2020-01-17 国立天文台
本研究の概念図。太陽系外起源の天体(赤)と、オールトの雲を起源とする天体(青)。後者は、木星質量程度の他の天体(白)の影響で極端な双曲線軌道を描く場合を表しています。(クレジット:国立天文台) オリジナルサイズ(3.9MB)
近年立て続けに発見された極端な双曲線軌道を描く天体は、太陽系外から飛来したと話題になっています。このような天体はほんとうに太陽系外起源の天体、つまり恒星間天体なのでしょうか。天体の軌道の進化と分布に着目した研究の結果、これらの天体は太陽系外起源である可能性が高いことが分かりました。
2017年に発見されたオウムアムア天体(1I/’Oumuamua)、2019年に発見されたボリソフ彗星(すいせい)(2I/Borisov)は、太陽系内の天体に比べて速度が異常に速く、極端な双曲線軌道を描いていて、再び太陽系内には戻らない天体です。いずれも太陽系の外から飛来したと考えられていますが、それ以外の可能性として、「オールトの雲」の中の小天体が、他の天体の影響を受けて高速になったとも考えられます。オールトの雲は、太陽から1000 – 10万天文単位(1天文単位は地球と太陽の平均距離)の距離にあると推定されています。
国立天文台の研究者らは、恒星間天体が太陽系に突入してくる場合と、オールトの雲の天体が他の天体の重力で加速される場合とについて、どの程度の確率でどういった軌道になるかを調べました。その結果、オールトの雲の中を木星の数倍程度の質量を持つ他の天体が最近通過した場合を除き、太陽系内の天体が異常に速い速度を得ることは難しいことが分かりました。もしも、太陽系の近くをそれほど大きな天体が通過していれば、近年精力的に行われているサーベイ観測で検出されているはずです。しかし実際には検出されていないことから、極端な双曲線軌道を描く天体は、太陽系外に起源がある可能性が高いと言えるのです。
ただし、検出できないほど暗く大きな天体が恒星間の空間にあるとすれば、オールトの雲の中をそういった天体が通過した可能性は否定できません。この場合も、オールトの雲の天体の軌道に影響を及ぼしたのは太陽系外起源の天体ですから、その分布や数に対する情報が得られることになります。
今後も極端な双曲線軌道を描く天体の発見が続くと期待できます。これら太陽系外起源の天体について、質量や明るさ、速度の分布の理論研究が進むと、太陽系の内と外との関係についてより詳しい議論ができるようになると期待されます。
この研究成果は、Higuchi & Kokubo “Hyperbolic orbits in the Solar system: interstellar origin or perturbed Oort cloud comets?”として、2019年11月11日に英国の王立天文学会誌のオンライン版に、また2020年2月号に掲載されました。