も信号対雑音比が良かった電子増倍(Electron Multiplying)機能付きのEMCCDカメラを選定しました。

本件ではα線のみを感知したいので、ZnS(Ag)シンチレータの厚さが最も重要となります。そこで、α線にのみ感度を持ち、X線、γ線、β線など他の線種には感度を持たないように最適の厚さとして約8μm(3.25 mg/cm2)のものを用いました。EMCCDカメラは、熱雑音11)を低減するために、-65℃に冷却し、検出器自体を、外部からの不要な光を遮断するために暗幕で覆いました。α線の入射により生じるシンチレーション光を、一定の露光時間で短い時間間隔で画像取得を行うことにより、一つ一つのα線が重なることなくリアルタイムに可視化できました。

図3 開発した超高位置分解能α線イメージング検出器。ZnS(Ag)シンチレータ、光学顕微鏡および電子増倍CCDカメラで構成。


作業者の安全に係る内部被ばく線量計算でAMADを評価するため、測定したα線の計数率をもとに、個々のPuO2粒子の等価粒子径(de)と空気力学的粒子径(dae)を評価しました。等価粒子径(de)は、考慮される粒子と同じ体積の球形粒子の直径として定義されます。α線の計数率からdeを求めるための換算曲線は放射線挙動解析コードPHITS [2]を用いて求めました。この計算体系ではPuO2粒子そのものの自己遮蔽や汚染防止のフィルムによる減衰など、実測と同様の状態を再現しました。PuO2粒子のプルトニウム同位体組成比は、過去に測定されたデータを参照しました。空気力学的粒子径(dae)は国際放射線防護委員会(ICRP) Publication66 [3]に記載の式より求めることができます。この空気力学的粒子径(dae)とPuO2粒子の放射能から、AMADを求めることができます。

図4 α線源(左)とβ線源(右)の撮像結果。α線によるスポットが確認できる。一方、β線源の場合スポットは確認されない


図4は、α線源(アメリシウム-241(241Am)、とβ線源(ストロンチウム-90(90Sr)-イットリウム-90(90Y))を撮像した結果です。α線源の場合は、α線のスポットを高い位置分解能(~16 µm)でリアルタイムに確認できました。一方、β線源の場合は、スポットが確認されず、β線に対して感度を持たないことが示されました。これは、ZnS(Ag)シンチレータの厚みを約8μm(3.25 mg/cm2)と薄くすることで、β線がシンチレータにエネルギーを付与することなく透過し、ほとんど発光しないよう設計したためです。イメージングプレートなどの従来の検出器は、長時間露光を必要とし、α線とβ線の両者に感度を持つため、α汚染とβ汚染の混在する場では両者を区別することはできず、例えば福島第一原子力発電所の廃炉現場や再処理施設での使用には適していませんでした。今回新たに開発したα線イメージング検出器はリアルタイム撮像が可能なこととβ線に感度を持たないという特徴のため、α汚染とβ汚染の混在する場でもα線のみを計測可能です。

図5 試料の光学画像とPuO2粒子のα線の分布の重ね合わせ(左)。重ね合わせによりPuO2粒子の存在位置が正確に特定できる(右、図中矢印が存在位置)

図6 α線の計数率から、PuO2粒子の等価粒子径(de)への換算

図5は、実際のPuO2粒子による撮像結果です。試料の光学画像とPuO2粒子のα線の分布の重ね合わせにより、PuO2粒子の存在位置が正確に特定できました。

プルトニウム(Pu)粒子の粒径は、その放射能に対応したα線の計数率から評価できますが、粒子径をより正確に評価するためには、α線の粒子による自己遮蔽効果や汚染防止のフィルムによる減衰を考慮する必要があります。そこでPHITSコードによりこれらの効果を考慮した計算を行い、計数率から粒径を評価する換算曲線を求めました。結果を図6に示します。これにより、リアルタイムで測定したα線の計数率から、 PuO2粒子の等価粒子径(de)への換算ができます。また、今回測定したPuO2粒子の等価粒子径(de)は6.9μmであり、従来の手法で測定された結果と比較しても矛盾はなく、妥当性を確認しました。

【波及効果と今後の展望】

原子力発電所や核燃料施設の作業現場でリアルタイムに粒径分布を評価するための超高位置分解能α線イメージング検出器を開発しました。本装置により従来使用されていた検出器(イメージングプレートやCR-39)では困難であった作業現場でのPuO2粒子の迅速な粒径分布測定が可能になります。これにより原子力発電所や核燃料施設の作業者の内部被ばく線量の評価精度の向上や放射線安全の確保に役立つと考えられます。

今後の展望として、本装置を様々な試料に適用することでデータを拡充し、他の粒径測定方法と比較することにより、さらなる換算精度の向上を図っていきます。また、福島第一原子力発電所においては、燃料デブリ取り出し作業等の進展に伴い、α粒子のモニタリングがより重要となってくると考えます。本装置を実試料の測定に適用し、作業現場のα核種の粒径分布を評価することで、内部被ばく線量評価の精度向上や作業現場の放射線安全に貢献していきたいと考えています。

【各研究者の役割】

森下祐樹(原子力機構): 研究計画立案、シンチレータ・カメラ選定、試料を用いた測定実験、解析、論文作成
黒澤俊介(東北大学):研究計画立案、シンチレータ・カメラ選定、試料を用いた測定実験、論文作成補助
山路晃広(東北大学):シンチレータに関する助言
林真照(三菱電機):カメラ及び測定実験に関する助言
笹野理(三菱電機): カメラ及び測定実験に関する助言
牧田泰介(三菱電機): カメラ及び測定実験に関する助言
東哲史(三菱電機): カメラ及び測定実験に関する助言

【書誌情報】

雑誌名: Scientific Reports(3月15日オンライン版に掲載)

論文題名: “Plutonium dioxide particle imaging using a high-resolution alpha imager for radiation protection”(放射線防護のための高位置分解能α線イメージング検出器を用いた二酸化プルトニウム粒子のイメージング)

著者名: Yuki Morishita1, Shunsuke Kurosawa2,3, Akihiro Yamaji2,3, Masateru Hayashi4, Makoto Sasano4, Taisuke Makita4, Tetsushi Azuma4

所属: 1日本原子力研究開発機構廃炉環境国際共同研究センター、2東北大学 未来科学技術共同研究センター、3東北大学 金属材料研究所、4三菱電機株式会社

DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-021-84515-z

【参考文献】

[1] T. Back & L. Jacobsson, The α-camera: a quantitative digital autoradiography technique using a charge-coupled device for ex vivo high-resolution bioimaging of α-particles. Journal of Nuclear Medicine, 51(10), 1616-1623 (2010).

[2] ICRP, Human respiratory tract model for radiological protection, ICRP Publication 66. Ann. ICRP 24 (1-3) (1994).

[3] T. Sato et al., Features of particle and heavy ion transport code system (PHITS) version 3.02, J. Nucl. Sci. Technol. 55, 684-690 (2018).

本報告は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構「英知を結集した原子力科学技術・ 人材育成推進事業-課題解決型廃炉研究プログラム-」令和2年度「アルファダストの検出を目指した超高分解能イメージング装置の開発」(研究代表:国立大学法人東北大学)の成果です。

【用語解説】

1) イメージングプレート:
放射線に感度のあるシート状の放射線測定器。X線フィルムの代替として開発された。イメージングプレートはα線、β線、X線およびγ線の放射線全般に感度がある。専用の読み取り装置で読み取り、繰り返し使用できる。最小の位置分解能は読み取り装置の性能にもよるが、25μm。

2) シンチレータ:
放射線があたると蛍光を出す物質のこと。

3) プルトニウム(Pu):
プルトニウムの同位体のほとんどがα放射体である。プルトニウムが人間の体内に入ると内部被ばくを起こすので厳重な管理が要求される。

4) α線の位置分解能:
画像上のα線位置がどこまで細かい位置まで分解できるかを示す指標のこと。α線のスポットの広がりの半値幅、2分の1の高さにおけるピークの広がり幅で表される。

5) 等価粒子径:
Equivalent volume diameter (de)は、同じ体積の球形粒子の直径として定義されている。

6) 粒径分布:
ダストなどの多数の粒子の集まりには、様々な大きさの粒子があり、その大きさには分布がある。この粒子の集まりの代表的な粒子の大きさを決めるために粒径分布を測定する必要がある。

7) 空気力学的放射能中央径(AMAD):
内部被ばく線量の評価に使用されるエアロゾル全体を表す代表的な値。空気力学的粒子径(密度1の球に換算した直径)の度数分布の放射能の中央値として表される。

8) 固体飛跡検出器(CR-39):
プラスチックなどの固体の中をα線などの放射線が通過するとその飛跡に沿って損傷が生じ、化学処理を行うと損傷部分が広がり貫通孔ができる。その形状と個数を観察することで放射線を計測する。代表的なものにCR-39プラスチック検出器などがある。

9) α線内用療法:
α線を出す放射性の医薬品として体内に取り込み治療する手法。

10) ZnS(Ag)シンチレータ:
無機シンチレータの一つ。白色の粉末状であり透明基板上に薄く塗布する。α線の測定に広く用いられる。

11) 熱雑音:
CCDセンサの温度が高くなることにより生じる雑音(熱雑音)のこと。光入力のない状態でもこの雑音の信号出力があり、CCDセンサを冷却することによってこの熱雑音を減らすことができる。

2005放射線防護
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