エッジとデータセンターの連携による分割処理で機器コストを抑えて製造現場のDXを実現
2021-03-24 株式会社富士通研究所
株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、作業員のモニタリングによる作業効率化や品質向上などの加速が期待される製造現場の業務変革に向け、ローカル5Gを活用して、広大な工場全体に設置される多数のカメラで取得した大量の映像データを高速に解析可能なシステムの自動設計技術を開発しました。
従来、映像解析処理は、現場に設置した高価なGPU(注2)を搭載したサーバー(以下、GPUサーバー)上で行っていましたが、今回開発した技術では、この処理を工程別に分割してコンテナ化し、安価なエッジサーバーと、データセンターに集約したGPUサーバーとで効率的に連携させて実行させます。さらに、コンテナごとに必要な映像解析処理量に応じたCPUのクロック周波数やGPU能力などのリソース要件を設定できるようにすることで、高速性を保ちながらエッジサーバーとデータセンターに自動的に配備されるように設計することが可能となります。これにより、各現場のエッジサーバーにおける映像処理の負荷変動をデータセンター側で吸収し、ピーク時を想定したサーバー台数を整備することなく、最大3分の1までシステム全体のコストを削減できます。
当社は、本技術を様々な製造現場に展開していくことで、リアルタイムな映像解析によりカイゼン活動を加速し、現場業務のDXを支援していきます。
開発の背景
製造現場では、データ収集が困難な手作業の組み立て工程などにおいて、カメラとAI を使った映像解析を活用し、作業手順ミスや危険な動作などをリアルタイムに検出し、作業員にすぐに知らせることで、作業品質や効率を向上させ、カイゼン活動を加速させる取り組みが進んでいます。さらに、高速大容量な無線技術であるローカル5Gの活用によって、工場全体の映像を収集できるようになり、現場業務のDXが飛躍的に進展することが期待されています。
課題
従来、深層学習などのAIを使った映像解析は、映像処理や深層学習の演算を得意とする高価なGPUサーバーを、ピーク時の処理負荷を満たす規模で各現場に設置する必要があるため、工場全体に設置した多数のカメラ映像を解析するには、莫大な機器コストがかかる問題がありました。また、映像に映る解析対象の増減や、現場業務の作業変更に伴うAIのロジック変更などにより、映像解析の処理負荷がシステムの運用開始後に大きく変動した場合に、システム構成を容易に変更できないなど運用面においても問題があり、大規模な映像解析の実施が困難となっていました。
開発した技術
今回、エッジとデータセンターで映像解析処理を連携させ、各エッジにおける映像処理の負荷変動をデータセンターで吸収することで、エッジに設置するサーバー台数を必要最小限に留めるとともに、ピーク時を想定し処理性能を最適化したシステムを自動で設計する技術を開発しました。
図1. エッジとデータセンターの連携によるシステムコスト削減効果
一連の映像解析処理を、入力処理や色調整などの前処理、AIによる解析処理と、表示などの後処理に分割してコンテナ化することで、処理ごとに分散して、リソース要件を満たす適切なサーバーに自動で配備できるようにしました。リソース要件については、必要なCPUのコア数やメモリ量だけでなく、CPUのクロック周波数やGPUの性能など、従来の自動コンテナ配備技術では対応できない、映像処理特有の要件までパラメーターとして扱えるようにしました。その上で、エッジとデータセンター間の通信量が最も少なく、かつ各処理のリソース要件を満たすように、各コンテナの配備先をエッジとデータセンターにある様々なスペックのサーバーの中から自動で判断します。これにより、エッジとデータセンターを連携させたシステムにおいて、解析性能を保証しながらエッジに設置するサーバー台数および処理性能を必要最小限に抑えることができ、サーバーを含むシステム全体のコストを軽減することができます。
さらに、複数のコンテナを1つのGPUで同時に実行可能にし、各コンテナでの処理におけるリアルタイム性の要求度合いに応じてスケジューリングすることで、データセンターのGPU利用率の効率化も実現しました。
図2. エッジとデータセンターを連携させたシステムの性能を最適化する設計技術
効果
今回、作業品質の強化を目的に、組立工場を想定した実験環境において、16台分のFull-HDカメラで撮影した作業員の行動の映像から、組付け作業ミスと運搬物の滞留をAIで検出する映像解析システムを構築しました。16台のエッジサーバーとデータセンターを連携させたシステムを本技術で設計することで、数秒で作業ミスなどをフィードバックでき、かつサーバーを含むシステム全体のコストを最大3分の1まで削減できることを確認しました。本技術を用いることで、低コストでリアルタイムな映像解析システムの構築が可能となります。
今後
ローカル5Gを導入した工場など、様々な製造現場での本技術の実証を進め、2022年度内に実用化を目指します。そして、リアルタイムな映像解析による現場のDX実現に貢献します。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
注釈
注1
株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 原 裕貴。
注2
GPU:
Graphics Processing Unitの略。大量の並列演算処理が可能なプロセッサで、画像や動画の処理、AIやディープラーニングの認識処理、学習処理の高速化が可能。
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
デジタル革新コア・ユニット