電子温度1億5,000万度イオン温度8,000万度のプラズマを実現

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重水素プラズマの同位体効果で電子温度が上昇

2020-04-17 核融合科学研究所

概要

大型ヘリカル装置(LHD)の重水素プラズマ実験で、電子温度1億5,000万度の高性能プラズマを生成することに成功しました。この時のイオン温度は8,000万度でした。これは、核融合条件の一つである1億2,000万度を、電子温度については大きく超えるとともに、イオン温度についてもその条件に近い値を保持しています。この結果により、LHDで生成されたプラズマの温度領域が大きく拡大しました。高い電子温度はプラズマ中心部から外に向かう熱の流れを堰き止める「障壁」が形成されることによって実現しました。そして、この高い電子温度を得るために必須である障壁は、重水素プラズマの方が軽水素プラズマより形成されやすいという「同位体効果」が観測されました。今回の成果によって、イオンと電子の温度が共に1億2,000万度以上となるプラズマを、ヘリカル型装置で実現するというLHDの最終目標に向けて研究が大きく前進しました。

研究の経緯

石油に代わるクリーンなエネルギー源として、太陽や恒星のエネルギーと同じ核融合反応を利用した発電の研究が各国で行われています。核融合発電を実現するためには、1億2,000万度以上という高温のプラズマを生成して閉じ込める必要があります。イオンと電子で構成されるプラズマの閉じ込めには磁場を用います。その方式にはトカマク型※1とヘリカル型※2があり、トカマク型の装置では既に上述の温度を、重水素を用いた実験で達成しています。重水素を用いると、通常の軽水素を用いた場合と比較して、プラズマの性能が向上することが、これまでに行われた実験で示されており、これは、軽水素と重水素が同位体であることから、「同位体効果」と呼ばれています。
ヘリカル型装置においても1億2,000万度の達成は喫緊の課題です。このためLHD(図1)では、2017年より「重水素プラズマ実験※3」を行っており、これまでにイオンの温度を1億2,000万度まで高めることに、ヘリカル型装置として世界で初めて成功しました。しかし、イオン温度1億2,000万度の時の電子温度の最高値は6,400万度と低い値にとどまっていました。将来の核融合炉のプラズマは、イオン温度と電子温度が共に1億2,000万度以上になることが予測されることから、両温度が共に十分に高い「核融合炉級高性能プラズマ」を実現して研究を行うことが求められています。このため2019年度の実験では、電子温度の上昇を目指しました。

電子温度1億5,000万度イオン温度8,000万度のプラズマを実現

図1 大型ヘリカル装置(LHD)の概観。らせん状の超伝導コイル(ヘリカルコイル)を用いてプラズマを閉じ込める。

電子温度を上昇させるためには、加熱手法の最適化が有効です。更にそれに加えて、プラズマ中の「熱の流れ」に注目する必要もあります。プラズマの温度は中心部で高く、外に向かうほど低くなっています。熱は温度の高い方から低い方へ向かって流れるという性質があるため、プラズマ中心部の温度を高く維持するためには、プラズマ中心部から外に向かって流れる熱量を可能な限り少なくする必要があります。そこで、中心部を取り囲むような障壁を作って、熱の流れを堰き止めることが有効だとされており、この障壁を「輸送障壁」と呼びます。プラズマ中に輸送障壁を意図的に作ることは極めて困難ですが、しばしば自発的に形成されることが、これまでの世界のプラズマ実験装置で示されています。LHDでも過去の軽水素プラズマ実験において、電子の熱を堰き止める輸送障壁の形成が観測されています。しかしその時の温度は、電子温度、イオン温度共に今回より低い値でした。重水素プラズマ実験によって、高イオン温度を維持した状態で、電子の輸送障壁の形成を示すことができれば、核融合炉級高性能プラズマ実現に向けた大きな一歩となります。

研究成果

プラズマの電子温度を上昇させるためには、マイクロ波と呼ばれる電波をプラズマに入射して電子を加熱します。より高い電子温度を得るためには、加熱電力(パワー)が高いほど好都合ですが、今回の実験では、マイクロ波の発振管を調整してパワーを約2倍に増やすとともに、マイクロ波の入射角度や入射タイミングを調整して、パワーがプラズマ中心部の電子を集中的に加熱するようにしました。その結果、プラズマ中心部の電子温度を、核融合条件を大きく超える1億5,000万度まで上昇させることに成功しました(図2)。この電子温度は、プラズマの中心付近に形成された輸送障壁(図2中の黄色の部分)が、熱の流れを堰き止めることで実現しました。この時のイオン温度も8,000万という高温を維持しており、この結果は、高イオン温度を維持した状態で、電子の輸送障壁が形成されたことを示しています。

図2 実験で得られた重水素プラズマの電子温度及びイオン温度の分布。プラズマ中心(プラズマ半径が0の位置)付近で、電子温度が1億5,000万度以上に達しています。中心付近の電子を加熱するため、電子温度は中心から外に向かうほど低くなりますが、その減り方が半径0.05m付近で急激に変化しています。これは、中心部から外に向かう熱の流れがこの辺りで堰き止められていることを示しています。これが輸送障壁で、この障壁が形成されたことにより、中心付近の電子温度を1億5,000万度に上昇させることができました。また、イオン温度も8,000万度という高温を維持しています。

今回の実験で、LHDで生成したプラズマの温度領域は大きく拡がりました。図3に、これまでの電子温度、イオン温度領域の変遷を示します。オレンジ色で塗った部分が今回の実験で拡がった領域です。電子温度領域が1億5,000万度まで大きく拡がっていますが、ここで重要な点は、高いイオン温度を維持したまま、電子温度が上昇したことです(オレンジ色矢印)。それに対し、水色で塗った部分が示す軽水素実験では、電子温度が上昇するに従って、イオン温度が急激に低下しています(水色矢印)。これらの結果は、2018年度までの実験結果と同様に重水素プラズマの方が、軽水素プラズマより性能が高いことを示しています。
また、電子温度の上昇をもたらす輸送障壁の形成について、重水素プラズマと軽水素プラズマの詳細な比較実験を行いました。障壁の形成には電子の加熱パワーがある程度必要ですが、重水素プラズマの方が、軽水素プラズマより低い加熱パワーで輸送障壁が形成されることも分かりました。つまり、重水素プラズマの方が、輸送障壁が形成されやすいという同位体効果が明らかになりました。

成果の意義と今後の展開

今回の重水素実験では、高いイオン温度を保ったまま電子温度を1億5,000万度まで高めることに成功するとともに、電子温度の上昇に必須である輸送障壁が、重水素プラズマの方が軽水素プラズマに比べて形成されやすいという同位体効果が明らかになりました。これにより、LHDプラズマで実現した温度領域が大きく拡大し、核融合炉級高性能プラズマをヘリカル型装置でも実現できる見通しが得られました。今後は加熱装置の増強と最適化、ならびに、同位体効果のメカニズムの解明を進め、LHDの最終目標であるイオン温度、電子温度共に1億2,000万度以上の同時達成を目指して研究を加速させていく予定です。
さらに、将来の核融合発電の実現には、高性能プラズマの「定常維持」も重要な課題です。LHDは定常運転が本質的に可能であることから、この定常維持を目指す研究においても、世界の核融合研究を先導していきます。

図3 LHDで生成されたプラズマのイオン温度・電子温度領域。オレンジ色で塗った部分が今回の実験で拡がった領域です。

【用語解説】

※1 トカマク型
プラズマが磁力線に巻き付いて運動するという性質を利用して、磁力線で編んだカゴ状の磁気容器内に高温・高密度のプラズマを閉じ込める、磁場閉じ込め方式の一つ。コイルで作られるドーナツ状の主磁場に加え、プラズマ自身に電流を流し、その電流が作る磁場で、プラズマ閉じ込めに必要なねじれた磁場構造を作る方式。ねじれた外部コイルが不要なため、ヘリカル方式に比べ、コイルの構造が単純となる。

※2 ヘリカル型
プラズマが磁力線に巻き付いて運動するという性質を利用して、磁力線で編んだカゴ状の磁気容器内に高温・高密度のプラズマを閉じ込める、磁場閉じ込め方式の一つ。ドーナツ型のプラズマ閉じ込め容器の周りにらせん状のコイルを巻いて、それに電流を流してプラズマ閉じ込めに必要なねじれた磁場構造を作る方式。パルス運転(短時間運転)となるトカマク方式に比べ、定常運転性能に優れる。

※3 重水素プラズマ実験(重水素実験)
重水素ガスを用いて生成したプラズマを用いる実験。重水素は、軽水素と同じ電荷を持っており、化学的な性質は同じであるが、質量が軽水素の2倍と重く、同位体と呼ばれている。トカマク装置における実験から、軽水素プラズマよりも、重水素プラズマの方がより高い性能が得られると言われている。

2003核燃料サイクルの技術
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