急成長中の巨大ブラックホールの周辺構造が見えてきた

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2023-07-19 国立天文台

本研究の概念図本研究の概念図。銀河の中心にある急成長中の巨大ブラックホールからは、ジェットや円盤風が噴出している。ブラックホール近傍から放たれた電波は、周辺にある磁場を伴ったガスを通過する際に、偏波面が回転して観測される。(クレジット:国立天文台) オリジナルサイズ(6.2MB)


急激に成長している巨大ブラックホールの近傍から放たれる電波を、VERA望遠鏡を用いた観測で詳細に捉え、電波が周辺のガスから受ける影響を明らかにすることに成功しました。巨大ブラックホールの成長・進化の仕組みを理解する上で大きなヒントを与える成果です。

銀河の中心には、質量が太陽の数百万倍から百億倍にも及ぶ巨大ブラックホールが存在しています。しかし、このような巨大ブラックホールがどうやって成長してきたのかはまだ解明されておらず、天文学の大きな謎の一つとなっています。

「狭輝線セイファート1型銀河」(以下、NLS1)は、活動銀河核を持ち可視光線で特異なスペクトルが観測される銀河です。このNLS1には、まだ比較的質量が小さく、周辺のガスを勢いよく取り込みつつある、いわば急成長中の巨大ブラックホールが存在すると考えられています。しかしNLS1が放射する電波は、クエーサーや電波銀河のような、より巨大なブラックホールが存在する銀河に比べて弱いため、中心部のガスの分布といった詳しい様子はこれまで観測されていませんでした。

巨大ブラックホール近傍のガスが放つ電波は、一般的に偏波(可視光線でいう偏光)と呼ばれる特定の方向に偏った振動をする特徴があります。この偏波がブラックホール周辺にある磁場を伴うガスを通過するとき、偏波面が回転する「ファラデー回転」という現象が起こります。この回転量は、ガスの密度や磁場の強さによって変化するため、巨大ブラックホール周辺のガスや磁場の分布を探るための重要な手掛かりになります。ファラデー回転について、十分に成長した巨大ブラックホールが存在する銀河ではよく調べられていましたが、NLS1ではほとんど観測例がないため、ブラックホール急成長の謎を解くための残された鍵とされていました。

国立天文台で研究を進める東京大学大学院理学系研究科 博士課程の高村美恵子(たかむら みえこ)さんを中心とする国際研究チームは、地球から比較的近い距離にある6つのNLS1に着目し、それぞれの巨大ブラックホール近傍の詳しい様子を、国立天文台が運用するVLBI観測網のVERA望遠鏡を用いて観測しました。VERA望遠鏡が持つ高い分解能に加えて、新たに開発された「広帯域・偏波受信システム」によって、これまで観測が困難だったNLS1の中心からの微弱な偏波を検出し、さらにNLS1からの偏波のファラデー回転を導き出すことに初めて成功しました。

今回の観測の結果から、NLS1のファラデー回転の回転量は大きく、ブラックホール近傍から放たれた電波が、磁場を伴ったガスの影響を大きく受けていることが推測できます。また、NLS1中心のブラックホールの近傍にガスが豊富に存在することを、これまでで最も高い解像度による観測で裏付けています。NLS1の質量は、十分に成長した巨大ブラックホールに比べると10分の1ないし100分の1程度しかありませんが、いずれより大きなブラックホールへと成長し、クエーサーのような極めて明るく輝く天体になる可能性を示唆しています。

本研究成果は、Takamura et al. “Probing the Heart of Active Narrow-line Seyfert 1 Galaxies with VERA Wideband Polarimetry”として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載されました。

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